さらに詳細に分析するには?
これまで見てきたトライアル率やリピート率の集計は、自社ブランドの新規獲得力や定着力を把握する上で有効な指標です。実際に読者の皆さんの中でも、日々確認されている方は多いでしょう。しかし、この分析だけでは、「どのタイミングで顧客がリピートしやすいのか」や「どの時期を過ぎると離脱が進みやすいのか」といった時間軸での行動変化までは捉えることができません。
たとえば、2回目購入までの期間が短い顧客は長期的なロイヤル顧客になりやすいと一般的に言われますが、集計ベースの分析では、再購入が多く発生するタイミングを明確に把握することは困難です。また、観測期間中に2回目購入をしていない顧客をどのように扱うかも課題となります。
こうした課題を解決する手法として有効なのが、生存時間解析です。元々は医療分野で「ある出来事が起きるまでの期間」(例:患者の疾患発症までの期間)を分析するために発展した統計手法ですが、マーケティング領域にも応用でき、「初回購入から再購入までの期間」や「顧客が離脱するまでの期間」を分析する際に非常に有効です。
特に、生存時間解析では、観測期間内にイベント(2回目購入)が発生していない顧客も打ち切りデータとして適切に扱えるため、未リピート顧客を除外せずに分析できる点が大きなメリットです。結果、リピート発生のタイミングや離脱しやすい時期を精緻に特定し、施策を打つべきタイミングや対象セグメントを判断するための根拠が得られます。
この手法の代表的な可視化方法が、Kaplan-Meier曲線(生存曲線)です。たとえば、「初回購入から2回目購入までの期間」を横軸に、「まだ2回目購入をしていない顧客の割合(生存率)」を縦軸にとった曲線を描くことで、リピートが発生しやすいタイミングや離脱が進む時期を一目で把握できます(図表8)。

この例では、20日以内に生存率(2回目購入未発生の割合)が大きく低下しており、この期間にリピートが多く発生していることがわかります。一方で、60日を超えると曲線がほぼ横ばいとなり、この時期以降は再購入が起きにくいことが示唆されます。したがって、60日を迎える前の段階でフォロー施策を行うことが有効と考えられます。
生存時間解析の利点は、単なるリピート率の集計では得られない以下のような示唆を得られる点にあります。
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リピートが発生しやすい時期を特定できる
→顧客育成施策の最適なタイミング設計が可能になる -
離脱が進むタイミングを把握できる
→再購入を逃さないためのフォロー施策を計画できる -
顧客属性やチャネル別に曲線を分けることで、セグメントごとの特徴を比較できる
例:男性は30日以内の再購入が多いが、女性はやや遅い傾向
例:通販購入者は半年を過ぎると再購入が急減
このように、生存時間解析を活用することで、顧客の再購入行動を時間軸で可視化し、施策のタイミングや重点セグメントを定量的に判断できるようになります。
今回は、トライアル&リピート分析をテーマに取り上げてお話させていただきました。自社ブランドや商品の新規獲得力と定着力を時系列・ブランド間で比較し、その結果を正しく読み取り意思決定につなげることで、限られたリソースを最も効果的に投下できる領域を見極めて施策設計することが可能になります。
QPRやお手元のデータを活用し、自社の商品・サービスがどれくらい定着しているのかを改めて眺めてみてください。これまで気づいていなかった市場からの反応が、より鮮明に浮かび上がってくるかもしれません。