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将来やキャリアに対する不安、『マーケターキャリアパス』を読んだらちょっと解消した【お薦めの書籍】

 マーケターやマーケティングに関する業務に携わっている人にとって切り離せないのが、キャリアに対する悩み。なぜなら、日本の多くの企業では現場に膨大な量のマーケティング業務はあっても、マーケターとしてのキャリアパスがあるとは限らないからです。もし仮にあったとしても、自分が理想的なキャリアを進めるのか、そこには常に不安がつきまといます。今回はこうしたマーケターのキャリアにまつわる悩みや不安を解消するための一手を教えてくれる書籍『マーケターキャリアパス』(翔泳社)を、本書版元のマーケターが紹介します。

将来やキャリアに不安のないマーケターはいない

 本書のタイトルを目にしたとき、「うわ~」と率直に思いました。というのは、この4月に翔泳社(MarkeZineを運営している企業)から「マーケティング部」がなくなってしまったからです。

 傘下の課は別の形で維持され、マーケティング機能はまったく変わらず継続していますが、マーケターとしてのキャリアを考えたとき、マーケティングの名を冠する部署が存在しないことには一抹の不安を感じざるをえません。

 ですが、会社としては効率性や機能性を考慮し、より発展的な業務を行なえるようにという組織戦略にもとづく判断とのことで、ひとまずは安心しています。

 とはいえ……「マーケティングが好きで仕事が楽しいのに、これから先、仕事や将来はどうなってしまうのか!?」と私が感じているのは事実。本書はそんな感情を抱きながら読み通しました。同じような課題感を持つ人は多いと思いますので、ぜひ本書の知見を共有させてください。

 本書『マーケターキャリアパス』を読み終えた今は、非常に前向きな気持ちで仕事に取り組めるようになりました。その要因として、自分のスキルの棚卸しができたこと、また、スキルをもとにしたキャリア設計の方法と目指す将来像に必要なスキルやその習得方法を学べたこと、そして何より自分が今会社でどう振る舞うべきかが見えてきたことが挙げられます。

 行く先はマーケティングのスペシャリストかジェネラリストか、あるいはマネージャーか独立かと悩んでいる方や、とにかく将来やキャリアに不安がある方にとって少しでも参考になれば幸いです。

著者はマーケターとして経験を積んで起業

 本書の著者である勅使川原晃司氏は、大学卒業後にニッセンに入社し、まずデータドリブンマーケティングに携わったそうです。実務経験を積んだあと広告代理店に転職して、ブランディングやデジタルマーケティングの仕事に従事。

 その後、アクセンチュアではマーケティング戦略の立案や組織設計など幅広い仕事を担当しました。そして、マーケティングに特化したコンサルティング会社を起業。現在はM&Aを経てマクロミルグループに参画しています(社名は「エイトハンドレッド」へ変更)。

 このプロフィールを拝見すると、「実務でスキルアップして転職でキャリアアップ、さらに起業してM&A」というマーケターとして目指したいキャリアの1つを歩まれています。この経験に基づく知見が本書1冊に凝縮されているわけなので、私のような一介のマーケティング従事者にとって参考にならないはずがありません。

 ただ、本書を読む前に意識しておきたいのは、これが就職や転職のテクニックを紹介した本ではないということ。あくまで、マーケターとしての将来に迷える読者にキャリアパスのあり方を示し、読者自身の将来像へと進むために何が必要か、今どんなことをすればいいのかが説かれています。「面接で合格するためのノウハウ」は一切出てきません。

 「そもそもキャリアパスとは?」「マーケターとしてのキャリアにどんなルートがあるのか」「自分の市場価値を高めるにはどうしたいいのか」といった大きな疑問に、勅使川原氏の経験と、これまで目の当たりにしてきた3000人ものマーケターの実例から導き出された対策が書かれています。

マーケティング職種別スキルマップで自分のスキルを知る

 さて、本書を開くといきなり4ページにもわたって「マーケティング職種別スキルマップ」が掲載されています。正直、「なんだこれ⁉」と圧倒されました。マーケティングに48種類もの職種があるとは知りませんでしたし、それぞれに必要なスキルと関わる領域も多様で、この表を呆然と眺めることしかできません。

マーケティング職種別スキルマップ
マーケティング職種別スキルマップ

 ですが、本書を読むと、この表はマーケターのスキルや業務領域をもとにして職種に分類しただけのもので、恐れるようなものではなかったのです。日本の企業にこれらのポジションがすべて揃っているわけでもありません。

