SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

ビジネスマンのための必読オンラインマーケティング塾

第1回 Web2.0以降、オンラインマーケティングはどう変わるのか?


多様化、分散化、大量化した情報間を結ぶ関係性のルールの実装

 先ほど、データベース化というキーワードを提示しました。Webサイトの情報構造に、これまでのツリー構造に加え、ブログ的なフロー―ストック的な構造を組み込むことを考える場合、データベース構築においてデータ間の関係性を規定するER図的(注:6)な発想を情報間のリンク構造に応用する機会が増えるでしょう。

 ブログ記事はストックされると述べましたが、とはいえストックされているだけで人の目に触れなければ意味はありません。情報発信スピードX情報ストックの大きさは、サイトのエネルギーに比例します。その意味で、資産としてのストック情報に、ユーザーをいかにナビゲートするかは情報資産の有効活用という意味では課題の1つです。
方法はいくつか考えられます。先のamazonのサイト内でのナビゲーションがやはり参考になります。

 最も単純な方法は検索機能です。ユーザーがセルフサービスで情報を検索できればユーザビリティの向上になるでしょう。しかし、ユーザーの能動性に頼るだけでは、やはり十分ではありません。検索クエリを入力させるようなユーザーの積極性を期待せずに適切な情報をリコメンドできる仕組みも必要です。それには2つの方向性があるでしょう。1つは情報発信サイドからのリコメンド、もう1つはユーザーの集合知を活かしたリコメンドです。前者はやはりamazonの「この本を買った人はこんな本も買っています」というような関連情報のリンクの提示です。とはいえ、何もユーザーの行動履歴の分析結果だけにたよる必要もないでしょう。そうでない場合は、タギング(注:7)の考え方が参考になるのではないかと思います。

 最近、話題に上るタギングはユーザーによるソーシャル・タギングですが、ユーザーの参加を求めなくても企業内でタギングを行うことで、1つの情報に対して複数カテゴリー(=タグ)の設定が可能というタギングという分類法の持つメリットを有効活用することは可能です。後者は、当然、タギングという分類そのものをユーザーに解放すること(フォークソノミー)もその1つでしょうし、アクセス数やコメント数など、ユーザーの人気度を測れるような指標によるランキングを、ナビゲートの仕組みとして利用することも可能なはずです。

 重要なことは、情報の関係性(=リンク構造)を企業の中央集権的な発想によってのみ決めてしまうのではなく、リンク構造自体に多様性や独立性、分散性といった集合知の活用のための要件を満たすような仕組みを、いかに取り入れることが可能かということでしょう。

情報資産の「私有」から「共有」を可能にする外部が利用可能な仕組み

 ここまで読んでいただいた方にはもうなんとなくお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、上記のようなサイト構築を可能にするためには、これまで個々の企業によって完全に私有地化されていたWebサイトをある程度、公共地化することが必要になります。

 具体的にはユーザーのコメント、トラックバック(注:8)を受ける仕組みや、RSS/Atom Feedのように外部のサイトが再利用可能なフォーマットの提供がそれに当たるでしょう。特徴的な機能、例えば商品の販売や何かしらのデータベースの検索機能などを持つサイトであれば、その機能のAPI(注:9)自体を外部が利用可能な形で公開することも考えられます。この流れはいわゆるオープンソース化の流れの延長線上にあるものであり、これまでの囲い込み戦略とは対極的なものとも言えるでしょう。

そして、ある意味で究極的なオープンソース化は、従業員のオープンソース化ではないかと思います。それが冒頭の調整役は不要であるという論点とも重なってきます。オープンソース化、情報の公共化という意味でも、これからは従業員一人ひとりが自らの言葉で情報を発信していくことがより求められるようになると考えられます。

量子マーケティングの時代へ

 ものを売る時代からサービスを売る時代へ、そして、経験を売る時代へ。

 それでも、マーケティングとは今も昔も、そして、これからも「売る仕組み」のことです。しかし、Web2.0というキーワードに象徴される時代の流れの中で、それぞれ異なるコンテクストを持つユーザーの経験を演出するには、企業という単位ではなく、情報と同じように細分化され、独立し、多様性を有した個々の従業員の行動が必要になってくることは間違いないのではないでしょうか?

