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「ROIで50%の差をつける」 統合マーケティング・マネジメントを実践する先進企業5社の事例

 ライバル企業に差をつける一手を探しているマーケッターにとって、今後、無視できない考え方になるのが「統合マーケティング・マネジメント」。いったいどのような考え方、プロセスで行われるものなのだろうか。「優良顧客の流出を自動的に防止」「キャンペーン全体のROIを1.55倍に」といった成果を上げ始めている先進企業5社の事例が取り上げられたSAS Forum Japan 2012のセッションをレポートする。

マーケティングROIで50%の差をつける「IMM」とは

 2014年までに、IMMに基づくマーケティング戦略を保有する企業は、それを持たない企業に比べ、50%以上マーケティングROIに差をつけるであろう――。調査会社のGartnerは2010年の調査レポートで、このように予測している。

 IMMとは、「統合マーケティング・マネジメント/Integrated Marketing Management」の略称。IMMとはどのような考え方で、IMMに取り組む企業の事例としてはどのようなものが出始めているのだろうか。SAS Forum Japan 2012で行われた同社ビジネス開発本部 CIグループ部長 高橋昌樹氏のセッションを通じ、IMMについて学んでいこう。

SAS Institute Japan 株式会社
ビジネス開発本部 CIグループ部長 高橋 昌樹氏
SAS Institute Japan 株式会社 ビジネス開発本部 CIグループ部長 高橋 昌樹氏

マーケティングを取り巻く環境の変化

 高橋氏はまず、マーケティングが置かれている環境を、「顧客」「テクノロジー」「説明責任」という3つの視点から整理した。この中で最も注目すべきなのは顧客の変化だ。ネット、そしてソーシャルの普及により、顧客の影響力、発言力が増し、企業側から消費者へのパワーシフトが進行しているという。顧客に不快な体験をさせてしまった場合、あっという間に悪い評判が口コミで伝播するのだ。

 また、テクノロジーの変化も著しい。インフラとしてソーシャルメディアが定着し、スマートフォンの普及が進む中で、大量のデータがかつてないスピードで日々生成されている状況だ。従来の構造化データに加え、ブログやクチコミといったテキストデータ(非構造化データ)を活用した顧客行動分析も可能となっている。

 さらにマーケティング部門に投資対効果(ROI)への説明責任が求められるようになる一方で、単に顧客とのリレーションを構築するだけでなく、ロイヤリティを感じてもらえるような関係を築かなければならないようになったと指摘している。

 「『ブランドマネジメント』や『効果的なキャンペーン』など従来から求められている内容に加え、『顧客理解』『顧客ロイヤリティの向上』といった内容も求められるようになっています」(高橋氏、以下同)

ソーシャル時代に外せない「ロイヤリティ」というキーワード

 ここで注目したいのが「ロイヤリティ」というキーワードだ。顧客がお互いに情報交換できる環境を手にしているソーシャル時代においては、顧客同士が常につながっている状況にあるという。

 「このような時代においては、従来のように購入してもらえばよいという考え方で終わるのではなく、もう一段上の関係を顧客と築く、つまり自社の商品を話題にし、薦めてくれるロイヤリティの高い顧客をいかに増やしていくのか、という考え方が求められています」と高橋氏は述べる。

 そのためには、顧客とのやり取りや利用履歴、顧客の声などをデータとして蓄積・分析し、顧客の嗜好に応じた商品提案活動や、あらゆる顧客接点での継続的な品質改善に役立てていくことが重要だ。見込み客へのアプローチから始まり、顧客・リピーター化するだけでなく、支持者・擁護者として企業活動や商品・サービスのファンになってもらう活動がこれからのマーケティングには不可欠なのだ。

 ロイヤリティの醸成のために今後のマーケティングに求められる姿として、高橋氏は次の点を挙げた。

  1. マーケティングに関連するプロセス、テクノロジーを統合し、ファンクションの分断を解消し、One Messageによってブランドを強化
  2. 伝統的なマーケティングとデジタルマーケティングを駆使し、高いブランドロイヤルティを実現
  3. 顧客の包括的な理解を一層進め、セグメンテーション、ターゲティングを磨き、優れた顧客体験を提供
  4. 顧客の声を傾聴し、商品やサービスの企画、提供に反映する仕組みを構築
  5. パフォーマンスの可視化・分析を進め、アカウンタビリティの明確化、ROIの継続的改善を実現

