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ウェブ解析からビジネスを成長させる
エコシステムを作るには?

 企業活動における投資対効果の検証が注目される中、アクセス解析結果をビジネスに活用する企業が増えつつあり、解析結果を元にした業務改善活動の“仕組み化”が進んでいる。ウェブ解析ツール「Omniture SiteCatalyst(オムニチュア サイトカタリスト)」をはじめ、数々のオンラインビジネス向けソリューションを提供するオムニチュアのビジネスコンサルタントである安西敬介氏に、ビジネスを成長させるためのウェブ解析の活用・運用方法について聞いた。【バックナンバー】

ウェブ解析を行う意味

 安西氏は、前職で7年半に渡り航空会社のWebサイトのシステム設計・構築やコンテンツディレクション、マーケティング、ウェブ解析などを行ってきた。現在ではオムニチュアのコンサルタントとしてさまざまな企業のWebビジネスの施策を支援している。

 「もともとウェブ解析は、サーバーのログを解析するところから始まり、どうしてもサーバーログ解析は複雑怪奇なところがあって、それをどう解析していくのか、どのように見ていくのかというところで、初めは本当にアクセス単位で見ていました。現在では技術も発展して、Webサイトだけでなくその周辺全体を理解するために利用され始めています。以前はサーバー管理者がトラフィックを把握するために見ていたものが、売上などビジネス面にまで踏み出しつつあると思います」

 Webサイトで何かを提供する場合、最初に戦略があり、サイトを制作し情報を提供してエンドユーザーに利用される。ここでウェブ解析ツールを利用するとデータが蓄積され、そのデータを分析することで、次の戦略を練ったりサイトの作りを変更していったりというサイト成長のサイクルができあがる。安西氏はウェブ解析を行う意味をさらに語る。

 「サイトが成長するということは、サイトを中心に展開している企業も成長すると言えます。では、サイトが成長するということはどういうことか。キーワードは『エコシステム』です。通常の意味では生態系ですが、ここでは『問題点を見つけ自己成長できる仕組み』のことをエコシステムと定義しています。全部が全部ウェブ解析ツールで実現するものではなく、もっと全体的にサイトを成長させていくための仕組みです」

 では、エコシステムを作るためにはどのようなことが必要なのか。安西氏は、まず正しい「ゴール」を設定し、それを正しい指標で検証することが大切であるとし、次に確実に段階を進めていくための「プロセス」、そして、それを動かしていく「人と組織」に注目すべきであると主張する。

KPI(key performance indicator)は車のダッシュボード

 最近のウェブ施策でよく耳にする言葉が「KPI(key performance indicator)」だ。KPIとは、業務の目標達成度を測る指標のこと。安西氏は、KPIについて次のように語った。

 「KPIという単語が一人歩きしていますが、まずはKPIではなくゴールをしっかり意識してもらいたいです。KPIはあくまで定点観測をすることで、変化や違いを見つけるためのものであってこれを見ていたからといって何かを解決してくれるわけではありません。よく言っているのが、KPIは車のダッシュボードと同じで、どれくらいスピードを出して、ガソリンがどれくらい残っているというのは、目的地に着くために必要なものではなく、到着したい時刻に間に合うか、ガソリンを給油する必要があるか、などの状況を判断するために必要なものです。弊社のOmniture SiteCatalystもダッシュボードのように使えます」

 KPIは指標だが、安西氏は必ずしもすべての指標がKPIではないとし「KPIになりうる指標は、ビジネスの目的から導き出されるものです。ウェブ解析をする人は、運用やシステム寄りの人が多いですが、必ずビジネスの責任者と解析結果を共有しなければなりません。数字の変化でビジネス上の問題点を理解し、そこから行動に移せることが重要です。また、解析を行うと、たくさんの指標を見たいという欲求がでますが、はじめは抑えていただくようにしています。たくさん設定しすぎると、業務サイクルを回せなくなってしまうからです。実際、集計するだけに2人が4日、分析に1~2日かかってしまうというお客様もいました。それではまったく意味がありませんので、数字に惑わされないよう、慣れるまで少ないKPIで運営していくことが重要です」と語った。