 重要なのは、この表を見て自分が今持っているスキルをチェックし、自分のマーケターとしての立ち位置(ポジショニング)を知ることです。その中で、もっとやりたいことや成長させたいこと、逆に業務で仕方なくやっていることやあまり興味がないことなどが見えてきます。

 スキルアップするにも転職するにも、もちろんキャリアパスを考えるにも、自分の現在地を知らないことには始まりません。

キャリア設計は目的型か、フロート型か

 本書では、自分の現在地と理想像を言語化し、両者のギャップを埋めるための方法を考えるツールとして、「マーケターキャリアキャンバス」が紹介されています(パワポのファイルをダウンロード可)。

 本書の記載例はこんな感じです。ぜひ書いてみることをおすすめします。本書ではこのマーケターキャリアキャンバスに沿ってキャリアを検討する方法が詳しく解説されています。

マーケターキャリアキャンバスの記入例
マーケターキャリアキャンバスの記入例

 ChatGPTに書き方を相談したら、まずは30分で書いてみて、そのあと1週間かけて肉付け&推敲するのがいいとのことでした。

 もしかしたら、キャリアを考えるときに「CMOになる」「起業する」といった目標をもって計画的にスキルアップし、上記のルートを突破しながら、あらかじめ定めたルートを進んでいく必要があるように感じるかもしれません。勅使川原氏はその方法を目的型と呼んでいます。しかし、そうではないフロート型もあるのです。

 フロート型はキャリア初期で明確な目標がない人に適しています。幅広いスキルや人脈を獲得しながら、変化しやすいマーケティング環境に柔軟に対応して多様な経験を積んでおくことで、いつ目の前にチャンスが現れても大丈夫なように備えておくのです。備えがあれば、いつどんなゲートが立ちはだかってもきっと突破できるはずです。

フロート型と目的型の比較
フロート型と目的型の比較

 目的型とフロート型、今の自分にはどちらが合っているでしょうか。

マーケターがどんな役割を担うのかを知る

 目的型であれフロート型であれ、キャリアを構築するには自社やクライアントの事業に直結する仕事ができるかどうかがとてつもなく重要です。マーケターがそうした仕事をするには、どんな役割を担うべきなのか。

 皆さんはマーケターの役割を一言でどう表現しますか?(マーケティングの定義ではなく!) 

 本書ではマーケターの役割(ミッション)を「動かすこと(ドライブすること)」としています。何を動かすのか? 動かす順に、組織や人、仕組み、顧客、数字、ビジネスです。そして、ビジネスを動かしたらまた組織や人を動かすというループです。

マーケターのミッション
マーケターのミッション

 マーケターには各々に具体的なタスクがありますが、そのタスクをこなすことをミッションそのものだと考えてはいけないと勅使川原氏は強調しています。タスクはミッションに必要だからこそ生じているわけで、環境が変わればタスクも変わります。不変のミッションこそを胸に刻んでおきましょう。

 目の前のタスクがどのミッションに関わっているかを認識できていれば、自分や周りの環境がどう変わってもその場所で仕事ができるようになります。もし今「施策をどれだけこなしても評価されない」という状態に陥っているとしたら、ミッションから離れてしまっているからかもしれません。つまり、組織や人、仕組み、顧客、数字、ビジネスのどれも動かせていない(事業にとって意味のないことをしている)可能性があるということです。

 と書きながら、私自身も胸にグサグサと刺さるものがあります。理想の将来像を目指しながら、ミッションを前提とした「マーケティングで事業を動かす力(スキルや影響力)」を持つことが欠かせません。

持つべきスキルセットを知る

 マーケターのキャリア設計においては、自身がどのように成長していくかも考慮する必要があります。能力が今のままでは、キャリアも今のまま。ここで、マーケターが「動かす」ためにどんなスキルを伸ばすべきなのかを本書から紹介します。

 勅使川原氏が提唱するのが、OSとAppという考え方です。

 OSは基盤能力であり、「進める力」です(第5章で習得方法とともに解説)。問題発見や課題設定、実行力、協力体制の構築といった基礎的なスキルを指します。汎用性が高く、10年後でも通用する力です。いわゆるマーケティング活動に関するスキルとは独立したものですが、変化への適応や部署間連携を可能にする力ゆえに、マーケティングに取り組むときにこれが身についていないと非常に苦労します。