 「こういったことを推進していくためには、人手では限界があり、何らかのテクノロジーが必要になります。それがIMMというコンセプトでありシステムなのです」と高橋氏は述べ、続いてIMMのプロセスと推進するのに必要なテクノロジーについて詳しく語った。

IMMによるキャンペーン管理とオペレーションの連携

 まずはCRMシステムやERP、Webログやソーシャルメディア、キャンペーン情報など、顧客に関するデータを収集・統合し、活用・分析できるように準備する。こうして集めたデータを用いて顧客を正しく理解するためには、分析が必要不可欠だ。

 分析により、顧客当たりの収益性やキャンペーン反応率の把握はもちろん、顧客が次に必要とする製品は何か、どういった提案を行えばロイヤリティを高められるかを予測していくことが可能になる。

 次に、自社の戦略と照らし合わせながら分析結果に基づきマーケティング・プランニングに着手する。この際、業績やリソース、プロセス、スケジュールなど複雑な要素を考慮し、連携を取りながら組み立てることが重要だ。

 「まずプランがあり、一人ひとりのお客様に対する戦術があり、それを使う道具がある。限られたお金・リソースの中でどういう手段をとり、どう最適化していくのか。この考え方がIMMの基本的な考え方であり、必要だと言われるプロセスだ」と、高橋氏はIMMの考え方を紹介した。そして、IMMの実現のために不可欠な最適化のために重要となるのが、「分析」だと指摘する。

「R」と「I」の関係を見直す

 ここで、高橋氏は「そもそもなぜ分析をする必要があるのでしょうか?」と会場に問いかけた。

「マーケティングの投資を増やしていくとリターンも増えます。投資もリターンも色々なバリエーションがあると思いますが、どこかで限界が来ます。これはROIの構造です。しかし、分析に基づいた優れたセグメンテーションやターゲティングを行えば、ROIの構造を変えることができます」

講演資料より抜粋(以下、同)
講演資料より抜粋(以下、同)

 「分析の価値はこの曲線をどれだけ上に引っ張り上げられるかという点にあります。上に行けばいくほど効率的なマーケティングを行っているという意味であり、構造が見えることでどこまで投資すればよいのかという基準も分かるようになります」

 テレビ、雑誌といったマス広告、バナー、リスティングといったネット広告に出稿しつつ、チラシを配り、ダイレクトメールを送る。このように、同時並行でいくつもの施策を展開するケースも多いが、どこにどれだけの予算を投資すれば、トータルのROIが最も高くなるのか知ることが重要だ。

 では、SAS Customer Intelligenceの導入企業はどのようにマーケティングに取り組んでいるのだろうか。講演の後半ではIMMに取り組む企業が得られた成果について紹介された。

事例:優良顧客の流出を自動的に防ぐ仕組みを構築

 高橋氏が最初に紹介した事例は、Staplesという小売企業。店舗・カタログ・ECサイトでオフィス製品や文房具を販売している。

 「お客様一人ひとりに向けて、パーソナライズしたメッセージや価格を提示することで、最優良顧客のロイヤリティを高めたい。優良顧客が他社に流れるのを事前に予測して防ぎたい。こういった悩みを抱えておられました」。Staplesは導入したSASを使い、過去のデータを分析。顧客が他社に流出する前には購入履歴に特定の兆しが現れることを見つけ出し、兆しが現れた顧客に対しては自動的に特別なオファーを提示するように設定した。

事例:イベント・ベースド・マーケティングを実現し最適な提案を実施

 2つ目の事例は、横浜銀行だ。一人ひとりの顧客口座の動きをパターンとして認識することで、通常とは異なる残高の急激な変化や退職・結婚などのライフイベントの発生をタイムリーに把握し、最適なタイミングでの提案を行うイベント・ベースド・マーケティング(EBM)を実現した。