 また、安西氏は、「KPIの組み立てはサイトで達成したいゴールを設定しそこから各要素に分解していく」と説く。具体例としてコマースサイトの場合と、メディアサイトの場合についてのKPI設定について解説した。

サイトのゴールから分解し
KPIを組みたてる
サイトのゴールから分解しKPIを組みたてる

コマースサイトのKPI

 コマースサイトの場合は、ゴールが売上向上であり、それを達成するためには、コンバージョン(購入)件数や訪問あたりの売上、客単価の向上といった要素に分解できる。そこから導かれるKPIは、コンバージョン率(コンバージョン÷訪問回数)、訪問あたりの売上(売上高÷訪問回数)、1回の購入あたりの売上単価(売上高÷コンバージョン数)となる。安西氏はあくまでもこれは一例であると付け加え、このほかにも再訪問を増やすためにメルマガ登録をしてもらうなどブレイクダウンしたゴールを設定する中でKPIを決めていくとした。

メディアサイトのKPI

 メディアの場合、なかなか明確なゴールは設定しにくいものの、サイト内広告のクリックが売上につながる場合を想定すると、サイト内広告への誘導がゴールとなる。その場合のKPIは、訪問あたりの広告接触数(広告表示回数÷訪問回数)、広告クリック率(広告クリック数÷広告表示回数)、サイト訪問者数などが挙げられる。

 安西氏は、KPIを設定したあとに必要なことは2つあるとし「1つは時系列での『変化』をみつけること。日々のデータの上下を並べて見ていきます。もう1つは、比較から『違い』を発見することです。前年同月比や、全体とセクション単位との比較などを見ると、違いが見つかります」と、KPIから改善点の見つけるための手法を説明する。

テストにより仮説を検証し、改善へつなげる

 ウェブ解析を導入し、指標の設定を行ったとしてもそれを業務サイクルとして運用できなければ意味がない。かといって、サイトの運営自体に費用がかかるし、改善でも費用がかかりるため、手当たりしだい変えていけばいいというものでもない。

 安西氏は、必ず費用対効果を考えてやることが大事だとし、さらに「実はサイト作りは、全て仮説に基づいたものでしかありません。前職は制作ディレクションなどをやっていたのですが、どうしても制作側はリリースするまでがゴールと考え、その先はあまり気にしていないと思うことがありました。『主婦対象だから主婦っぽく、ビジネスマン対象だからそういう雰囲気やメニュー構成で』というのもすべて仮説でしかないのです。仮説を検証するためにはテストが必要です。Webには、ほかのメディアよりも簡単にテストや変更できるなどのメリットがあります。テストはエコシステムを推進していく核になります。自己成長し続けるためには、問題点を見つけてテストをし、改善を加えていくプロセスを続けていくことが必要です」と説明し、プライベートなブログで実際に行ったテストの例を紹介した。

 テストは、ブログの右側にイベント「CSSnite」のバナーを設置し、どれが1番クリックされたかを検証するもの。バナーはA・B・Cの3種類用意し、Aがボタンのないもの、Bがバナーの右下にボタンのあるもの、Cは左下にボタンがある。

左から、A・B・C
左から、A・B・C

 結果はAを基準にした場合、Bが5.65%向上、Cは57.4%も向上したという。安西氏がこのテストの結果についてCSSniteの来場者(サイト制作や運用に携わる人たち)に挙手をしてもらったところ、8割の人がBがクリックされたと回答したという。

 安西氏は「バナー内のボタンの位置だけ見ると、私も右下がいいかなと思っていましたが、サイトの右側にバナーを配置していたので、左側に配置したボタンが、メインのコンテンツに近く、目に入りやすかったのではという新たな仮説が出てきました。何気なく『こっちがいいだろう』と作ってしまう場合も多いので、このようなテストをしないと見えて来ないという例です」と、サイト成長のためのテストの重要性について念を押した。

