上原教授はまず、本講演の2つの大きなポイントを挙げた。1つは「顧客接点の変化に沿って、マーケティングも変化しなければならない」、もう1つは「たとえ競争関係にある企業同士であっても、データを共有することで多大なメリットを得られる」。この2つのポイントが、今後の小売業の成否を決めるという。
店舗以外の顧客接点が増加 対応すべく変化した成功企業たち
まずは顧客接点の変化について、具体的に見ていこう。上原教授は、「店舗でモノを買う」だけではない、さまざまな接点が生まれてきているという。
具体的には、すでに動いている顧客をターゲットにし、さらに乗車カードでデータが取得できる「駅ナカビジネスの隆盛」、買い物弱者を助ける「宅配ビジネスの拡大」、ネットで顧客と直接接触し、商品開発や販売に意見を取り入れる「SNSマーケティングの活用」などである。
小売の業態も、「商店街」「百貨店」「GMS」などから、「宅配」「ダイレクトマーケティング」へと変遷を見せる。前者は単に顧客を集めるビジネス、後者は顧客に近づくビジネスと定義できるが、さまざまな顧客接点に対応可能な後者が成長していることは明らかだろう。
昨今、成功している有店舗企業には、地域密着型のスーパーマーケットを組織化している「CGCジャパン」、製造過程へ介入する「セイコーマート」、サプライチェーンを構築する「ユニクロ」などがあるが、小売業⇒流通⇒製造⇒ネットで顧客と直接コミュニケーションをとる、といった具合に業態を変え、顧客に近づく努力をしているわけだ。
価格と質を追求する、PQハンターと企業はどう付き合うべきか
顧客そのものはどう変わってきているのだろうか。上原教授いわく、「これからの顧客はPQハンターになる」。PQハンターとは、Price(価格)とQuality(質)の両方を追求する顧客のことで、現時点では都会で通販を利用する人たちに多いという。彼らは情報豊かで、「過剰品質を排除した、品質が良くて安い商品」を好むそうだ。
PQハンターが好む有店舗企業の代表が、無印良品だ。たとえば、同社の「足なり直角靴下」が直角型なのは、靴を履いた時のズレを防ぐため。PQハンターはこうした情報を知った上で、商品を選んでいるという。また、彼らは自ら情報発信を行い、それは企業にとっても有益な情報だが、伝統的な流通の仕組みでは企業に届きにくい。
PQハンターをターゲットにした商品開発を行い、彼らから情報を得やすくして、一緒に商品開発を行なっていくことが必要だとした。
製・配・販それぞれが直接顧客と接触し、さらに情報を共有するべき
顧客との接点の変化に合わせて、一企業の組織だけでなく、製・配・販の関係も変わるべきだと上原教授は主張する。具体的には、情報共有と計画によって結合をもたらす「垂直同期化チャネル」、マクロ動向が見える競争が可能となる「デジタルインフラでの市場」への変化だ。
「垂直同期化チャネル」は、製・配・販がそれぞれ顧客と接触し、情報を得ることができる仕組み。リードタイム延長効果、在庫削減効果、需要変動吸収効果などが得られるという。
「デジタルインフラでの市場」では、垂直同期化チャネルに加えて「情報共有センター」を設置。製・配・販の消費者情報、在庫情報などの共有を促進する。緊急時対応効果、競争力増強効果、価値創出効果が見込めるとのこと。
企業や業種を超えた情報共有は、価値創出効果をもたらす
「企業や業種を超えた情報共有による価値創出効果」とは、冒頭で述べた、「競争関係にある企業同士であっても、データを共有することで多大なメリットを得られる」と同義。「メトカルフェの法則」では、参加者が増えるほどミクロ価値は比例定数的に増加するのに対し、マクロ価値は幾何級数的に増加するという。
最後に教授は、デジタルインフラがもたらす効果として、「ムリ・ムダ・ムラを回避できる」「情報縮約機能の創出と活用」「震災時等への緊急対応に有効である(安定性と効率性の両立)」を挙げ、「日本の企業活動にデジタルインフラが浸透するよう啓蒙してきたい」として、講演を締めくくった。
約500名が来場し、盛況を博した「スマーター・コマース・サミット2012」。全5セッションのプログラムのうち、一部の講演資料がDLいただけます。