マーケティングリサーチをめぐる状況の変化
マーケティングリサーチの役割は、時代を経ることに変化しました。この点について考えるときに参考になるのが、マーケティングリサーチやデータサイエンスについて多くの著書がある朝野煕彦先生の論考です(※)。日本におけるリサーチニーズの変遷をわかりやすく整理しており、十年以上たった今でもこの考え方は色褪せることはありません。ここでは、朝野先生の分析を踏まえて、これまでのマーケティングリサーチを振り返りたいと思います。
※ 朝野煕彦・上田隆穂 (2000年) 『マーケティング&リサーチ通論』 講談社
リサーチニーズの変化
第1段階(1950~60年代くらい)のリサーチニーズは「現状(実態)を知る」ことにありました。いろいろな商品がどんどん普及していく段階で、かつアンケートなどを通じてしかデータを得られない時代(POSなどはありませんでした)においては、マーケティングリサーチの役割は市場の統計を得ること、つまり、どんな商品が売れているのか、誰が買っているのか、どこで買っているのかなどを明らかにすることでした。
第2段階(1970年~80年代くらい)は「消費者行動の理由を知る」ことになります。商品の普及率が上限に達すると、競合他社との競争の中でどうすればよいかを考える必要に迫られます。市場をどうセグメンテーションするのか、商品を購入した理由は何か、消費者に選ばれるにはどうしたらよいのか、などについて明らかにすることが求められました。モチベーションリサーチなどの手法や、因子分析(※)のような多変量解析(※)が多用されるようになります。
そして第3段階(1990年代以降)にあたる今、より求められているのは「今後とるべき戦略を知る」こと、これから何をすればいいのかを明らかにすることでしょう。市場が飽和し、変化のスピードが増している時代においては、新たな市場を創造することや、次々に現れる課題に対応をしていくことが重要なテーマとなります。そのための指針を得ることも、マーケティングリサーチの役割となりました。
ただし、これら3つのニーズは時代を経るごとに移り変わり、現在は重視されないということではありません。今でも、市場を知ることや消費者行動を知ることは大切です。つまり、マーケティングリサーチの課題が難しくなり、複合化しているということです。この点は誤解のないようにしてください。
「因子分析」とは、いろいろな意見や考え方、現象などの背後にあり、それらに影響を与える共通する要因(因子)を抽出する分析手法。
「多変量解析」とは、多くのデータをまとめたり、関係性を明らかにすることによって、複雑な事象をできるだけ簡潔に理解するための分析手法の総称。因子分析、回帰分析、クラスター分析などが代表的な手法。