バナーを配置したのはサイトの右側
バナーを配置したのはサイトの右側

業務サイクルを円滑にする3つのポイント

 指標を設定し、分析とテストから改善を行っていくのは、人と組織。ウェブ解析に基づく業務サイクルを回していく担当者には、どんなスキルが必要なのだろうか。安西氏は前職で、仕組みや指標を理解したうえで、マーケティング、デザイン、ユーザビリティ、ライティング、そして他部署とのコミュニケーションなど、非常に多くのスキルを必要とされていたが「でも全員がそのスキルを身につける必要はありません。スペシャリストを育てるのは非常に難しいので、組織できっちり取り組むための体制づくりである“ウェブガバナンス”を推進していくことが大切です」と、組織づくりのポイントとして、次の3つを挙げた。

  • Focus:選択と集中
  • People : 適材適所
  • Structure : 仕組み化

 ポイントの1つ目は“Focus:選択と集中”で、何にフォーカスするかを意識すること。2つ目が“People : 適材適所”ということで、ウェブ解析の専任者を配置することをお勧めする(小規模で専任が置けない場合は、各種スキルを分解して複数にで対応したり、一部を外部に任せたりするなどして対応)とした。また「ウェブ解析の担当者が何かを動かすとなると、大きな組織になればなるほどかかわる部署が多くなります。私は前職で多くの部署と関わって仕事を進めたのですが、組織に横串を通す必要がありました。これをボトムアップでやるのは非常に難しく、後ろ盾があると動きやすいです」と、上席の後ろ盾が必要であると指摘する。

 3つ目のポイントは、社内での業務標準化やそのためのレポートの自動化といった“Structure : 仕組み化”だ。安西氏は「社内ポータルにデータをアップするなど、なるべくたくさんの人がデータに触れるように、なるべく最小限の手間で実現をしていくことです。先ほどの、2人がかりで4日間集計をしていたようなお客様の場合は、1人で1日もかからず集計できるようになれば、残りの時間を分析や改善作業にと、効率よく回していけます」と説明した。

エコシステムを作るには?

 問題点を見つけ、自己成長できるエコシステムを作るには、ビジネスのゴールに基づいて行動に移せるKPIを設定し、テストから改善を行うプロセス、そしてそれを動かす人と組織が重要であることはわかった。では、エコシステムを作る上でのボトルネックやその対処法にはどんなものがあるのだろう。

 安西氏はあくまでも経験からであるがと前置きし「ビジネスの上でPDCAサイクルとよく言いますが、やる気にはなるのですが、1回転して満足してしまうことが多いようです。実際には数回転させないと成長が見えてきません。しっかり計画して、実施して、分析して、最終的に評価しましたというときに、それを必ずシェアすることが重要です。そうすることで、同じような計画を実行するときに、過去の知見を持ち寄りながらやることができます。例えばAとBを比較してどちらかが良かった場合、その要因がわからないテストをしてしまうことがあります。先のCSSniteのバナーは、ボタンの有無とボタンの位置の違いで、評価内容が明確に分かります。これをまったく違うデザインで3種類展開すると、1番いいものが分かっても、その要因がわからず、PDCAが1回で終わって、次につながりません」と解説した。

 また、「マス広告に慣れている人は、ウェブ解析のような結果の評価をされることがないので、自分の直感を信じてマーケティングしてきた人も多いです。この場合、マーケティングに問題があった時、評価の数字を受け入れられず、先に進まないということがあります。これは非常にもったいないです」と、ビジネスを判断する立場の人が、分析結果を認識する必要があると指摘した。

 マーケティングの費用対効果が注目される中で、ウェブ解析のニーズは高まりそれに携わる人も増えている。いざ分析してみて出てきたデータを前に、組織として柔軟な対応ができるかどうかが、今後のビジネスの1つの鍵となっていくだろう。

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この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

 就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務やWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業。編集プロダクション業務においては、IT・HR関連の事例取材に加え、英語での海外スタートアップ取材などを手がける。独自開発のAI文字起こし・翻訳ツールなど...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2012/02/28 21:32 https://markezine.jp/article/detail/8776