清水
そうです。このような状態を僕は「コンテンツのボーキサイト化」と呼んでいます。アルミニウムの原料であるボーキサイトのように、コンテンツが低価格でバリエーション豊富に量産されるようになっています。着メロも同じで一時期どこのサイトでダウンロードしても全く同じデータだったことがあって、これは要するに着メロ市場が値崩れして一個50円とか100円とかで取引されるようになってしまったのです。着メロは流行曲が次から次へと出てきて消費されるのが早い。中国などで作られてどんどん単価が安くなっています。すると一番儲かるのは、最終的に商社なんです。弊社が関連している企業でも、こうしたモバイルコンテンツ商社が儲かっています。国内では外国企業が作れない本当に価値のあるものを提供できないと生き残っていけない。この傾向はこれからもっと強まるでしょう。
編集部
ゲーム業界も厳しい状況ですか?
清水
あまり一般に知られていないかもしれませんがゲーム制作の下請けというのは、とてもつらい仕事ですよ。クリエイティビティが優先される仕事という印象があると思いますが、クライアントであるプロデューサーを満足させなければならない。製品の出来に明確な基準がなく、プロデューサーを説得しなければならない。しかも締め切りがない。
編集部
締め切りがないのは出版業界に携わる者としてはむしろ楽という気もしますが…?
清水
いや、下請け業者にはあります。でもプロデューサーには「この日までに作りたい」っていう気持ちしかなくて、結局最終的にはクオリティが満足行かないという理由で締め切りが無限に引き延ばされることがあるのですよ。期間を延ばして仕事をしてもその分の報酬は出ない場合もあります。だから、「これは無理だ。少なくとも締め切りのある人たちと仕事しないと」と教訓になりました。
僕、会社作るときに超大手ゲームソフト会社の創業者の方に「ゲーム会社だけはやるなよ。ソフトが売れなかったらどうしようと考えてしまい、今でも夜安眠できない」といわれました。それもあって経営者としてはゲーム業界からなんとか脱出しなくてはならないと考えたのです。もちろんゲーム会社でもやりがいがあり、なおかつ稼いでいる職場や会社も多いとは思いますが。
儲けるためには「ビジネスパイプラインを作れ」
編集部
やりたいことと経営は別ということですね。
清水
企業が継続的に成長していくには、ラットレースから抜け出さなければならない。僕が教訓にしているのは、(ゲーム施設、家庭用ソフトを事業とする)
テクモ株式会社の中村純司さん(元代表取締役社長)の「ビジネスパイプラインを作れ」という言葉です。もともと中村氏は商社に勤めていた時に中東で石油コンビナートを担当していたこともあり、常に「ビジネスパイプライン」っていう言葉を使ってビジネスを説明するんですよ。つまり、あらゆるものが中村氏にとってコンビナートのメタファーになっていて、「ビジネスっていうのはパイプラインでなければダメだ」と。
会社はパイプラインで、一方からお金を入れたら、反対側へ3倍になって出てくるという、そういうトランジスタのような機能をはたさないといけない。だから2000万かけて3000万稼げますという話ではダメなんです。儲けが1000万ではあまりにも少ないからです。ただしそれが2億円かけたら3億円出てくるように大規模で成り立つなら、その時初めてビジネスになるんです。
ゲーム会社は2000万かけたら3000万や、うまく行けば1億円になるかもしれない。けれども2億円かけても10億円という規模にはならない。つまりコストをかけても売り上げが上がる保障がないのです。これがゲーム業界が難しいことの理由の1つでもあります。