日米の違い2:リファレンス
米国のB2B企業、特にIT系の企業では、見込み客がリファレンスをリクエストすることがよくあります。リファレンスとは、見込み客が既存客に対してサービスの利用満足を照会することです。例えば、ベンダー企業はリファレンスのリクエストがあれば、既存顧客の中からリクエストした企業に合う業種の企業の中から対応してくれる顧客を選び出し、見込み客は直接その既存顧客へ電話をし、エンドユーザーとして聞いてみたいことをエンドユーザーの立場から答えてもらうという対応をします。
以前、米国滞在中にリファレンスのために、あるクライアント企業に訪問、同席する機会があったのですが、ユーザー企業の方々はとても丁寧に対応してくださいました。また、フォーマルな訪問ではなく、レストランでランチを取りながら話を聞かせてもらうといったカジュアルなスタイルのケースもありましたが、その際も気軽に他社製品との違いや、ツールを選んだ理由、どんな体制で通常運用しているのか、といったかなり具体的な話をしてくださったのには、参加した私自身も驚かされました。
日米の違い3:パブリックスピーチ
今年2月にソルトレイクで開催された、弊社のユーザー向けイベント『Omniture Summit』では、午後のブレイクアウト・セッション(分科会)は、4テーマで同時に8つのセッションに別れ、2日の間に5回行われたのですが、これらのセッションの9割方にクライアントからの事例紹介がセットになっていました。私は過去3回このイベントに参加していますが、このクライアント参加型のセッションは年々数が増えています。
このセッションが面白いのは、私たちはこんな素晴らしい実績があります、といった"成功"事例だけでなく、こういう視点でこのような施策を始めました、こういう課題がありました、といったような試行錯誤の途中のケースでも話をしてくれるところです。
成長途中のオンラインマーケティングの分野で、最前線にいるマーケター達は誰もが悩み、試行錯誤を繰り返しながら前に進んでいるという共感を参加者は持つことができますし、また答えのない事例の中からも、自分たちが取り組むべき次の施策のヒントを得ることができるという訳です。
情報の開示性が業界を発展させていく
リファレンスという習慣にみられるように、米国のマーケターは企業の極秘情報でない限り、ある程度の情報を開示してくれる姿勢が見られます。米国のMarketing Sherpaというインターネットマーケティングに特化したリサーチ会社は、常にオンラインマーケティングの最前線にいるマーケターにコンタクトし、インタビューやアンケートを繰り返し、ケーススタディや統計資料をどんどん世の中に創出しています。
Omniture Summitでクライアント・スピーカーのコメントとしてよく耳にするのが、自分たちの体験談を情報共有することにより、他のマーケターがまた新しいことに挑戦し、そこからまた自分たちのビジネスが学ぶことを期待するというものです。

このような情報の開示性の高さが、米国のオンラインマーケティング業界全体の基盤を作り、発展を促しているように思われます。とはいえ、日本のマーケターの皆さんには文化的な違いもありますので、ケーススタディをセミナーで積極的に発表してください、というのではまだ少し抵抗があるかもしれませんが、せめて社内で事例共有をすることは、今すぐ対応できる方法として強く推奨します。
私が普段クライアントとのプロジェクトとして取り組ませていただいているウェブ解析ガバナンス(ウェブ解析を社内浸透させるための組織・仕組み化)の重要な要素の1つとして、社内での情報共有があります。社内のエンドユーザーが、自発的にデータに基づく意思決定をし、ビジネス最適化・カイゼンのサイクルをまわしていくためには、エンドユーザー間で小さな成功体験でもよいので社内で共有し、そこから個々で次の手段を考えさせることにより、社内のエコシステムが確立されていく、というわけです。
我々オムニチュア・コンサルティング・サービスグループでも、毎週事例発表や新しい機能の説明会などが開催されています。時差のある世界中のコンサルタントがそれらの情報をアクセスできるように、それらのプレゼンテーションがビデオ化され、社内ポータルで共有することで、新しいアイデアを吸収しているというわけです。
今回は、ちょっとした日米間の違いについて、私見を述べさせていただきましたが、これらが日本のオンラインマーケティングを活性化させるための、小さなヒントになればうれしく思います。