サニーサイドアップ流マーケティングの根幹とは
──お二人は「PRと広告の境界線」について、どのように考えられているか、まずお聞かせください。
シーチャウ:そもそもマーケティングとは、「ものが売れ続ける仕組み作り」です。それを達成できるのであれば、手法はなんだっていいと考えています。よって、PRと広告をわざわざ分ける必要はないでしょう。
P&Gジャパン、2015年レキットベンキーザー・ジャパンを経て、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のマーケティング本部長に就任。全ブランドの売上と収益責任を負い、デジタル戦略を統括。2018年FOLIOにてCMO、2019年副社長を務めた後、2020年7月よりレノボ・ジャパン合同会社のCMOに就任。2023年7月より株式会社サニーサイドアップ代表取締役社長に就任
シーチャウ:実は、サニーサイドアップもPRをやるためだけに作られた会社ではありません。40年前、「商品の宣伝や認知促進をしたいけれど、広告費が出せなくて困っている」というクライアントへ、解決手段として「PR発想での話題作り」をお手伝いしたのが創業のきっかけなんです。
今でも手法を問わず、クライアントの課題解決につながるマーケティング支援をしていくという方針は変わりません。PRのマーケット自体は推計1,391億円(※2024年度)でそれほど大きくありません。私たちは、PR業界でのシェアを高めたいというより、もっと大きな範囲でマーケティングを含めたPR・コミュニケーション活動を盛り上げていきたいと考えています。
北川:私も同感です。PRと広告の間に境界線があるという発想すら頭になかったですね。すべてのマーケティング活動は心を動かし、企業価値を高めるというゴールに向けてやるものであって、PRや広告は選択肢の1つに過ぎないと思います。
サントリー株式会社に入社。商品開発・宣伝部門を経て、広告制作に携わる。2014年よりサントリー食品インターナショナル執行役員 兼 CMOに就任。2017年に株式会社サン・アド 代表取締役社長、2021年より代表取締役会長、2025年3月同職退任。2025年4月から、株式会社サニーサイドアップに参画
シーチャウ:北川さんには、サニーサイドアップが今後さらにPR会社を超越していくために必要な、組織改革や経営のアドバイスをお願いしています。「PRと広告に境界線はない」という共通の価値観がベースにありますので、北川さんのメーカーや広告代理店でのご経験は、サニーサイドアップでも変わらずに活きると確信していましたね。
レノボのCMO時代に感じた「こんな代理店があったらいいのに」
──「課題解決につながれば手法にこだわらない」方針は、シーチャウさんがサニーサイドアップに入社される前から考えられていたポリシーなのでしょうか。
シーチャウ:はい。メーカーでマーケティングを担当していた頃から変わりません。
──ぜひ具体的に教えてください。
シーチャウ:レノボ・ジャパンでCMOを務めていた時には、従来の新商品リリース時の宣伝・PRにとらわれないまったく新しい手法で、ターゲットである若年層の興味喚起をできないものかと考えていました。その1つの取り組みとして、若者たちの起業をリアリティーショーとして公開する、人気のYouTube番組「Nontitle」と、NECPCのタイアップ企画を講じていました。
通常、新型パソコンが発売される際は、タレントを起用して広告を投下し、そのタレントが登壇する記者発表会を開催、それをテレビで取り上げてもらってメディア露出最大化を狙う、という流れが一般的です。
しかし、この企画ではZ世代の出演者が「自分が欲しいパソコン」を商品企画・開発・発売するまでのプロセスをコンテンツ化しました。この番組を通じて、意味のある認知を獲得していった結果、番組内で開発された「LAVIE SOL」は当初の計画を大幅に上回る販売実績を上げました。
──非常にユニークな事例ですよね。当時の代理店からの提案だったのでしょうか。
シーチャウ:いえ、自分で考えました。本当はそういうことを提案してくれる代理店と組めたら良かったのですが……。当時、メーカー視点で感じていた「こんな代理店があったらいいのに」という想いを、サニーサイドアップで実現できればと考えています。自分自身が欲しかった提案、お付き合いしたかった会社は、自分で作るのが一番ですから。
