「中の人」交代でも、「人と人」の関係を変えない
――昨年、2024年12月に前任者「のりふみ」さんの引退発表があり、XやWebニュースで話題になっていました。「中の人」のキャラクターを活かした運用は引き継ぎが難しい印象もありますが、御社でうまくいっている理由は何だとお考えでしょうか?
前任者とは同期で普段からコミュニケーションを取っており、お互いに温度感がわかっていた点が大きいです。
また、企業のXアカウントではありますが、あくまで「人と人」という感覚を持ち、フォロワーさんとの交流を重視しています。たとえば毎朝の「おはちくわ」という投稿も、ルーチンではなく、人と人の関係なのだから挨拶するのは当たり前、という考え方で行っています。この感覚を共有できていたことも大きかったと思いますね。
――ちなみに発信のトンマナなど、ルールはどのように決めているのですか?
お客様の立場になって、その投稿を見た時に不快に思わないか? は気を付けていますが、それ以外は細かく決めていません。あえてキャラクターを作るのではなく、普段の私のままで発信しています。そのほうが、お客様に近い位置でいられると感じるためです。私を介して、紀文食品のことをお客様が少しでも身近に感じてもらえたらいいなと思いますね。
お客様の声をヒントに紀文らしくファンを広げていく
――日々の運用で感じるSNSのトレンドや気になるトピックはありますか?
Xの仕様変更への対応は難しい部分もあります。直近では、2024年には突然「いいね」をしたアカウントを確認できなくなったり、インプレッションが上がりづらくなったりと、予告なく仕様が変わることもあります。他社の担当者とも「こんなふうに仕様が変わったけれど、どうしている?」と情報交換しながら運用しています。
ただ、仕様が変わっても、Xがお客様とのコミュニケーションツールであることは変わらないので、日々のやりとりを増やすようにしています。
また、流行を察知して新たなレシピを模索することもあります。最近では、テレビドラマの1シーンに「ちくわカレー」が登場し、それをフォロワーさんがリプライで教えてくださいました。そこで早速、ちくわカレーを作ってXに投稿したところ、約5,000の「いいね」をいただきました。
こうした投稿はスピードが大切です。弊社では届けたい時にすぐ情報を発信できるように、投稿の内製化にこだわっています。レシピの写真も、同じ部署の料理担当者が社内キッチンで撮っているものです。社内の協力体制と、お客様からいただく情報のおかげで、流行にあわせた発信ができています。
――最後に今後の展望もお聞かせください。
より幅広い層の方に会社のファンになっていただくことですね。そのためにも、今後はInstagramやYouTubeなど、X以外のSNSアカウントの強化にも力を入れていきます。元々は、お客様からの「のりふみって誰?」という呼び間違いがきっかけで広がったフォロワーさんとのつながりですが、いずれはどの世代の方にも「きぶん」と呼んでいただける企業になっていきたいです。
ここに注目!紀文流SNS活用のポイント
運用担当者の表情が浮かぶような人間味と、ユーモアあふれる投稿で支持される紀文様のXアカウント。SNSの醍醐味である、ユーザーとの双方向のコミュニケーションを体現し、認知獲得や売上アップにもつなげています。
ポイントは、単に担当者の個性を前面に出すわけではなく、あくまで「紀文」というブランドと生活者をつなぐハブとなることを目的に、最適なコミュニケーション方法を選択されている点です。目的が明確だからこそ、リプライが難しい日には率直に伝えたり、ユーザーが投稿した自社商品のUGC(ユーザーによるクチコミ)には「いいね」やリポストでリアクションするといった、きめ細やかな対応を実現しています。
「企業だからこう」「SNSだからこう」という切り分けではなく、「人と人とのつながり」を大切にする真摯な姿勢が38万人を超える「のりふ民」に愛される秘訣と言えるでしょう。また、ユーザーとの交流だけでなく、ポジティブな声を社内の製造部門や営業部門にフィードバックし、「現場とお客様をつなぐ役割」を果たしている点も特徴的です。
