変化する経済状態に対応する「途上与信」
しかし、データと数理モデルによるリスク管理が可能になったとはいえ、クレジットカード発行後の個人の経済状態、ライフスタイルは時間とともに変化する。この変化に対応しリスクを管理するのがいわゆる途上与信である。
途上与信では、転職、結婚、住宅購入等の顧客属性の変化、過去の利用状況、延滞状況、他社からの借入状況(外部信用情報)と過去のデフォルトの状況を、ほぼリアルタイムでデータベース化し、既存会員の中で誰がデフォルトする確率が高いのかを自動的に予見する統計的数理モデルを開発する。デフォルトする確率が高いと予見された顧客に対しては、早期に残債を回収し退会させる、あるいはリスクを極小化するために利用枠を減枠することで信用リスクを管理する。
(注:現在は、総量規制の影響で個人の借入総額(枠)は年収の1/3に制限されている)

これらの信用リスク管理で利用されているデータベースはまさに顧客の「足跡」であり、今メディアなどで期待が高まっているビッグデータの先駆けと言える。
数理モデルにも弱点がある
初期与信、途上与信ともに共通しているのは、過去のデータの「傾向」に基づいて将来を「予見」するという点であり、将来を予見するには高度な統計的数理モデルが必要不可欠である点にある。
1990年代、これらの統計的数理モデルの開発には職人的技術が求められた。しかし、2000年代初頭には、データマイニング技術が広く普及。PCで、ニューラルネットワークなどの統計的手法を駆使した高度な統計的数理モデルの開発が比較的容易に行われるようになった。
しかしながら、統計的数理モデルは万能ではない。あくまで過去の傾向が未来も続くという仮定のもとで、その時点での未来(信用リスク管理の場合デフォルト率)を予見しているに過ぎないのである。経済的、社会的不連続点が予見のもととなるデータに含まれると、その精度は極端に劣化する。すなわち、統計的数理モデルは開発したらそれで終わりではなく、定期的に予見精度を検証しメンテナンスを行い、一定の予見精度を保つPDCAサイクルを回していくことが必要不可欠である。