商品生産/販売における大きな違い
商品生産や販売などの観点から見てもカタログ通販とECには大きな違いがある。
先にも触れたように、カタログに掲載する商品は入念に準備を整えるため、販売する1年前には仕込みに入る。カタログ通販利用者からの声を聞きながら、時代に流されない商品を開発できるという利点はあるものの、どうしても準備期間が長いため、トレンドの先端を行けないという弱みもある。対してECサイトオリジナルの製品は、商品の売れ行きを確認しながら、仕入れ数などを随時変更していくことができる。
シーズを喚起するカタログとニーズを訴求するEC
また、商品の見せ方も大きな違いの1つだ。カタログでは限られたスペースのなかで読者の潜在的なシーズを喚起して購入につなげる必要があるため、誌面構成が重要になる。いかに情緒感を持たせて見せるかで注文数も変わってくるという。
「当初はECサイトでも『いかに画像の情緒感を豊かに見せるか』というところに苦心していました。ところが、その手法ではまったく売れなかった。カタログは編集・企画力が問われますが、ネットでは商品の勝負になる。商品の詳細な情報、値段や希少性、ブランドといった付加価値が決め手になるようです」(梶原氏)
つまり、カタログの読者はイメージから購入判断をしがちだが、ECサイトの画面の先にいるユーザーは価格や商品内容といったスペックから判断する傾向があるということ。安さやディスカウント率といった数字で比較できてメリットが分かりやすい方が、ECサイトでは成果につながりやすい。
ECとカタログのシナジーを目指した取り組みを開始

今まで追ってきたように、千趣会はカタログと異なる性質を乗り越えながらECでの成長を続けている。現在は、「ライフスタイルごとにターゲティングされた読者を持ち、高い顧客満足度を提供できるカタログ」「安価なコストで柔軟に情報提供ができるEC」という両者の特性の違いをうまく活用して相乗効果を生み出す手段を模索している段階にあるという。
「ECサイトだけでは、他のサイトに浮気される可能性もあります。当社の場合は、カタログでもインターネットでも買ってもらえる顧客をどれだけ増やせるかが鍵になると思っています」(梶原氏)
現在、ECサイトでは、カタログの注文番号を入力して「お気に入り」に登録しておくと関連商品が表示されるレコメンデーションを行うなど、カタログ読者をWebに誘導し、クロスセル/アップセルを狙う施策に取り組んでいる。
また、今までのEC運営で溜めてきたノウハウを活かし、販売チャネルごとの性質の違いを利用した在庫コントロールやテストマーケティングも実施。重点的に販売したい商品に対するECサイトでの販促強化はもちろん、売れ残りそうな商品についても、価格情報が変更できる利点を活かしたECサイトでのディスカウントを実施し、購買意欲を刺激する。
「商品ごとに鮮度がピークを超えると、どうしても売行きは落ちていきます。在庫とのバランスも考え、どの時点で見切って値下げし、次の商品に入れ変えるかといったルール化も含め、現在整理をしているところです」(梶原氏)
既に美容・健康関連の商材では、ECサイトで先行販売を行って売れ筋を把握し、カタログに掲載する商品を絞り込むといった試みも実施。テストマーケティングの場としてECサイトを活用し、カタログ通販のスケールメリットを活かして安く提供できるようにするといった手法を試行錯誤している段階だ。
フルフィルメントのインフラ面を含め、ECのための最適化を続ける千趣会。今後も、ECの最大手クラスに追いつき追い越すためにも、ただ単に安さを訴求するのではなく、同社がカタログ作成で長年培ってきた企画力を活かした出版社などとのタイアップや、ブランド品・スポーツ用品のラインアップ拡充など、「千趣会らしさ」を打ち出しながら成長を続けられるよう、取り組んでいく考えだ。
を創刊するなど、今後も果敢に未開拓のジャンルへの挑戦を続ける

MarkeZine総力特集!
【10年後も勝ち抜く EC・ネット通販最新戦略】 公開中!
