寄付募集のメッセージをABテスト
今回のユーザヒヤリングの結果は、具体的には、寄付をお願いするメッセージのABテストという形で活かされる。寄付のお願いは常時しているわけではなく、年に数回サイトにメッセージを表示するだけ。ABテストがされているから、皆さんが開いたときにどのパターンが表示されるのかわからないけれど、以下が定型文です。
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寄付をお願いする現在のメッセージバナーはテキストのみで構成されていて、サイト上部に表示される。最近は、Wikipediaを開くと上部に黄色いバナーのようなメッセージが表示されるかもしれない。
びっくりしたのは、ABテストを手軽にカジュアルに行っていること。メッセージのABテストは、例えば文章の順番を変えてみたり、表現を変えてみたり。またクリックするタブの文言を変えたり、文字の大きさを変えてみたり。自社サイトでABテストを導入する企業(Wikipediaの場合はNPOだけど)にとって当たり前のことを彼らも実施してる。寄付がライフラインなのだから、それもそのはず。
ユーザーヒヤリングの難しさを痛感
さて、ユーザヒヤリングに参加してくださったのは、連絡手段(メール)がある、つまり一度でもWikipediaに寄付してくださったユーザさんたちが中心。中にはお友達を連れてきてくださった方も。表参道のおしゃれな美容師さんから、ファッション業界のジャーナリストを経て今はご自身で会社を経営されている紳士、ウェブ広告会社で働く方、大手メーカーのエンジニアさん、教育系のサービスで働く女性などなど幅広い。
このプロジェクトのわたしの役割は、皆さんとのユーザヒヤリングのセッティング、また当日の通訳、そして寄付メッセージへの反映などなど。普段からWikipediaには死ぬほどお世話になっているし、とっても意義のあるプロジェクトだと思ったのでご一緒させてもらった。そして思った通り、とっても貴重な経験をさせてもらいました。
同時に、ユーザヒヤリングの難しさを痛感した。今回は日数の関係で数人のグループで実施したけれど、どうしても1人の発言に他の参加者さんが影響を受けてしまって、結果として同じような意見しか出てこなくなってしまったり。また質問への答えは本当に人によってバラバラ。1人1人のユーザさんが大事であると同時に、それはあくまで1人の意見でしかないということだったり。このバランスがとっても難しい。
寄付してくださった方はWikipediaのことをある程度知ってくださっている方が多かったから、カフェで1人で座っている人たちに声をかけて、5分だけ時間をくださいなんてゲリラユーザヒヤリングも行った。皆さんWikipediaは知っていたけれど、寄付で成り立つNPOだっていうことを知らない人がいたり、寄付のメッセージの後にとるべきアクション(寄付メッセージのバナーをクリック)がわからない人もいたりさまざま。スマホアプリに関しては、有料版を他のどこより購入するのは日本人だなんてことを聞くけれど、ウェブの情報は「タダ」が当たり前と思われる時代。これはわたしもまぐまぐさんで配信してるメルマガを発行してみて感じていること。