アナリティクスを成功させる10のステップ
皆さんこんにちは、SAS Institute Japanの津田です。アナリティクス初心者の方を主な対象とした「はじめての人にもわかるアナリティクス講座」の第2回です。今回は、アナリティクスを本格的に成功させる「10のステップ」とは何かをざっとご紹介し、最初のいくつかのステップに関して詳細に議論したいと思います。
さっそく10ステップを見てみましょう。以下に図示します。
この10ステップは、大きく3つのフェーズに分けることができます。
- 第1フェーズ「始める」(ステップ1~4):アナリティクスの初期段階
- 第2フェーズ「業務を変える」(ステップ5~8):真に業務を変革する段階
- 第3フェーズ「経営を変える」(ステップ9~10):企業経営を変革する究極の段階
この3つのフェーズは成熟度の順序を示しています。「始める」段階の4ステップを終えずに次の段階に進んでもつまずきの原因となり、結局は基本に戻ってやりなおすことになるのです。ではこれらの概要を見ていきましょう。
「始める」段階 ~企画からモデル構築まで~
最初のフェーズである「始める」段階の各ステップをざっと眺めてみましょう。
- STEP1「企画」:アナリティクスで実施したいこと、目的を明確にする
- STEP2「データ探索」:STEP1の目的に沿って分析で使うデータを探し、その有用性を調べる
- STEP3「変数作成」:モデルの目的変数(被説明変数)や説明変数の候補を作成する
- STEP4「モデル構築」:関係式(目的変数と説明変数の関係を示す式)を作成する
上記の1~4までは基本的に順序の関係になっており、順に実施していくと業務の目的に沿ったモデルができあがります。この連載では、この4つのステップを中心に解説していきます。
「業務を変える」段階 ~困難は多いが実りも大きい~
次に、「業務を変える」段階のステップを眺めてみます。
- STEP5「プロセス化」:業務プロセスにアナリティクスを織り込む
- STEP6「効果の説明」:モデル活用の期待効果や実施結果をプレゼンテーションする
- STEP7「ガバナンス」:アナリティクスのスキル標準やデータ標準などの決めごとを作る
- STEP8「対象データの拡大」:テキストや音声・ビデオなどの非構造化データを活用する
5~8は順序ではなく依存関係にあります。ステップ8は前段の「始める」段階で実施してもよいのですが、内容的に基礎というより応用レベルなので説明上この段階に入れています。
「業務を変える」過程のテーマは2つ。「企業業務にアナリティクスを組み込むこと」、そして「アナリティクス業務をプロセスとして整流化すること」です。前者は特に難易度が高いです。たとえば皆様が業務部門の方だったとします。アナリティクス部門の人がやってきて、「お仕事のしかたを変えてください。統計モデルで推奨の方法があります」などといきなり言ってきたら、皆さんはどんな気持ちになりますか? 業務のことは業務部門の方が一番ご存知なわけで、アナリティクスが変化を与えていくのは至難の業です。いわばアウェーゲームです。
かなりアナリティクスが進んでいるお客様でもこの段階に留まり、多くの課題を抱えています。それだけこの段階は取り組むべきことが多く、なおかつとても実りが大きい段階と言うことができます。
「経営を変える」段階 ~アナリティクスの先にある頂上~
最後の「経営を変える」段階のステップも紹介します。
- STEP9「定着化」:全社の業務課題にアナリティクスが答えられるようになる
- STEP10「センター化」:メンバーはそれぞれの得意分野に特化しつつ、全体としては企業のあらゆる経営・業務問題に取り組むことのできる体制を持つ
「アナリティクス・コンピテンシー・センター」という言葉を聞いたことはありますか? 呼び名はいろいろですが、全社でアナリティクスのコンピテンシーを持つ人材を集め、また使用しているITリソースやデータ環境も集積し、足し算以上の効果を出す体制のことです。
実はわたし自身、かつてアナリティクスのユーザー企業の中でコンピテンシー・センターの一翼を担い、特定業務に関して全社の要望に対応していた経験があります。この段階で重要なのは「正しく実施する」という発想から「正しいことを実施する」発想への転換。つまり、アナリストが自分の得意技で改善可能な業務課題にだけ取り組む段階は卒業して、企業としての課題にアナリティクスが貢献できることは何かを考え実践する段階に進化する必要があるのです。
この段階に至っている企業はあまり多くないのが実情ですが、いったんアナリティクスを始めて前進している限り、自然と志向する頂上であると言えます。さきほどのユーザー企業では、チームがコンピテンシー・センターに移行するまで10年近くの歳月がかかっていますが、今はスピード経営の時代。外部リソース活用も含めて3~4年で頂上を究めることにチャレンジ頂きたいと思います。