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店舗とEC、双方での集客に成功
パーソナライズしたメルマガで成果を挙げるHMVジャパン

 全国に63店舗(2009年8月19日時点)を構える音楽・映像ソフトの販売大手HMVジャパン。同社では、会員データを活用したマーケティングの自動化を進めており、会員の購買履歴をもとに、メールで商品をレコメンデーションするなどの取り組みを積極的に行っている。同社が実施するメールマーケティング施策について、HMVジャパン マーケティングソリューション推進室長の清水俊明氏と、同推進室デザイナーの深井真衣子氏、黒田哲司氏にお話を伺った。【メールマーケティング特集ページ、絶賛公開中!】

顧客ごとに最適化された情報配信をデータの一元管理で実現

 HMVジャパンでは、店舗と、ECサイトである「HMV ONLINE」「HMV MOBILE」の顧客データを一元管理し、それぞれのチャネルを通じたOne to Oneマーケティングを実施すべく、2007年1月にCRM推進部を発足。第1の施策として、2007年6月にHMV ONLINE、HMV MOBILEと店舗のメンバーズ・カードのポイントサービス統合を実施した。

 以前のメンバーズ・カードは磁気カードにポイントを記入していくだけのタイプで、顧客情報を取得できないという課題があった。そこで、有効な会員データを収集すべく、店舗でのカード発行後、PC・携帯サイトで会員登録してもらうというシステムに変更した。リニューアル前には、九州や札幌でのテストマーケティングも実施。登録フローの改善や、登録後のインセンティブ設定の調整などを行ったという。その結果をもとに、新たなメンバーズ・カードシステムの全国展開に踏み切った。

 緻密な準備が功を奏し、ポイントカード移行はスムーズに進行。現在ではメンバーズ会員は、オンラインも合わせて約350万人にのぼる。新メンバーズ・カードにより、HMVジャパンでは各顧客が、店舗やONLINE、MOBILEで、どのような商品を購買したかというデータを把握できるようになった。このようなデータを分析し、それに基づいた顧客ごとにパーソナライズされた情報を、店舗にあるKIOSK端末や、PC・携帯サイト、そしてメールマガジンといった各チャネルで提供している。

ポイントカードを起点としたHMVのCRM戦略の概要
ポイントカードを起点としたHMVのCRM戦略の概要

取得した会員情報を基に来店促進用のメルマガをスタート

 前述の施策により、店舗の顧客のメールアドレスを取得できるようになったため、来店促進用のプロモーションにメールを活用できるようになった。しかし、メールマガジンを配信できる状態にはなったものの、制作者が不在。

 そこで、当時セールスプロモーション部に在籍していた深井氏が異動し、メールマガジンの作成を担当するようになった。さらに規模が拡大していくにつれ、深井氏一人では対応できなくなったため、2008年に黒田氏も参画。現在は、2人でメンバーズ会員向けのメールマガジンのコンテンツ収集からライティング、デザイン、制作まで、メールマガジンに関連するほとんどの業務をこなしているという。

HMVジャパンマーケティングソリューション推進室デザイナー
深井真衣子氏(左)、黒田哲司氏(右)
HMVジャパンマーケティングソリューション推進室デザイナー 深井真衣子氏(左)、黒田哲司氏(右)

数百種類に及ぶメールを運用

 もともと、HMV ONLINE、HMV MOBILEの会員向けに始まった同社のメールマガジンだが、店舗のプロモーション用メールや、顧客のライフサイクルに合わせたメールを配信するようになってからはバリエーションも増え、現在では細分化すると数百種類にまで及ぶ。HMVでは、これらのメールマガジンを大きく下記の3種類に定義している。

マスメール

 キャンペーン情報や新譜の紹介をジャンル別に配信するもの

顧客基点メール

 購買時のサンクスメールやバースデーメールなど顧客のアクションやライフサイクルに応じて配信するもの

HMV基点メール

 最近来店のない顧客へのリテンションメールなど、分析に基づいて配信するもの

 こうした合計数百種類のメールマガジンを管理運用している中で、配信内容はもちろん、配信頻度にも特に気を使っていると深井氏は語る。

 「提案内容やタイミングで、どのようにコンテンツを差別化するかを特に重視しています。また、のべつまくなしに我々からワンウェイで送ってしまうとスパムメールになりかねないので、送りすぎないよう頻度には細心の注意を払っています」

