アドテクノロジーの進化がもたらした変化
「安定した収入があり、こだわりをもって商品を選ぶ20代女性」といった漠然とした存在は、実は存在しない。かつてはそんな曖昧なターゲットに向けて広告施策が行われていたが、時代は1to1マーケティングにシフトしている。
そもそも、あらゆるユーザーは全て個としてバラバラに存在している。各々の購買に至るまでの行動やメディアへの接触態度、ブランドへの意向は、千差万別だ。デジタルマーケティングに従事する人間は、その前提をまずは踏まえておくべきだ。
昨今のアドテクノロジーの急速な進化によって、数年前は学問の領域を超えず、概念だけにとどまっていたことが、今や具体的に実施可能になってきた。しかしながら、同時に広告の運用は複雑さを増した。コストや部門間の調整など様々な制約のある広告担当者にとって、メディアやベンダーが用意したプラットフォームは決して使いやすいものではないという問題が浮かび上がってきた。
そこに、「広告枠売買」から「広告運用」の代理人へと役割が変化した広告会社の必要性が生じる。加えて、広告会社は運用成果への責任を求められるようになった。広告の運用成果を上げるためには、最適な広告プラットフォームを選択・導入し、運用する必要が出てくる。広告会社にはその導入障壁を緩和させるアジャスターの役割も同時に期待されている。
1,000万人に1,000万通りの1to1マーケティングを
行動履歴をもとにしたターゲティング手法であれば、ユーザーの行動パターンは、ユーザーの数だけパターンがある。つまり1,000万人いれば、1,000万通りのパターンがあるということだ。
例えば旅行代理店であれば、行き先、予算、日程、同行者の有無、過去に比較したプラン、あこがれなど、デジタルに決まるものからユーザー個人が旅に期待するものまで、行動パターンに影響を及ぼす要素は多種多様だ。このように多岐にわたる行動履歴を、人間の能力で処理するのはもはや不可能と言えるだろう。
しかしながら、ここであきらめるのは早急だ。何百万、何千万、何億ものパターンがそれぞれ別々に存在し、時間の経過とともに刻刻と変化していくサービス・モノにこそ、アドテクノロジーの進化により実現したデジタルマーケティングと抜群に相性がいいのだ。そして、そのギャップを埋める役割を果たしてこそ、我々のような広告会社が存在する価値がある。
これまでのデジタル広告は、広告メニューごとにバナーやテキストなどの広告素材とリンク先URLが必要であった。それが、広告のターゲットが「枠」から「オーディエンス」へと変化した現在では、理論上ではオーディエンスごとに広告素材とリンク先URLが必要になる。そんなことはもはや人力で対応することはできない。ユーザー1人1人のニーズに対応した広告で訴求し、最適なコミュニケーションを行っていくには、アドテクノロジーの活用が不可欠だ。
ユーザーと広告主、双方のニーズを満たす技術
行動履歴をはじめとする様々なデータからターゲットオーディエンスを選定することは、今や高精度で可能になった。どのターゲットにどの商品をお勧めするべきか、そのターゲットにリーチする回数やタイミングもアルゴリズムによってコントロールできるようになった。課題は、肝心の商品の魅力を伝えるクリエイティブの大部分を、広告主に依存している現状だろう。
ユーザーが購買行動を決定する要素は様々だが、特に大きな構成要素としては、商品スペック、価格、在庫などだ。これらは、広告主側のステータスが常に変動するため、情報の鮮度を高く保たなければならない。つまり、「在庫がないもの」を広告のクリエイティブに反映するわけにはいかない。取り扱いの有無が分からない、値段が分からない、そんなクリエイティブでは効果が最大化されない事は容易に想像がつく。
もちろんそれらの商品ステータスをデジタルに管理している広告主は多いが、広告プラットフォームを意識した柔軟に拡張できるデータベースにはなっていないことが多い。この状態では、魅力的な広告商品が出現するたびに、自社のデータベースを広告側にあわせる開発が必要となり、その都度費用と労力がかかってしまう問題があった。そのような課題を解決するために、オプトとグループのTAGGYで開発したのがMulch Chanel Publisher(MCP)だ。
