ミッション:クライアントのマーケティングの課題を抽出し、調査企画に落とし込む
変化が激しい社会において、迅速かつ的確なマーケティング活動は企業の重要な課題となっている。そこで近年注目されているのが、インターネットを用いて市場調査を行うネットリサーチという手法だ。2000年頃から一般的に使われるようになり、インターネットの普及と足並みを揃えるようにして成長してきた。
2000年以前は、マーケティング調査というと、郵送調査や訪問調査が主な手法だったが、費用と時間がかかることが難点だった。一方、ネットリサーチは、多くの人々に一気にリーチできるだけでなく、あらかじめ登録してある情報に応じて、年齢や性別、その他の属性ごとに調査対象を絞り込むことができる。さらに、集められたデータはすぐに処理が可能なため、スピーディに解析でき、すぐに定量的に結果が出る。だからこそ、どんな人に何をどのようにきくか、アンケートの「デザイン」が重要となってくる。その重要な役割を担っているのが「リサーチプランナー」だ。
「お客様が知りたいことを、どのような調査を行えばつかむことができるのか、それを考え、企画に落とし込むのが私の仕事です。しかしながら、課題そのものが漠然としていることもあり、ヒアリングするなかから抽出することも少なくありません」
主業務は「プランニング」ではあるが、ヒアリングから企画、調査や解析の担当者へのディレクションやアドバイス、そしてお客様へのフィードバックまで、トータルに伴走し、お客様の課題が解決したか、していない場合は何を追加すればいいか、最後まで見届ける。
「1つ調査が終わると、それに追加して何が必要なのか、視点を変えて調査するにはどうすればいいのか、次から次へと課題をいただくことが多いです。こちらからアドバイスや提案を行うこともあり、営業担当者と2人1組でセットになってまるで主治医のようにお伺いしています」
以前は、営業担当者だけが伺い、プランナーは案件が固まってから参加していた。しかし、スピードを求められることが多くなり、1回の商談で要件を固めるためにはじめから専任として同席するようになったという。なお、クライアントとなる企業はその6割がメーカー等の一般企業で占められており、日用品から住居に至るまで幅広い。これまでは商品開発部門や広告関連部門が主な取引部署だが、最近は販売促進部門や広報部門担当者がユーザー分析のために依頼してくることも多くなったという。
「それぞれが得意分野や業界を持っていて、1人あたり25社くらいを担当しています。私は日用品と化粧品の業界を主に担当しているのですが、自分もユーザーですから親しみがわきますし、調査結果も興味深いです。これまでは世の中にたくさんの商品があることが当たり前のように思っていたのですが、リサーチの仕事をするようになって商品の舞台裏が見えてくると、一つひとつの商品がいとおしくなります」
自分が行ったリサーチの結果から新しい商品が生まれたり、商品を販売するためのリサーチが成功してヒットにつながったり、関わった実感が得られることがこの仕事の醍醐味だ。ただし、スピーディで効率的なネットリサーチだが、伊藤さんはあえて「頼り過ぎないこと」を意識しているという。
「調査だけでは解決できないことも多いんです。たとえば、『売れない要因』は、プロモーションかもしれないし、売り場のレイアウトなのかもしれない。それをすべて調査だけで決着をつけようと思ってプランニングするわけではなく、調査で明らかになる部分とそれ以外の部分の線引きを明らかにしていく。そこが難しい部分ではありますね。はじめからわかっていたことを知らせても意味がない。仮説を確認したり、新しい発見をしたり、目的に合わせつつ、見えなかったものが見えてくるようなリサーチをプランニングしたいと思っています」
そんな伊藤さんも、顧客の納得感を得るまでには、さまざまな葛藤があったという。リサーチプランナーになったばかりの頃、営業担当者とともに客先に出向き、ヒアリングを行った際「答えを持ち帰る」ことが習慣になっていた。
「『こうだろうな』と思っても自信がなくて、誰かにOKを出してもらわないと不安だったんです。でも、そんな私のままではお客様にも不安を与えてしまう。そこである時からリサーチプランナーとして「自分はこう思う」「こうする」という意見を述べるようになりました。経験を積んだからできるというのもあるかもしれませんが、おそらくそれ以上に『自分一人でやらなくてはならない』と腹をくくった、気持ちの変化の方が大きく影響しています」
そして、徐々に経験を積み、自信をもって最適なリサーチ手法を提案できるようになったこともあり、ネットリサーチ以外の対面インタビューやグループインタビュー等を含めた複数のリサーチ手法を組み合わせた複雑な案件も増えてきた。
「ネットリサーチも、グループインタビューもそれぞれ特徴があります。その特徴を活かしながら、複合的に連携して「いい調査」ができるようにしたいですね。たとえば、ネットリサーチで全体の傾向を計って仮説を立て、リアルインタビューでその本音を伺っていく。そうした複合的な調査のためには、リサーチの手法以上に、対象となる商品や業界をきちんと知ることが重要だと思っています。お客様の業界紙や雑誌等で情報収集するだけでなく、売り場などにもよく行きますね。そこから調査のためのアイディアが生まれることもあるんです」
休みの日の買い物ですら、ふとクライアントの製品を知るためのリサーチ項目を考えていたりするという。そんな伊藤さんの1日を追ってみた。(次ページへ続く)