多様化、分散化、大量化した情報間を結ぶ関係性のルールの実装
先ほど、データベース化というキーワードを提示しました。Webサイトの情報構造に、これまでのツリー構造に加え、ブログ的なフロー―ストック的な構造を組み込むことを考える場合、データベース構築においてデータ間の関係性を規定するER図的(注:6)な発想を情報間のリンク構造に応用する機会が増えるでしょう。
ブログ記事はストックされると述べましたが、とはいえストックされているだけで人の目に触れなければ意味はありません。情報発信スピードX情報ストックの大きさは、サイトのエネルギーに比例します。その意味で、資産としてのストック情報に、ユーザーをいかにナビゲートするかは情報資産の有効活用という意味では課題の1つです。
方法はいくつか考えられます。先のamazonのサイト内でのナビゲーションがやはり参考になります。
最も単純な方法は検索機能です。ユーザーがセルフサービスで情報を検索できればユーザビリティの向上になるでしょう。しかし、ユーザーの能動性に頼るだけでは、やはり十分ではありません。検索クエリを入力させるようなユーザーの積極性を期待せずに適切な情報をリコメンドできる仕組みも必要です。それには2つの方向性があるでしょう。1つは情報発信サイドからのリコメンド、もう1つはユーザーの集合知を活かしたリコメンドです。前者はやはりamazonの「この本を買った人はこんな本も買っています」というような関連情報のリンクの提示です。とはいえ、何もユーザーの行動履歴の分析結果だけにたよる必要もないでしょう。そうでない場合は、タギング(注:7)の考え方が参考になるのではないかと思います。
最近、話題に上るタギングはユーザーによるソーシャル・タギングですが、ユーザーの参加を求めなくても企業内でタギングを行うことで、1つの情報に対して複数カテゴリー(=タグ)の設定が可能というタギングという分類法の持つメリットを有効活用することは可能です。後者は、当然、タギングという分類そのものをユーザーに解放すること(フォークソノミー)もその1つでしょうし、アクセス数やコメント数など、ユーザーの人気度を測れるような指標によるランキングを、ナビゲートの仕組みとして利用することも可能なはずです。
重要なことは、情報の関係性(=リンク構造)を企業の中央集権的な発想によってのみ決めてしまうのではなく、リンク構造自体に多様性や独立性、分散性といった集合知の活用のための要件を満たすような仕組みを、いかに取り入れることが可能かということでしょう。
情報資産の「私有」から「共有」を可能にする外部が利用可能な仕組み
ここまで読んでいただいた方にはもうなんとなくお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、上記のようなサイト構築を可能にするためには、これまで個々の企業によって完全に私有地化されていたWebサイトをある程度、公共地化することが必要になります。
具体的にはユーザーのコメント、トラックバック(注:8)を受ける仕組みや、RSS/Atom Feedのように外部のサイトが再利用可能なフォーマットの提供がそれに当たるでしょう。特徴的な機能、例えば商品の販売や何かしらのデータベースの検索機能などを持つサイトであれば、その機能のAPI(注:9)自体を外部が利用可能な形で公開することも考えられます。この流れはいわゆるオープンソース化の流れの延長線上にあるものであり、これまでの囲い込み戦略とは対極的なものとも言えるでしょう。
そして、ある意味で究極的なオープンソース化は、従業員のオープンソース化ではないかと思います。それが冒頭の調整役は不要であるという論点とも重なってきます。オープンソース化、情報の公共化という意味でも、これからは従業員一人ひとりが自らの言葉で情報を発信していくことがより求められるようになると考えられます。
量子マーケティングの時代へ
ものを売る時代からサービスを売る時代へ、そして、経験を売る時代へ。
それでも、マーケティングとは今も昔も、そして、これからも「売る仕組み」のことです。しかし、Web2.0というキーワードに象徴される時代の流れの中で、それぞれ異なるコンテクストを持つユーザーの経験を演出するには、企業という単位ではなく、情報と同じように細分化され、独立し、多様性を有した個々の従業員の行動が必要になってくることは間違いないのではないでしょうか?
あるいは、従業員という単位さえもさらに細分化され、従業員それぞれが編み上げる情報のネットワークこそが今後のマーケティングにおいて何より重要なキーとなってくるでしょう。その1つひとつの絆は、その存在自体が観測者の役割が大きく関与している物理学における量子(注:10)と同じように、非常にもろく移ろいやすいものかもしれません
。しかし、この世界そのものが量子でできていると考えられているように、そうした微細な絆によって、今後、企業と市場の関係性は築かれる方向にシフトしていくはずです。
こうした小さな絆、microな情報のネットワークによるマーケティングを「量子マーケティング」と呼んでもいいかもしれません。もちろん、そのためには企業も、個々の従業員も、そして、オンラインマーケティングにおける情報も、すべてリデザインすることが絶対条件となってくるのではないでしょうか【図4】。