具体例:ブラックコーヒーに関する分析
それでは実際のデータを扱いながら、トライアル&リピート分析を行ってみましょう。今回も、マクロミルの消費者購買履歴データ「QPR」を用い、「ブラックコーヒー」に関するブランドを取り上げます。ブランドAが商品リニューアルを行った場合の事例を取り上げて、具体的にお話しします。なお、コーヒーのような日常消費型の商品は、購入サイクルが短いため、データは週次単位で見ていくことにします。
時系列で比較をする
まずはリニューアル後のトレンドを確認します。新規購入者数、トライアル率、累積反復率の推移を見てみましょう(図表4)。

新規購入者数は1週目が最も多く、その後はなだらかに減少傾向を示しています。ただし、13〜15週目にはやや増加が見られ、このタイミングで実施されたプロモーションが奏功したと考えられます。
また、トライアル率と累積反復率についても、いずれもほぼ一定のペースで増加していることが確認できます。中でも、トライアル率の増加トレンドのほうが累積反復率よりもやや大きく、新規の取り込みは順調に進んでいる一方で、リピートへの転換はやや遅れていることがうかがえます。
次に、購入回数別購入率のトレンドも見てみましょう(図表5)。

特定の購入回数での伸びが停滞する様子は見られず、いずれの回数においても週次単位で多少のぶれはあるものの、増加傾向にあることが確認できます。また、20週目の時点では、5回以上購入者の該当割合が購入者全体の15.6%であることから、一度購入したユーザーの一部が、比較的短期間で高頻度のリピーターへと移行している様子がうかがえます。
競合ブランドと比較をする
リニューアル後の主要指標のトレンドを把握できたところで、次は競合ブランドとの比較を行いながら各指標を確認していきます。ここでは、ブランドAを自社ブランド、ブランドBおよびブランドCを競合ブランドとします。まずは、ブランド別のトライアル率の推移を見てみましょう(図表6)。

ブランドBは初週からトライアル率が高く、その後も堅調に成長していることがわかります。ブランドAとブランドCを比較すると、初週時点でのトライアル率の差を保ったまま13週目まで推移していますが、14週目以降はその差が徐々に拡大しています。この傾向から、ブランドAが13〜15週目に実施したプロモーション施策が成長速度を押し上げる要因となったと考えられます。
リピート率の推移も見てみましょう(図表7)。

ブランドBは、リピート率においてもブランドA・Cよりも優れていることがわかります。一方で、ブランドAとCを比較すると、13週目あたりまではブランドAのほうがリピート率が高いですが、それ以降はほとんど同じ水準になっていることが読み取れます。この結果から、ブランドAが13〜15週目に実施したプロモーション施策は、新規顧客の獲得には寄与したものの、その後の継続購買には十分な効果を発揮できなかった可能性があります。
特に、14週目以降にブランドCとのリピート率の差が縮まり、最終的に同水準に収束している点は、獲得後のフォロー施策や継続利用を促す仕組みが弱かったことを示唆しています。つまり、ブランドAにとっては、短期的なトライアル獲得だけでなく、獲得した顧客を定着させるための施策設計を強化する必要があると考えられます。
何を根拠にどう意思決定すべきか
ここまでの分析から、ブランドごとのトライアル率とリピート率を把握することで、「新規顧客の獲得力」と「既存顧客の定着力」という2つの観点から、自社ブランドの課題や優位性を整理できるようになります。
時系列での推移を追うことで、施策や市場環境の変化によって、自社の獲得・定着の状況がどのように推移しているのかを確認することができます。一方で、ブランド間での比較では、自社が市場の中でどの段階では優れているのか、あるいは劣後しているのかが明らかになります。
たとえば、自社のトライアル率が市場平均よりも低く、かつ過去と比べても改善が見られない場合、新規獲得施策の強化が優先的な課題となります。逆に、トライアル率は高いもののリピート率が伸び悩んでいる場合は、既存顧客の満足度向上や継続利用を促す施策が必要です。
このように、「新規獲得力✕定着力」という2軸を、時系列比較と相対比較で捉えることにより、単なる数値の良し悪しだけでなく、「どの段階にボトルネックがあり、どこに資源を投下すべきか」という意思決定にまで落とし込むことが可能になります。