現状、MCPをメインで使って頂いているクライアントは、旅行、不動産、ショッピングをはじめとしたデータベース内容を掲載する業態である。たとえ商品点数は少なくとも、そこに商品スペック、在庫、価格、など掛け合わせると、人力での管理はほぼ不可能になる。そして当然であるが、サイトに訪れるユーザーのモチベーションは人それぞれ。漠然としたターゲット像に対する単一のコミュニケーションではなく、ユーザー1人1人に適したコミュニケーションが必要になる。このような広告主のニーズを満たしていくために、我々が存在する。
MCPが構築するユーザビリティの高い購買環境
MCPは広告主の商品に関する情報を取得し、その情報を広告プラットフォーム側に送信する。その方法としては、広告主のニーズによってサイトのクロール、もしくは商品データベースからの出力がある。いずれにしても、商品データを取得し、適正化(変換)を行い、規定のファイルフォーマットで出力している。現時点で対応している広告商品はレコメンド広告を中心に以下の通りだ。もちろんニーズがあれば、対応は広げていく。
今後は、ショッピング比較アプリ、バーコードスキャンアプリなど、スマートフォンでのショールーミングニーズへの対応まで広げていきたいと考えている。加えて、ECだけでなく、旅行や不動産などへのニーズにも拡大していきたい。例えば、Googleは物販中心のGoogleショッッピング以外にも、海外のドメインでは飛行機チケット比較やホテル価格比較もサービス提供している。残念ながらまだ日本ドメインでの展開はされていないが、ユーザーニーズ、広告主ニーズは非常に強いだろう。
ユーザーはモノやサービスを手に入れる時に、オンラインとオフラインを区別したりしない。自由に実店舗とwebサイトを行き来して、類似商品と価格や性能などを比較する。常に携帯するスマートフォンはその行動をさらに促進するだろう。つまり、これからは商品がデジタルに管理されていることが売り上げの拡大に直結する。データベースがデジタルに管理されていれば、ユーザーはダイレクトにデータベースにアクセスできる時代が到来した。オンラインとオフラインの垣根は非常に低くなったと言えるだろう。ただし、そのようなユーザーにとって便利な環境が整備されるにはまだ時間がかかりそうだが、MCPはそんな時代の構築を後押しするだろう。
オフラインとオンラインの情報がつながる世界
先にも述べたが、オンラインとオフラインの垣根はユーザーにとっては不自由でしかない。そしてデジタル化した情報は、プラットフォームの技術的革新によってマーケティング成果の向上につながる。
次のステップとしては、オフラインにしかない情報をオンライン化することでさらなるマーケティング成果の向上につなげていく。オフラインにしかない情報の最も大きなものとして、たとえば小売店に実際に並んでいる商品のステータスがあげられる。どの店舗で売っているのか、在庫はあるのか、価格はいくらなのか。現状ではデータが断絶しており、ほとんどわからない。
オンラインの情報が流通総額に与える影響の大きさについては、21.8兆円の消費にインターネットが関与しているという野村総研の調査結果が出ている。これは日本の消費支出規模約110兆の約2割のインパクトであるが、少なすぎると言えるかもしれない。さらに米国では、Deloitteの調査によれば、スマートフォンユーザーの61%が店内での購買動機に影響を与えているという。
これらのデータがあらわすことは、インターネットがマーケティングに与える最も大きな影響はインターネット上での購買といったダイレクトなものではないということだ。つまり、ユーザーが実際の店舗情報とオンラインの情報を行き来し、最も最適な状態で購買を行うハブになるということだろう。ショールーミングは実店舗にとってネガティブにとらえられることが多いけれども、ユーザーはもうその行動を起こしている。
日本においてもすでに消費支出の20%に影響を与えているのであれば、商品に関するステータス情報を鮮度良く保つことは実店舗にとってポジティブに影響するはずだ。
そしてさらに、下図からビッグデータを活用することで競合企業の売上、EBITDAに差がつくことがわかる。オンライン小売り事業は当然としても、影響が大きな業種には、大規模流通、食品などリアルでの販売をメインとしてきた業態も並んでいる。
ビッグデータの活用に取り組み、情報の鮮度を保ちながらさまざまなプラットフォームにデータを最適化させていくことは、これからのスマートフォン時代のマーケティングに欠かせないだろう。オプトのソリューションがその手助けになれれば幸いである。