迷惑メール誤判定の実態とは?
いまやメルマガは、企業にとって欠かせない販促ツールであり、ユーザーとの間をつなぐコミュニケーションツールでもある。売上すら左右しかねない、「影の営業マン」とも言える存在だ。担当者は、どのようにすれば読んでもらえるのか、その後のアクセスにつなげるにはどうすべきか、常に頭を悩ませているに違いない。
ところが、この心血を注いで作ったメルマガが届いていないとしたら…。実はいま、こうしたメルマガが「迷惑メール」扱いされ、ユーザーに読まれていないという問題が起きている。採用している送信システムに不具合があるのか? それともメルマガのコンテンツや構造がISPのフィルターに引っかかるのか? 果たして、その原因は? ここでは、迷惑メール誤判定の実態や理解しておくべき仕組みについて、メール配信ベンダー エイケア・システムズ株式会社の山下英樹氏に伺った。
6割以上のメルマガが迷惑メールの誤判定
まず気になるのは、どれだけの数のメルマガが迷惑メールとして誤認識されているかということ。エイケア・システムズでは、フリーメールやISP各社のアドレス、各種セキュリティソフトでどのように迷惑メール判定が行われているのかを、定期的に調査している。2009年5月・6月の2ヶ月間で行った239媒体のメルマガ(総数2262件)を例に、その実態について触れた。
「調査の結果、一度でも迷惑メールあるいはフィッシングメールと判定されているメルマガは、全体の80%を超える200媒体にも上っており、そのうちの約150媒体は継続的に迷惑メール・フィッシングメールと判定されていることが判明しました。一度迷惑メールと判定されるとその後も継続的に迷惑メールと判定されるケースが多いことがわかります」
150媒体というと6割以上の企業のメルマガが迷惑メールとして判断され続けていることになる。せっかく作ったメールが迷惑メール、さらにフィッシングメールとして扱われているとは、なんともやるせない話。しかも今回、エイケア・システムズがサンプル対象として選んだのは、比較的認知度の高い大企業のメルマガばかりだという。今回は直近2ヶ月間のデータだが、それ以外の期間でもおおよその割合は変わらない。
迷惑メールと判定されてしまうメルマガに、何らかの傾向はあるのだろうか。そこで山下氏が挙げたのは、フリーメールアドレスの存在だ。
「メルマガの送信先アドレスがフリーメール系の場合、迷惑メールとして誤判定されることが多いようです。今回の調査では、誤判定し続けているアドレスの8割以上がフリーメールアドレスでした。最近は、フリーメールアドレスをメルマガの受取先として登録するケースが非常に多いことが、弊社ユーザーの配信先の傾向から言えます。登録者の多いフリーメールアドレス宛てのメルマガが、実は迷惑メール判定を受け続けているとなると、非常に大きな機会損失と言えます」
対応が遅れている日本のメールマーケティング
こういった状況は日本のみならず、海外でも指摘されている。誤判定の問題は、どの国でもついて回る話だそうだ。ただし日本と異なり、対策については一歩抜きん出ているケースが多いとのこと。アメリカの場合、特定の送信者からのメールを誤判定から外す、「ホワイトリスト」なるものがあるという。
「第三社機関が企業とISPの間に入る形で評価を行い、『この送信者からのメールは問題ない』というお墨付きを与えるわけです。特に配信数・送信先の多い広告メールを配信するような企業はきちんと準備をしていて、ホワイトリスト登録を実施する傾向が高く、そうすると当然ながら、誤判定の対象外になります」
言うなれば、ホワイトリストとは企業のメールマーケティングの健全性を示す証明書のようなもの。それならば、日本も同様の施策を取ればいいと思うが、どうも一筋縄でいかない日本特有の事情もあるのだとか。
「欧米はそういった点をビジネスライクに処理することに長けていますが、なかなか日本はそういった流れになりませんね。企業間でもお互いに利害関係がありますから、うまくまとまらないといった状況です。日本ではメールの送り手と受け手が、うまく議論できないというか。特にISPや携帯キャリアは迷惑メールが毎日大量に来るため、対策に追われます。そのため、なかなか同じ土俵で話し合いができないようです。現状では、送り手が迷惑メールフォルダに振り分けられないよう工夫をしていかざるを得ない状況です」
フィルタリング判定の基準
ところで気になるのは、メールの受け手であるISPは、どういった基準でメールをフィルタリングしているかということ。大別すると、システム面とコンテンツ面の2つの側面での判断基準があるという。
システム面でのフィルタリング基準
「最も技術的に分かりやすいのは、『送信者ドメイン認証』があるかないか。送信者の身元をハッキリ明示する必要があります」
まずは、『送信者ドメイン認証』の設定は必須のようだ。
さらに、発信元が1カ所のIPアドレスに集中している場合も、ブロックの対象になりやすいという。というのも、スパム送信者の多くは大規模な送信システムを持っていない。このため、少ないIPアドレスから1度に大量のスパムメールを送信する傾向にある。短期集中で、一気に送って、後は逃げるだけだ。送り手からすれば同時に大量の送信処理ができると効率的だが、受け手であるISPとしては、時間・ドメインともに分散して送られてくるほうが、システムへの負荷は小さくて済む。この結果、ISPの回線や設備を占有するようなメール送信者は、スパム送信者と捉えられてしまうのだ。
メール専門のベンダーが提供する配信システムを採用せず、自社でメール運用を行っている会社で、こういった事態は起きやすいという。自社で運用している場合は、メール配信を専門的に担当するエンジニアが不在のことがほとんどで、その他の業務と兼任しているため検討が甘くなり、単に効率化だけを追求して大量送信を行ってしまうケースが多いようだ。