 あるいは、従業員という単位さえもさらに細分化され、従業員それぞれが編み上げる情報のネットワークこそが今後のマーケティングにおいて何より重要なキーとなってくるでしょう。その1つひとつの絆は、その存在自体が観測者の役割が大きく関与している物理学における量子(注:10)と同じように、非常にもろく移ろいやすいものかもしれません
。しかし、この世界そのものが量子でできていると考えられているように、そうした微細な絆によって、今後、企業と市場の関係性は築かれる方向にシフトしていくはずです。

 こうした小さな絆、microな情報のネットワークによるマーケティングを「量子マーケティング」と呼んでもいいかもしれません。もちろん、そのためには企業も、個々の従業員も、そして、オンラインマーケティングにおける情報も、すべてリデザインすることが絶対条件となってくるのではないでしょうか【図4】。

【図4】:非ツリー構造による情報の粒子のネットワーク
(注:6)ER図
ER図とは、データベース設計に用いられるモデリングの手法の1つで、Entity-Relationshipの名の通り、現実の世界を実体(Entity)と関連(Relationship)の2つの概念を用いて表現することでデータ構造をモデル化する。例えば「顧客」と「商品」という2つのEntity間には、「受注」「納品」「請求」などのさまざまなRelationshipが考えられる。ビジネスとして考えると、Entityは企業にとってのリソースであり、異なるEntity同士を組み合わせたイベントとしてのRelationshipを生み出すことで、企業は新たなビジネスチャンスをつかむことが可能であろう。例えば、「検索キーワード」-「キーワードマッチした商品」あるいは「商品を探している人」-「商品を売りたい人」の間に新たなRelationshipを生成して大きなビジネスを生んだOvertureやGoogle Adwordsのように。
もどる
(注:7)タギング
タギングは、日々増え続ける膨大な情報を分類、整理することを目的として、「del.icio.us」や「はてなブックマーク」などのソーシャルブックマーク・サービス、Flickrなどの写真共有サイトなどで利用される、タグを使ったメタデータによる情報分類法。Folksonomy(folk[民衆]と taxonomy[分類法]の合成語)も同様の意味で用いられ、情報の検索性の向上に利用されることから、ロボット型検索やディレクトリ型検索などとも比較されたりする。
もどる
(注:8)トラックバック
トラックバックとはブログの機能の1つで、別のブログにリンクを張った際、相手にそのことを通知(ping)する仕組みのこと。通知の際には、リンク元記事のURLやタイトル、内容の要約などが送信される。書籍などの場合、「~より引用」「参考文献」と参照先に断りを入れることがあるが、トラックバックはそのWeb版であるともいえる。ブログの読み手にとっては、今読んでいる記事の参考記事の在り処を知ることができるというメリットがある。
もどる
(注:9)API
APIは、Application Program Interface(アプリケーション・プログラム・インターフェイス)の略で、アプリケーションから利用できるオペレーティングシステムやプログラミング言語で用意されたライブラリなどの機能の入り口となるもの。現在、GoogleやYahoo!、amazonをはじめとするサイトが自社のWebサービスのAPIを外部利用できるよう公開している。有名なところではGoogle MapsのAPIを用いたはてなマップや、amazonのAPIを用いたamazletなどがある。
もどる
(注:10)量子
量子とは、物理学の量子力学の分野で用いられる言葉で、「粒子性」と「波動性」を同時に持った物質の性質を表す物理的な量の最小単位。原子や分子のスケールでは物質は量子的に振舞う。そして、その最も小さな粒が持つあいまいさ(量子重ね合わせ)という不可思議な性質は、コンピュータ科学の分野に「量子コンピューティング」という夢を抱かせた。情報理論の創始者クロード・シャノンが定めた情報の量bit(0か1の二者択一を行う1回量)は、将来、0と1の2つの状態を同時に取ることのできる、二者択一の原理が成り立たない量子の世界のqubit(物理学者のウィリアム・ウッターズとベンジャミン・シューマッハが命名)に取って代わられる可能性もある。
もどる

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
ビジネスマンのための必読オンラインマーケティング塾連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

棚橋 弘季(タナハシ ヒロキ)

芝浦工業大学工学部(建築学専攻)卒。マーケティング・リサーチ、Web開発等の仕事を経て2003年より株式会社ミツエーリンクスに。現在はWebを使ったマーケティングに関する企画や自社サービスの開発に従事。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

ミツエーリンクス(ミツエーリンクス)

1990年というIT分野の幕開けともいえる時期から、ITビジネス支援事業としてデジタルコンテンツを中心としたユニークなサービスを供給するインフォメーション・インテグレータ。企業に求められるさまざまな要件について、顧客企業さまの経営戦略にもとづくコンサルティング、マーケティング、分析、プランニング、設...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2012/02/16 12:57 https://markezine.jp/article/detail/14

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング