ゲーミフィケーションの本質は何か?
インターネット自体がもたらしてきた“個人のエンパワーメント”を、近年のソーシャルグラフの浸透がさらに後押ししていることは間違いありません。その点で、ユーザーに楽しんでもらうことで自社のファンになってもらう、エンゲージメントを高めてもらうという発想もまた、自然な流れと言えるでしょう。最早、企業がユーザーを囲い込むという発想そのものが通用しなくなってきている現在、いかにユーザーに“自分から”その企業の商品やサービスを使おうとしてもらうかが、今後の企業とユーザーの関係性の本質となっていきます。
ゲーミフィケーションは「ソーシャル化がもたらす、さらなる個人のエンパワーメント」を前提とした概念であり、時代に適応するための必要条件となるでしょう。
同じ文脈において、ソーシャル性の活用ということだけでなく、前述のようにゲームが持つユーザーを楽しませるノウハウも有効に使うことができます。ゲームにも面白いものとつまらないものがあります。面白いゲームには理由があります。ただし、面白いとされているゲームが備える特徴を見ていくことで、“ユーザーがなぜ楽しんでいるのか”という秘密を垣間見ることができます。これもまた、ゲーミフィケーションを実現する上で欠かせないものです。
バッジやポイントがゲーミフィケーションではない
このような、ソーシャル性の活用ノウハウやユーザーを楽しませるノウハウは、それだけではまとまりがなく、「ゲーム以外の領域に使えます」と言ってもなかなかイメージが湧きづらい部分もあるでしょう。そこで次回は、これらのノウハウを汎用的に当てはめることができるような枠組みを説明します。筆者はこれに「ゲーミフィケーション・フレームワーク」と名付けました。
本稿では具体的に説明はしませんが、ゲーミフィケーション・フレームワークは、このソーシャル化時代に適切なユーザーとの関係性を築くサービスを作り上げるためのデザイン手法であると捉えることもできます。
ただ、誤解のないようにしておきたいのは、デザイン手法と言っても単にバッジやポイント、レベルといった表面的な要素のみ取り入れるということを指しているわけではない、ということです。ゲームに面白いゲームとつまらないゲームがあるように、ゲーミフィケーションにも成功するものと失敗するものがあります。適切にデザインする必要があるということを、ぜひ覚えておいてください。
ゲーミフィケーションにおいて1つ注意する必要があるのは、ユーザーがロイヤリティを感じるのは“その企業の商品やサービスあるいは企業自体の魅力に対してである”ということです。それをさらに輝かせる、新たな魅力に気付かせる、ファンであるユーザーが自発的に広めてくれる、そうしたことを支援するのがゲーミフィケーションです。
ゲーミフィケーションをより理解するための関連学術研究
最後に、ゲーミフィケーションの本質をより理解していただくために、人間のモチベーションに関するいくつかの研究成果に触れたいと思います。
まずは、「自己決定理論(Self Determination Theory)」です。これはアメリカの心理学者エドワード・L・デシ氏が提唱した「動機付け」に関する理論です。
この理論では、人間の動機付けには大きく分けて「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の2種類があるとしています。前者は、主に金銭に代表される外部からの報酬に基づいて人間が動機付けられること。後者は、自分の内から湧いてくる好奇心・興味といったことに基づいて人間が動機付けられることを指しています。
デシ氏の実証実験によれば、外発的動機付けは短期的な効果しかあがらず、効果を維持させるには外部からの報酬を与え続けなければいけないため、動機付けの方法としては必ずしも適当ではなく、内発的な動機付けをもってなされるモチベーションの維持・向上を重視すべきだという結論が出ています。
例えば、“ユーザーに付与する報酬をどのように設定するか”ということはゲーミフィケーションにおいて重要な検討事項になりますが、その際には大きく参考になる事柄でしょう。
また「フロー理論」というものもあります。これはアメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイ氏が提唱する理論で、“人はどんな時に一番楽しさを感じるのか”ということについて説明しています。下図のように、高い能力を要求されるような、難易度の高い課題である方が“フロー“に入りやすい、つまり真剣に楽しんで取り組みやすいというものです。
これはゲーミフィケーションにおいては、全体のバランスを調整するといったことに相当します。課題へのチャレンジが、簡単すぎない・難しすぎないように調節する、ということがいかに重要であるかが、こうした理論からも分かります。

これらの理論は、とてもこの短い紙面では説明しきないので、もし興味があれば、それぞれ『人を伸ばす力』(新曜社)『フロー体験 喜びの現象学』という書籍に詳しく書かれています。そちらを、ご覧ください。
また、ここでは触れられませんでしたが、人間の欲求に関する分析結果から得られた「16の基本的な欲求」もゲーミフィケーションを考える上で役立ちます(参考リンク:16の基本的な欲求:gamification.jp)。
ゲーミフィケーションの本質を捉えるために、様々な分野からゲーミフィケーションというものを眺めてみました。かえって複雑な印象を受けたかもしれませんが、こうしたことを踏まえて実践に臨めば、ゲーミフィケーションをWebなどに適用する上で、失敗の機会を確実に減らすことができると思います。深みと面白みを感じて頂くことができれば幸いです。