コンテンツ面でのフィルタリング基準
コンテンツについても、よく注意をしなくてはならない。冒頭で紹介したフィッシングメールと判断される事例で言えば、メール内に送信者のドメインに関連性がないURLを記載している場合にURL先が怪しいと判断され、フィッシングメールとされることが多いという。
また、本文にISPがNGワードと判断する単語が挿入されていると、迷惑メールとして判断される可能性が高い。NGワードは、細かい基準まで掘り下げると各社で違いがあるが、大まかな傾向は似ている。ただし、ISPとしてもNGワードをオープンにしすぎると、送信者とのイタチごっこになる可能性があるため、なかなか全てをオープンにはできない傾向にある。
「本文も無く、画像だけのメールも引っかかる傾向が高いですね。悪質な送信者の場合、コンテンツフィルターをかいくぐるために、本文もひとまとめに画像にするわけです。そうすると、本文は解析の対象外になりますから。海外からのPC向けスパムメールによく見られる手法です。よって、画像の割合が異常に高いメールというのも、迷惑メール判定の対象になるようです」
怪しいと思ったら専門業者へのコンサルティング依頼も必要
なお、山下氏は「手前味噌かもしれませんが」と前置きしつつ、メール運用については、配信ベンダーとの協力が不可欠だとアドバイスする。
「メール配信が本業でない一企業が、メールの誤判定状況を継続的に監視するのは現実的でないと言わざるをえません。それが本業ではありませんから。送信するメール数にも限りがあり、ISPのフィルタリングについて調査するにはサンプル数も限られ、正確な傾向が見えてこないのではないかと思います。特にシェアの大きいフリーメールサービスだと、受信用のサーバを何台も持ち、そのバージョンや設定も少しずつ異なるので、そこまで追いかけるのは難しいでしょう。すべてのフリーメールサービスのアドレスをいくつも取得し、さらにISP各社のメールアドレスも対象にして調査をするとなれば、これは結構骨の折れる作業。それを継続的に、時間・人・お金をかけてやるとなると、自社だけでやるには大変です。むしろ、私たちのような配信ベンダーを活用していただきたいと思います」
本来であれば、自社の利益に結びつけるためのメルマガに振り回され、過剰に資金を投じるのは、言うなれば本末転倒。「餅は餅屋」の諺に従うべきだろう。なお、エイケア・システムズでは、これまで蓄積した誤判定のデータに基づいて発展させたモニタリングサービス「ストッパー! 迷惑メールフォルダ入り」というサービスを提供。さらにメールの専門家だけあり、必要に応じて、コンサルティングサービスも実施している。
「このサービスでは、クライアントのメルマガの誤判定の発生状況などについてレポートします。結果をご覧になり、こんなにも不達があるのかと、驚く担当者も少なくありません。不達が多いということは、読まれていないメールがたくさんあるということ。その数が増えれば増えるほど再送など追加の費用も発生します。これは、収益性が下がるという結果につながります。欧米では既に問題視されていますが、ここ数年で日本も似たような状況になりつつあります」
特にECサイトなど、Webサイトで収益をあげている企業にとって、メールの不達は死活問題。「ストッパー!」は、ECサイトを中心に利用が広がっているようだ。
「なかには、メルマガを書いた後、普段仕事で使っているメールソフトから自分にメールを送り、届くから大丈夫だろうと判断していたというクライアントさんもいらっしゃいました。しかし、いざ本番で送信すると、どうやら届いていない。そこで、何だかおかしい、ということに気付いたそうです。当然ながら配信システムや送信数などもろもろの条件が影響して、届いていなかったわけです。やはりシステム面の問題もからんでくるので、よほどメールの誤判定問題に精通していないと、どのようなテストを実施しないといけないのかということも判断しにくいようです。私たちはそういったニーズに対して誤判定状況の調査をし、レポートを提出して、必要に応じてコンサルティングも行っています」
誤判定との戦いはまだまだ続く
「依頼を受けたあるECサイトでは、送信したメルマガのうち27%が誤判定されているということが分かりました。フリーメールアドレスの宛先が、ほとんどが不達になっていたのです。また、あるスポーツ系のサイトでは、7割が誤判定を受けていたケースもあります。ただしほとんどの事例で、技術的な課題を少し修正するだけで、大きく改善が見られました。私たちは、こういったサービスを通して、企業のメールマーケティングの効率化をお手伝いできればと考えています」
最後に、メール配信ベンダーの立場から今後の誤判定に対する姿勢について伺った。
「海外と同じような仕組みを立ち上げるのは、ISPとの関係や私たち配信ベンダー同士の競合状況などをふまえると、すぐに実現するのは厳しいのではないかと感じています。また、迷惑メールを取り締まる法律も、特定電子メール法と特定商取引法の二種類あり、それぞれ監督官庁が異なります。そういった点でも、国内で各方面の関係者が歩調を合わすことは難しいのかと。現状では、私たち配信ベンダーが誤判定についてしっかりと調査を継続して、適切なサービスを提供するしか解決法はありません。今後、我々としてはさらにノウハウを蓄積していきながら、誤判定結果のより高精度なレポーティングやコンサルティングを行っていきます。また、ますます誤判定に関する相談は増えていくことが予測されますので、より多くのお客様へサービス提供が行えるよう強化していく考えです」
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