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その広告費用対効果は妥当か?「Hulu」が進めるインクリメンタリティ起点のアプリマーケティング

 サービスの利用ユーザーを増やすために活用されている「アプリプロモーション(広告)」。同カテゴリーは、計測・評価をしやすく、CPIやROIを見ながら、適切な投資判断を行いやすいと考えられてきた。しかし、現在も本当にそれが正しいのだろうか。本記事は、動画配信サービス「Hulu」を展開するHJホールディングス株式会社の戎翔平氏と、全自動マーケティングプラットフォーム「UNICORN」を提供するUNICORN株式会社の神田佑貴氏が対談。「Hulu」の事例から、今あるアプリプロモーションの課題、その解決策、取り組みについて伺った。

マーケティング活動におけるアプリプロモーションのポジション

──はじめにHuluの紹介と、貴社のマーケティング戦略、特にデジタル領域についてお聞かせください。

戎(HJ):Hulu」は、オンライン動画配信サービスです。ドラマやバラエティ番組の見逃し配信やHuluオリジナル作品、アニメや映画など様々なジャンルのコンテンツを提供しており、幅広い世代の方々に支持されています。

 HJホールディングス株式会社 マーケティング本部 マーケティング部 マネージャー パフォーマンスマーケティング 戎 翔平(えびす・しょうへい)氏
HJホールディングス株式会社 マーケティング本部
マーケティング部 マネージャー パフォーマンスマーケティング 戎 翔平(えびす・しょうへい)氏
広告代理店を経てHJホールディングスに。アプリプロモーションやCRM領域に従事し、現在は獲得領域のマネージャーを務めている。

戎(HJ):マーケティング戦略は、「サービスブランディング」「作品宣伝」「ユーザー獲得」の3つを軸に、フルファネルでコミュニケーションを展開しています。

 特に「ユーザー獲得」の領域では、アプリプロモーションのシェアが増加しています。新規ユーザー、ダウンロード済みで未登録のユーザー、そして解約済みユーザーなど複数のステータスに向けて、アプリの特性を活かしたプロモーションを実施中です。作品のPR映像をメインに各プラットフォームに広告配信し、アプリのダウンロードや登録につなげています。

「Hulu」が考えるアプリプロモーション課題

──昨今のアプリプロモーションにおいての課題はありますか。

戎(HJ):主に2つの課題に直面していると考えています。1つ目は広告効果測定の信頼性の問題です。アトリビューションの価値が広告メニューや指標によって異なることに加え、プライバシーポリシーの改正により、成果の妥当性を正確に判断することが困難になってきています。

  2つ目は、CPAを重視するあまり、顕在層への広告配信ボリュームが偏ってしまっている点です。それにより、本来広告を出す必要のないユーザー層にまで配信をしてしまっている可能性があると考えています。

 たとえば、検索連動型広告の商標KWなどオーガニック流入の割合が不明確なままでは、広告予算を効率的に活用できているのかに疑問が生じますが、これはラストタッチ評価に起因する課題だと考えられます

ラストタッチ計測の課題 クリック/タップで拡大
本来、広告出稿する必要のない分まで広告出稿してしまっている可能性がある(クリック/タップで拡大)

──UNICORNとしては、どのように考えますか。

神田(UNICORN):広告効果測定に精度低下が見られます。モバイルアプリ広告の成果計測は、MMP(Mobile Measurement Partner)を活用しますが、そのMMPでの獲得数値と、広告主が管理している数値、各プラットフォームの数値との間に、徐々に乖離が生じています。これはiOSの場合、主にユーザープライバシー機能であるATT(App Tracking Transparency)により、広告IDの取得が制限されていることが背景に挙げられるでしょう。そのため、MMPの数値のみを基準に広告投資を行うと、過剰な広告費用を投下してしまう可能性があります。

UNICORN株式会社 App Marketing Division ゼネラルマネージャー 兼 MetricWorks Japan株式会社 Chief Executive Officer 神田佑貴氏<br />アプリのパフォーマンス領域のコンサルティングチームを統括。また、2024年5月に合弁会社として設立したMetricWorks Japanの代表も務め、新しい検証機能を持つモバイル計測プラットフォーム「MetricWorks」の日本展開を進めている
UNICORN株式会社 App Marketing Division ゼネラルマネージャー
兼 MetricWorks Japan株式会社 Chief Executive Officer 神田佑貴氏
モバイルアプリにおけるパフォーマンス領域のコンサルティングチームを統括。また、2024年5月に合弁会社として設立したMetricWorks Japanの代表も務め、新しい検証機能を持つモバイル計測プラットフォーム「MetricWorks」の日本展開を進めている。

神田(UNICORN):加えて、広告効果の評価方法における課題もあります。

 たとえばWebメディアとアプリメディアでユーザーが広告に接触をした場合、広告IDの存在するアプリメディアが、ラストタッチでも接触の順番の関係がなく、MMPの計測の仕様上優先的に評価されてしまいます。

 この仕様を理解している事業者や媒体社が、広告効果として判定されやすくなるような配信を意図的に行い、オーガニックや他広告メニューの効果を吸収したりするような事態が市場の課題として顕在化してきています。

その広告は本当に必要か?注目が集まるインクリメンタリティとは

──これらの課題を解決する方法はあるのでしょうか。

戎(HJ):私たちが着目したのがインクリメンタリティ(Incrementality)という計測手法です。同指標は普通の効果計測とは異なり、広告が存在したことによりアプリダウンロードやサービス登録に至った数やその概念を指します。

 先ほど挙げた2つの課題に直面しつつ、効果的な広告配信を通じて数あるVODサービスの中からHuluを選んでもらうために、より正確な効果測定の必要性を感じるようになり、採用に至りました