MailPublisherの導入経緯

 HMV ONLINE、HMV MOBILE用と店舗用の、数百種類かつ1配信あたり最大150万通を超えるメールマガジンの配信にHMVジャパンが利用しているのが、エイケア・システムズの『MailPublisher』だ。清水氏はMailPublisherについて「配信システムの変更を考えていた当時、エンタープライズ系のメール配信ソフトは海外製のものが多かったのですが、日本特有のデコメや、携帯通信キャリアごとの受信ブロック回避策などには対応していませんでした。MailPublisherを導入してからは、以前利用していたシステムと比べて配信スピードや到達率も改善されました。また、特電法改正時などにその対応方法などの情報を提供してくれることや、アフターケアのサポートも含めて国内No1のサービスだと思います」と高い評価を示した。

ユーザー毎に最適化されたレコメンドメールで効果をあげる

 HMVジャパンのメールマガジン購読会員は、総じて客単価が高いという。その理由の1つとして挙げられるのが、会員ごとにパーソナライズされたメールの存在が挙げられる。

 会員の属性として、『アーティストへの嗜好性が高く、必ずしも音楽全般のヘビーユーザーではない』といった顧客層のボリュームが多いため、一方的に音楽全般の情報を送っても購買には結びつきづらい。そのため、各会員の店舗、HMV ONLINE、HMV MOBILEを含めた購買履歴や閲覧履歴などに応じたレコメンドコンテンツ(アーティスト情報やオススメタイトル、特典情報など)が、テンプレート内に自動的に挿入されるようになっている。

レコメンドメールの仕組み
レコメンドメールの仕組み

 また、各種メールマガジンには、ゴールドやプラチナなどメンバーズ・カードの種別によって会員特典をはじめ提供するべき情報も異なるため、ジャンル×カード種別の各パターンで異なるコンテンツを差し込むようにしている。これらの作業には、MailPublisherの機能を活用することで、大幅に作業工数を削減。少ない人数で大量の作業を迅速にこなすために、システムをフルに活用しながら運用している。

 このように、会員各々の属性、嗜好に合わせたレコメンドメールをシステム活用し効率的に送ることで、開封率、コンバージョン率を大幅に向上させ、客単価のUPを実現している。

見栄えだけでなく効果を意識したメールデザイン

 多くの種類が存在するHMVジャパンのメールマガジンだが、ひとつひとつのデザインが、丁寧に作りこまれているのも特徴として挙げられる。これは、単に見栄えの良さだけではなく、効果の両立も目指してデザインされているという。例えば、前述のレコメンドメールのテンプレートも開封率やコンバージョン率等を考慮し、深井氏と黒田氏が随時デザイン変更を行っている。

 「メールの効果測定は、別途、分析担当者がいます。そこからのフィードバックをもとに、デザインを適宜改善しています」(深井氏)

 更に、店舗の情報を配信する「HMVストアニュースレター」をはじめ、HTMLを直接書き、手作業で作成しているメールも多い。これは、新譜などの情報が配信の前日に届くこともあり、手作りでないと修正対応が難しい場合もあるためだという。また、情報量が多いため、自由度の高い手作りのメールの方が、デザインしやすい場合も多いという。

 「メールのデザインでは、ユーザーの目線の動きにも配慮しています。たとえば、スクロールしても目線があちこちにチラつかないよう、ファーストビューを意識し、さらに全体的にグリッドをそろえて読みやすくするなど、いかにクリックしてもらえるかに注意しています。キャンペーンの内容は複雑なものが多いので、情報を整理することが大事だと考えています」(黒田氏)

HMVオンラインニュースレター(左)、HMVストアニュースレター(右)
HMVオンラインニュースレター(左)、HMVストアニュースレター(右)

 社内でまだメールマガジンへの理解がなかった時期には、店舗側の担当者から「もっとここの文字を大きく」といった、紙のチラシを作るような感覚の議論もあった。しかし、スーパーの特売チラシのようではなく、HMVとしてのトーン&マナーを保ったデザインで、かつ効果を上げるということに深井氏は地道に取り組んできたという。

