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世界動向の先を読む「もう1つの視点」

AIの利用原価はクライアント課金対象か、コンサルやAGによる「AIトークン」の先買い収益モデル


AIトークン課金における4つの収益モデル

 AIトークンの調達コストをクライアントにどう配分するか。現在の米国市場では、エージェンシーの規模や戦略に応じて以下の4つのフェーズに集約されつつある。

1.吸収型(自社負担):AI利用を自社の販管費として処理し、クライアントには請求しない。

2.パススルー型(実費転嫁):交通費やケータリング代と同様、実費分を伝票課金する。

3.サブスク型(バルク販売):バルク契約(一括仕入れ)を締結し、「生成クレジット」として顧客にボリュームディスカウント価格で提供する。

4.名目費用型(インフラ利用コストの回収):独自のAIプラットフォームを提供し、その利用度(Saasモデル)に応じて課金する。

【図2】マーケティングサービス企業におけるトークン課金の4類型(出所:DIGI DAY取材より筆者作成)
【図2】マーケティングサービス企業におけるトークン課金の4類型(出所:DIGI DAY取材より筆者作成)

 現在はまだ「決定的な正解」が見えない試行段階にあるが、図2の上欄のモデルほどコスト請求に苦慮しており、下欄のモデルほど「合意されたサービスメニュー」としてのビジネス化に向かっているイメージだ。

 例として、図2の下欄(攻めのモデル)に位置するプレイヤーであるMonks(S4 Capital)、WPPの「WPP Open」、Horizon Mediaの動向を紹介する。

S4 Capital傘下:Monks

 Monks(旧MightyHiveとMedia Monksを統合)は、AIを組み込んだサブスクリプション課金(+成果報酬)モデルを提供している。旧来の「作業時間」を売るモデルを脱却し、「シニア人材+AIワークフロー+AIエージェント+組織的なオーケストレーション」をパッケージ化したサービスへの継続アクセス権を月額契約で提供。AIコストをこの基盤内で回収する構造を構築しており、売上の約25%をこのモデルから計上する見込みだ。

WPP:「WPP Open」によるプラットフォーム展開

 WPPは、ブランド企業が自ら広告制作から出稿までを完結できるAIプラットフォーム「WPP Open」を立ち上げた。これは、制作やメディア運用という代理店機能そのものを「SaaS/プラットフォーム」として供給する戦略的転換である。さらに「GCL(グローバル・クライアント・ライセンス)」契約では、報酬をクライアントの成長率に連動させる実験を開始。テクノロジー、データ、メディア企業と連携し、プリンシパル(本人)ベースの製品を構築することで、クライアントの需要に対し、より客観性と整合性を備えた提供形態を目指している。WPPは早速JLR(ジャガー・ランドローバー)や、エスティーローダーのグローバル獲得を発表している。

【図3】WPP OpenによるメディアバイイングからクリエイティブまでのAI統合管理(出所:WPP 2025 Results Presentation)
【図3】WPP OpenによるメディアバイイングからクリエイティブまでのAI統合管理(出所:WPP 2025 Results Presentation

Horizon Media:独自プラットフォーム「Blu」の展開

 Horizon Mediaは2025年12月、AIメディアプランニング基盤「Blu」を発表した。既に40社のクライアントが導入しているが、同社は、AIトークンの消費が損益上の大きな課題となるのは「ユーザーベースが数万人規模に達した段階」と見込んでいる。現時点では、導入時に「わずかな」手数料を課すことで、顧客の導入障壁を下げつつコスト回収を図るといい、S4 CapitalとWPPの中間(折衷案)ともいえるアプローチを採っている。

 なお、これら大手エージェンシーも決して今好調なわけではなく、移行期にある。S4 CapitalとWPPに関しては、過去5年の株価推移を見ると、AIプラットフォーム事業を収益性改善の食い止めとして位置付けている側面もある。

【図4】文中のエージェンシー・グループ(S4 Capital:青・WPP:黒)とNASDAQ指標(橙)の株価推移比較(過去5年間)
【図4】文中のエージェンシー・グループ(S4 Capital:青・WPP:黒)とNASDAQ指標(橙)の株価推移比較(過去5年間、出所:Google Finance

強靭なAIエコシステムを構築中のアクセンチュアの足元は

 現状、クライアント(ブランド広告主)がAIトークン費用を直接負担するケースは限定的であり、この構造が短期的に変わる兆しは乏しい。なぜなら、AIトークンは成果(Out-come)ではなく投入量(Input)に過ぎず、顧客にとっての価値指標になりにくいためだ。当面の間、トークンは「サービスに内包される原価」として扱われ、提供側がいかにそのコストを予測・吸収し、最適化できるかが勝負の分かれ目となる

 AIを活用する企業が、OpenAIやAnthropic、Googleといったプラットフォーマーと直接向き合う場合、エンタープライズ規模でのボリューム・ディール(大口交渉)による割引料金は、既に周知の調達手段として存在する。

 しかし、単なるコスト抑制にとどまらず、提供する価値を最大化するためには、その足元に「強靭な鍋底」となる基盤を構築する必要がある。紹介した各エージェンシーは、自社の過去事業に閉じた個別のAI基盤に踏み出している。これは、いわば「24時間365日稼働する優秀な人材」を自社流に継続的に採用するようなものだ。

 AIトークンコストの最先端かつ最大規模の事例が、Accentureである。同社のグローバル人員は77万9千人に達し、AIによる企業人員削減のトレンドの中でも過去2年間で4万6,000人増加させている。AI関連売上は倍増を続け、約4,000億円(27億ドル)と全体の3.8%を占めるまでに成長した。売上拡大と人員増強を並行させる一方で、増大するAIコストを組織体内で吸収している段階と見られる

【図5】Accentureが提携・構築する広範なAIエコシステム(出所:Accenture 2026 Q1 Earning Presentation)
【図5】Accentureが提携・構築する広範なAIエコシステム(出所:Accenture 2026 Q1 Earnings Presentation

 図5に示されるAccentureの広範なパートナー企業群(OpenAI、Anthropic、Palantir、NVIDIAなど)は、同社が構築した「強靭な鍋底」そのものだ。これは巨大企業ゆえの特殊解ではない。産業構造が「知性の卸売」へと向かう中での到達点を示す事例であり、「あのAccentureでさえ、今この段階にある」という現在地を突きつけている。

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この記事の著者

榮枝 洋文(サカエダ ヒロフミ)

株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表
英WPPグループ傘下にて日本の広告会社の中国・香港、そして米国法人CFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。海外経営マネジメントをベースにしたコンサルテーションを行う。日本広告業協会(JAAA)会報誌コラムニスト。著書に『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)。ニューヨーク最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2026/04/17 12:14 https://markezine.jp/article/detail/50628

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