 「『この人には、もしかしたらローンのニーズがあるのでは』『運用のニーズがあるのでは』といった傾向を分析して見つけ出します。当てはまる顧客が見つかったら、担当営業や窓口にその情報が届く仕組みを作っておられます」

 EBMは劇的な成果を生み、投資信託と保険商品の成約率が10%に向上。当初は「この人は~では」という仮説が4種類のみだったが、導入から2年で25種類にまで増加している。

事例:キャンペーン“全体”で最適化してROI を1.55倍に

 キャンペーンのROIを最適化した事例として高橋氏が挙げたのは、ドイツの銀行COMMERZBANKの事例。最大で、同時に10個進めているキャンペーン間の相互作用を把握できるようにして、効果が最も高まる予算配分を導き出した。

 「クレジットカードの審査に必要な収入基準を下げると、カードの発行数は増えます。しかし、その結果、投資商品や消費者金融の利用額が減ってしまい、ほかの商品に悪影響を及ぼすわけです」

 COMMERZBANKはSASの最適化機能を使って、キャンペーン全体で見た時のROIが最大になるように試みた。予算、広告・PRなどに使うチャネルのキャパシティ、キャンペーンの規模といった制約条件を踏まえながら最適化を図ったところ、キャンペーン全体のROIが1.55倍にまで改善した。

事例:プラットフォームを活用し自社とディーラーの取り組みを連携

 続いて紹介されたのは、オペレーションの最適化を図った米国の大手建設機械メーカーの取り組み。世界各地に多数のディーラーを抱え、各ディーラーが販売促進の目的で無秩序にいろいろなキャンペーンを実施していた。

 「どこのディーラーが何をやっているのか、分からない状況でした。メーカー自体もマーケティングをやっていますので、発信するメッセージに不整合や無駄が生じていました」

 そこで世界各地で行われているキャンペーンを、同じプラットフォーム上で管理できる仕組みを導入。自社とディーラーの取り組みを連携させて、効率的にメッセージを発信できる体制にした。カタログやPR用映像などについても、上手く共有できるようになり、制作費用を大幅に削減することになった。

事例:口コミサイトの分析に基づき、施策を立案・評価

 最後の事例は、ソーシャルメディアを分析してブランド管理・改善に役立てている米国ホテルチェーンの話。

 「ホテルに関する口コミサイトの情報を収集・分析することで、自社ホテルの予約対応・食事・設備などについて、どのような評価がされているのか、時系列で追い掛けられるようにしました。

 実際に評価の低かったロビーの改装をしてみました。普通はアンケートで改装後の評価を聞くところですが、ソーシャルメディアでの評判がどう変わったのかを調べました。すると、ロビーを改装したら設備に対する評価が上がり、ホテルの評価も上がったのです。ソーシャルメディアの活用は始まったばかり。こういった取り組みが参考になるのではないでしょうか」

IMMを実現するSAS Customer Intelligence

 分析に基づく顧客の包括的な理解とチャネル横断でのプロセス、テクロノジーの統合により、優れた顧客体験を提供し、ロイヤリティの向上を実現するIMM。これを実現するのが、SASが提供するSAS Customer Intelligenceだ。

 顧客セグメンテーションや顧客行動分析・予測、センチメント(顧客の感情)分析など、顧客理解を深めるための機能に加え、キャンペーン管理、リソースの最適化、効果検証、オペレーション管理など、マーケティング業務を包括的に支援する。

 高橋氏は、顧客が本当に必要とする情報を提供することによって顧客との信頼関係を築き、ブランドに対するロイヤリティの長期的向上を実現した先進事例を通じて、IMMへの理解が深まればと語り、セッションを締めくくった。

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この記事の著者

中嶋 嘉祐(ナカジマ ヨシヒロ)

ベンチャー2社で事業責任者として上場に向けて貢献するも、ライブドアショック・リーマンショックで未遂に終わる。現在はフリーの事業立ち上げ屋。副業はライター。現在は、MONOistキャリアフォーラム、MONOist転職の編集業務などを手掛けている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2012/10/24 16:28 https://markezine.jp/article/detail/15826