 Appは実務技能であり、「加速させる力」です(第6章で同様に解説)。マーケティングの実務に関するスキルで、戦略エリア、商品エリア、ユーザー接点エリア、テクノロジーエリア、パフォーマンス管理エリアの5つに分かれており、専門性と即時性の高さが特徴です。具体的には市場分析やインサイト発見、ブランディング、プロモーション、広告運用などのスキルを指し、常に最新情報へとアップデートし続ける必要があります。

 OSがなければ、マーケター本来のミッションである「動かすこと」はできません。しかし、多くの企業や転職市場ではApp偏重になっていると勅使川原氏は指摘しています。キャリアアップしたいマーケターがOSを習得することは、ライバルと差別化する点でたいへん得策であると言えます。

 本書ではOSとAppのレベルチェックができる表と、レベルごとのチャレンジポイントとスキル習得のポイントが掲載された表もあります。これを参照することで自分のレベルと挑戦すべきことを知れるのはありがたいですね。皆さんもぜひチェックしてみてください。

 私の場合、OSはレベル2を満たしつつレベル3の一部に到達しているくらい、Appはレベル3くらいを自分では意識しています。

OSのレベル
OSのレベル
Appのレベル
Appのレベル
Appのレベルチェック
Appのレベルチェック

 OSのレベル別タスクとチャレンジポイントについては、全32ページにわたる表として書籍内に掲載されています。たとえば、役職のない現場のマーケター(本書ではスタッフクラスと分類)の場合、OSの1つである課題設定力を鍛えるなら、「因果関係の分析手法を習得する」「実現可能性の評価方法を学ぶ」「リソース管理の基本を身につける」「関係者との合意形成術を磨く」「データ分析の技術を向上させる」という5つが挙げられています。

 また、マネージャークラスなら「戦略的思考法を体系的に学ぶ」「組織横断的な課題設定力を養う」「チーム育成の手法を確立する」「中長期的な視点を身につける」「調整力を実践的に磨く」という感じです。

 実際にどういう手段でスキルアップすればいいのか、そのアプローチ方法も第7章で紹介されています。

  • OJT(On the Job Training)
  • チーム共有
  • 書籍
  • 講座やスクール
  • ナレッジトランスファー ※人に教えること
  • 業界セミナー、カンファレンス
  • 専門家との意見交換

 皆さんはどのアプローチが取り組みやすいでしょうか。いくつかを組み合わせるとよさそうですね。私は書籍で学んで現場で試す(OJT)という組み合わせが多いので、チーム共有やナレッジトランスファーも取り入れたいところです。

 業界団体への参加やプロジェクトベースの協業などによる仕事のネットワークや人脈の形成も、キャリア理解やキャリアチェンジの足がかりとなるため推奨されています。

マーケターのOSとAppを鍛えれば、キャリア設計恐るるに足らず

 『マーケターキャリアパス』は私にとって、キャリアパスの考え方や作り方はもちろんですが、いざというときの機会に備えておくことの重要性を教えてくれる本でした。。

 どれほど綿密にキャリア設計をしていても、将来像に大きな影響を与える機会(昇格、転職、独立など)は不意にやってくるものです。そのとき、自分のOSとAppを望ましい形で鍛えてこられたか、そうでないか。日々の小さな取り組みがキャリアにおいて大きな差となっていくのだと思います。

 私自身は今のところ転職の意思があまり強くないので、まずは社内で頼られる存在になるべく、小さなことからいろんな人と一緒に仕事をしていこうと動き出しています(もちろん、マーケティングで最も大事な「相手の利益の最大化」ができるように!)。

 読めばきっと、マーケターとしての自分の現在地を知る方法、キャリアパスを設計する方法、そして目指す理想に向けてスキルアップする方法がわかり、キャリアに悩む人が「今何をすべきか」「将来どうしたらいいのか」に対する答えの輪郭が見えてくるはずです。

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マーケターキャリアパス 10年後も活躍し続けるための成長戦略

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マーケターキャリアパス
10年後も活躍し続けるための成長戦略

著者:勅使川原晃司
発売日:2025年5月19日(月)
定価:2,200円(本体2,000円+税10%)

本書について

本書はマーケティング分野でキャリアを築く全ての人に向けた、実践的かつ戦略的なキャリア構築ガイドです。将来に不安を感じているマーケターが継続的に成長と成功するための方法を紹介しています。

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この記事の著者

渡部 拓也(ワタナベ タクヤ)

 翔泳社マーケティング課。MarkeZine、CodeZine、EnterpriseZine、Biz/Zine、ほかにて翔泳社の本の紹介記事や著者インタビュー、たまにそれ以外も執筆しています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/06/03 16:22 https://markezine.jp/article/detail/49084