 「デザイン変更後の効果検証に関しては、コンバージョン率や開封率などの基本的な数値も見ますが、特に解約率を重視しています。これらの数字をもとに、デザインやコンテンツ、セグメント等のさまざまな角度から分析を行います」

 「最近の例で言えば、ニュースレターに掲載するHMV VISAカードのキャンペーン情報をファーストビューで見られるようにしたり、背景色を黒くしたりするなどの工夫で、クリック数を増やすことができました。また、開封率向上のために、メールの件名にも気を配っています。件名は、短い文章でいかに受け取った人の興味を惹きつけるかを考え、人気のあるアーティスト名やセールの”30%オフ”など、お伝えする情報の肝となる文言は先頭に入れるようにしています」(黒田氏)

店舗、ONLINE、MOBILE各チャネルでの集客に成功

 メールマガジンの効果について清水氏は「現在、プル型のチャネルとして店舗のキオスク端末、PCサイトや携帯サイト、プッシュ型ではメールマガジンがあり、これら全てのタッチポイントを通じてお客様とコミュニケーションをしています。メールマガジンをスタートする前は、店舗ではお客様の来店を待つしかありませんでした。メールマガジンを利用することによって、『こんな新譜があります』『こんなキャンペーンをやっています』といった情報を知らせることができるようになった点は、大きいと考えています。よく、ECサイトと店舗の双方が食い合いにならないかといった懸念も聞かれますが、やってみたらそんなことはなく、双方のチャネル特性を活かした集客は可能だと考えています」とした。

成長するモバイルチャネルをデコメ配信でさらに強化

 HMVのECでの売上げは、全体の売り上げの実に三分の一を超える。通常、店舗だけが強かったり、ECサイトだけが強かったりといったことが多いが、同社の場合は見事に両立していると言える。また、店舗、PC、携帯の3チャネルで言えば、現在は携帯の成長率が最も高いという。

 携帯サイトでは、デコメを使ったメ―ルマガジンの配信をスタート。取材時点では3週間ほど経過したばかりだったが、従来のテキストメールの数倍の反応に皆驚いたという。清水氏は「テキストメールの場合、文字数制限があったので、メールから誘導させるページを見させるということがメインでした。デコメの導入については、40代~50代のお客様の反応を心配していましたが、今のところうまくいっています」とデコメの手ごたえについて語る。

HMVから配信されるデコメのサンプル
HVMから配信されるデコメのサンプル

大衆は個人の集合体、お客様を理解したコミュニケーションを目指す

 最後に、各人それぞれの今後の抱負について伺った。

 「新しくデコメの運用が始まりましたが、若い人はモバイルが最も身近なメディアだと思うので、見やすく分かりやすく、かつHMVのカラーを忘れずに推進していこうと考えています」(深井氏)

 「お客様には、メールマガジンを通じて“この人”というアーティストに出会ってもらいたいと思って取り組んでいます。分かりやすく良い情報を届けられるよう心がけたいです」(黒田氏)

 「メールマガジンへの注力に踏み切れない企業は多いと思います。しかし、制作や効果検証、いかに実際の売上げにつなげるかといったところまでトータルで考えて実施すれば、その分の効果は必ず出ます。2年前は当社でも、ECでしか行っていませんでしたが、1年半取り組んで、実際に効果を実感できるところまでになりました。

 今後は、更にコミュニケーションデザインを重視していきたいと考えています。最近話題のファストファッションをみると、多品種少量販売を行うことで伸びています。これは大衆をターゲットにしつつ、個人の嗜好性をしっかりと捉えているからだと考えています。以前のようにマス媒体に広告を出せば売れるというほど簡単ではなくなってきているので、CRM戦略は重要です。お客様を理解し、お客様に深く入り込むためにも、コミュニケーションデザインは大切。その中での重要なメディアの1つであるメールマガジンには、今後も力を入れていきたいと考えています」(清水氏)

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この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

 就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務やWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業。編集プロダクション業務においては、IT・HR関連の事例取材に加え、英語での海外スタートアップ取材などを手がける。独自開発のAI文字起こし...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2010/11/29 12:59 https://markezine.jp/article/detail/8146