4月9日、FacebookがInstagramを買収した
インターネットにはとんでもなく旬のサービスが必ずある。びっくりするほど動きが早く、驚くような次の一手を打ってくる。業界中がそのサービスに注目し、動向を見極めようとするが、なにしろ事業フィールドそのものを切り開きながら進撃しているので予測がつかない。風光明媚な郊外に突然ビルを打ち立てて周囲を右往左往させる。
日本時間の4月10日早朝(現地時間で9日)。まさにそういうニュースが飛び込んできた。スマートフォン専用の写真共有アプリ兼サービスのInstagramを、Facebookが買収することで両者が合意したというのだ。現金と株式の総額で10億ドル。日本円で800億円強という大型買収だ。
多くのネットユーザーが「えっ!?」と声を上げただろう。Instagramは注目を集めているスマートフォンアプリとはいえ、2010年10月にiPhone版をリリースしてまだ2年も経っていない。Android版にいたってはこの4月3日(現地時間)にリリースされたばかりだ。もっとも、初日だけで100万ダウンロードを達成しており、買収が発表された9日までに500万ダウンロードとの報道もある。iOSでの利用者が約3000万人とのことで、すぐに5000万人に到達するだろう。
Instagramにあって、Facebookにはないもの
Instagramはスマートフォン専用の写真アプリだが、友達同士で共有してハートを付けたりコメントを投稿できる。独自のソーシャルグラフによる写真ストリームがあり、PathやLineのようなスモールSNSとも見ることができる。いま挙げたInstagramの3つの特長、すなわち「スマートフォン」「写真」「スモールコミュニケーション」。これらはいずれも現在のソーシャルメディアの最先端の注目要素であり、なおかつFacebookが不得意としている分野だ。
FacebookはPCで利用したときのユーザー体験が最大になるよう作られており、スマートフォンではいくつかの機能が利用できない。また、写真の投稿数では世界最大と言われるほど多くの写真がアップロードされているにもかかわらず、写真やアルバム機能がそれほど充実してないことはよく指摘される。写真の表示方法は何度も改修され、先日ようやく全画面表示機能が入った。
スモールコミュニケーションもFacebookの苦手とするところ
スモールコミュニケーションもFacebookの苦手とするところだ。Facebookは実名制でリアルな人間関係を重視するという思想に基づいて運営されている。それはそれでソーシャルネットワーキングサイトのあり方として正しいのだが、いかんせん人には「こっちのつながりと、あっちのつながりは分けておきたい」ということがままある。
職場ではバリバリのキャリアウーマンなのに、ママ友のコミュニティがFacebookに流れ込んできたがために、自分の子供の写真を部下が「いいね!」するような錯綜した状況になって困っているというはなしは時おり耳にする。リストやグループといった機能を提供し、実名のものに統合されてしまったキャラクターを使い分けられるようにする工夫をもちろんFacebookも導入してはいる。しかし、それなら最初から少人数だけを承認したSNSを作ったほうが早い。
少人数SNSというコンセプトは、Instagramと同時期にローンチされたPathがその先駆けといえる。Pathもスマートフォン専用のSNSで、もちろん写真共有は重要な機能だ。ただ、InstagramはTwitterのような片方向フォローが基本ということもあって、厳密にスモールなコミュニティではないが、Twitterのようにワールドワイドに開かれて検索可能であったり、Facebookのようにリアルに統合されてしまうのではない、代替の小規模なストリームという位置づけではあることは間違いないだろう。