インクリメンタリティとは クリック/タップで拡大
インクリメンタリティとは(クリック/タップで拡大)

──どういったことを実施しましたか。

戎(HJ):UNICORN」を活用し、ダミー広告を用いたインクリメンタリティ計測の検証配信を行いました。計測の結果からインクリメンタリティ効果が高い広告枠サイズやメディアに対して、配信を行えるようにしました。

インクリメンタリティテスト配信 クリック/タップで拡大
UNICORNのインクリメンタリティテスト配信(クリック/タップで拡大)

戎(HJ):UNICORNの魅力的な点として、様々な配信メディアに対してCPAを維持しながら合理的に広告を配信できる点が挙げられます。また他の広告配信プラットフォームと比較して、アドフラウド対策やインクリメンタリティの検証など、クリーンかつ真の最適化を目指して取り組んでいる印象があります。広告の配信予算削減につながる可能性のある取り組みにも積極的である点も信頼しており、継続的に利用しています。

 さらに、他の広告メニューでも同様に広告効果によるインクリメンタリティを基準とした最適な予算配分を実現するため、新しい効果計測ソリューションである「MetricWorks」の活用を開始しました。「MetricWorks」はアプリの広告効果分析に強みをもっており、従来使用している、MMPとの連携機能があることで、より正確な数値把握が期待できます。

MMMベースのモバイル計測プラットフォーム「MetricWorks」

──「MetricWorks」とは、どのようなサービスなのでしょうか。

神田(UNICORN):「MetricWorks」では、マーケティング施策がどの程度影響をもたらしたのかを定量的に分析する手法であるMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)をベースとしながら、各広告メニューのリフト効果を検証できる評価サービスを提供しています。

 具体的には広告効果とは別に、アプリ側で計測されたインストール数や会員登録数などの各種KPIの総数を「MetricWorks」に取り込みます。データと各広告メニューの配信データを組み合わせることで、どれが最も効果的だったかを評価することで、すぐに各メニューのリフト効果(広告価値)を把握することが可能となります。

 さらに、ラストタッチで取得したデータも加えることで、ラストタッチの評価と「MetricWorks」の分析結果との差異を確認し、リフト効果の検証も加えることで、データの精度を向上させています。

──「MetricWorks」の強みを教えてください。

神田(UNICORN):一番の強みは、配信量の集計データさえあれば分析可能な点です。ユーザー獲得から認知・ブランド施策まで幅広く評価でき、テレビCMにおけるGRPなどのオフラインメディアでも、データを取り込むことで認知領域の広告効果を測定できます。

 また、私たち「MetricWorks」のスペシャリストが広告主様のニーズをヒアリングし、立ち上げから最初のPDCAサイクルの確立までを支援します。その後、広告主様が自立的にサービスを活用できることを目指しています。

5分の1の費用でパフォーマンスを保てる可能性も

──HJホールディングスは、具体的に「MetricWorks」をどのように活用しているか、お聞かせください。

戎(HJ):アプリプロモーションにおける各広告メニューのインクリメンタリティ計測を目的としています。

 「Hulu」のサービス特性として、配信コンテンツの状況によって獲得数が日々変動する傾向があります。サービスの需要が高まるタイミングで配信ボリュームを増やした広告メニューとの間に相関関係が生まれ、そのメニューの効果が過大評価される可能性が見えてきました。

 そこで媒体の過大評価を回避するために、特定のメニューにて広告の配信と停止を一定期間にわたり繰り返すモデル検証を実施したところ、より信頼性の高い結果を得ることができました。分析の粒度についても、キャンペーン単位でのインクリメンタル効果の測定を行うことで、さらに信憑性の高い測定方法を確立できるようになっています。

神田(UNICORN):このように信憑性の高いデータを使った測定方法を実施したことで広告効果の評価が大きく変わることが判明しました。とある広告メニューでは、当初高いと評価されていた広告効果が、「MetricWorks」を活用して検証を行った結果、実際の価値は4分の1から5分の1程度であることがわかったのです。したがって広告費用を削減し、適切な配分に見直せる可能性が示されました。

クリック/タップで拡大
(クリック/タップで拡大)

オーガニックも含め、真の広告価値を導き出す

──今後の展望や展開についてお聞かせください。

戎(HJ):これまでは広告のラストクリックにおけるCVを重視して広告運用を行ってきましたが、今後はオーガニックを含めた合計CVを主要な指標として置き、運用方針を転換していく予定です。これにより、インクリメンタリティの低いチャネルや広告メニューから、高いものへ予算を再配分することが可能となり、全体の最適化を図れると考えています。

 引き続き「MetricWorks」を活用して、広告による真のリフト効果を測り、広告メニューや配信の方法を見直していくことで、「Hulu」全体としての会員登録数の効率的な向上を目指します。今後はWebやCTVなど、複数のデバイスにまたがるデータも統合的に分析し、クロスデバイスでの最適化を進めていく予定です。

神田(UNICORN):HJホールディングス様との取り組みにおいては、今後も適切な評価サービスの品質を維持しながら、事業拡大を支援します。

 市場全体での展望としては、より多くの広告主様と積極的に接点を持ち、「MetricWorks」に限らず様々な改善方法にチャレンジできる市場機会を創出していきたいと考えています。これにより、適切な広告の使い方や費用配分の方法を市場に浸透させていくことを目指します。

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この記事の著者

和泉 ゆかり(イズミ ユカリ)

 IT企業にてWebマーケティング・人事業務に従事した後、独立。現在はビジネスパーソン向けの媒体で、ライティング・編集を手がける。得意領域は、テクノロジーや広告、働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:UNICORN株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/04/21 11:00 https://markezine.jp/article/detail/48268