AWS Clean Roomsで実現するデータコラボレーション
3人目として登壇した山田輝明氏は、「マーケティングデータ分析基盤としてのAWS Clean Roomsの活用例」を紹介した。
クラウドのインフラ基盤として認知されているAWSだが、マーケティング領域に特化したサービスも提供している。それが「AWS Clean Rooms」で、1st Partyデータだけでなく、3rd Partyデータも活用できる基盤になっている。
「AWS Clean Roomsは、1st Partyデータとコラボレーターが持つそれぞれのデータを、実際にデータをコピーしたり移動したり共有したりせずに、複数のデータアセット同士を結合して分析できます。数クリックするだけでコラボレーションを実現できるというのがクラウドとして有効と考えます」(山田氏)
また、データと分析基盤の連携が1対1ではなく、1st Partyデータ、2nd Partyデータ、3rd Partyデータ、広告配信データまで、複数対複数で高度な分析ができるプラットフォームとして提供されているのも大きな特徴だ。
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AWSをデータ分析基盤として活用する理由について、山田氏は以下のように説明する。
「Webのデータ活用分析は複雑化し、マーケティングのノウハウだけでは解決できないような環境になっているため、システムに長けたメンバーとの協業が必要になっています。日本でも幅広く活用されているAWSなら得意なエンジニアも多く、使い勝手の良いクラウドと言えます。
また、それぞれ別のシステムに格納されているデータを結合して分析したい場合、通常はデータを移動したりコピーしたりして新たな分析基盤を作る必要があります。しかし、同じAWSクラウド上のデータであれば、データ移動も不要で簡単に結合して分析できます」(山田氏)
活用事例と24時間365日ユーザーインタビューへの発展
データ分析のユースケースとしては、マーケティング領域でのキャンペーンの企画データと実際の効果測定データのコラボレーション、医薬品領域での管理者が承認したデータと臨床試験データのコラボレーションなどを挙げた。
さらに、AWS Clean Roomsを活用し自社のデータと外部のデータを組み合わせる、先進的な取り組み例として、中国新聞社による地域創生プラットフォームを紹介した。
「中国新聞が提供するデジタル新聞でスポーツ欄を非常によく読まれている方について、地場のプロ野球チームがそのIDデータを活用することで、まだプレミア会員になっていない方がプレミア会員になる可能性を探る分析等が実現可能です。
グループ内だけでなく、地場のスポーツ企業や百貨店、スーパーマーケットといった企業と地域企業のデータを安全に結合して分析することで、地域企業のマーケティング支援への挑戦を進められています」(山田氏)
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また、NRIネットコムが発展的な活用方法として検証を進めているのが「AIユーザーインタビューサービス」だ。自社の広告データ、1st Partyデータ、Google アナリティクスのデータ、3rd PartyデータをAWS Clean Rooms上でコラボレーションすることで、ユーザーのペルソナを作成。その仮想ペルソナに対し、生成AIを活用してユーザーインタビューを実施するというものだ。
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「このサービスが実現できれば、24時間365日ユーザーインタビューが実施できるようになります。また、様々なパターンのペルソナが準備できるので、多様な視点からのインサイト獲得が期待できます」(山田氏)
3名の講演を通じて見えてきたのは、生成AI時代でもWebサイトの基本的な役割や価値は変わらないということだ。むしろ、AIに正しい情報を提供するソースとしての重要性や、1st Partyデータ収集の拠点としての役割、そして他社とのデータコラボレーションの起点としての機能など、新たな価値が付加されている。
企業にとって重要なのは、ユーザーの本質的なニーズを理解し、それに応える情報とサービスを提供し続けることだろう。そのための基盤として、Webサイトは今後も進化を続けていく存在だ。

