KPIをクリアするだけでは足りない現実
デジタルマーケティングというと、どうしてもKPIに注目が集まりやすいです。しかしKPIをクリアすることだけでは、足りない現実もあります。設定されたKPIは、クライアントの事業収益にきちんと結びついているのでしょうか。何をゴールとするのでしょうか。現在、営業本部に在籍し、多くのクライアントの課題解決に取り組んでいる小松マネージャーと手島が、クライアントが直面しているこの課題について語ります。
勘と経験によるメニュー選択からの脱却
小松:スマートフォンの浸透や消費者のITリテラシーの向上によって、消費者はオンラインにつながり、さまざまなチャネルを経由して消費行動をおこすようになりました。これにともなって、広告メニューも増えてきています。企業やマーケターが取得できるデータが爆発的に増え、広告効果も瞬時に分かるようになりました。
企業は、これまでのように勘と経験に頼った「効果が出そうな媒体に出してみる」というやり方では、通じなくなってきているのではないでしょうか。これからは、複数のメニューを組みあわせて最適なメディアプランを設計していくことが必須要件だと考えています。私たちも、リスティング広告などのメニューを提示するといったやり方から、課題を根幹の部分から引き受けて運用や解析に付加価値をつける方向にシフトしています。
今こそデジタルマーケティングのKPIを見直すべき
手島:多くのクライアントが直面している課題として、KPIベースでの運用・分析を実施してきたものの、それだけでは評価軸が難しくなっている現状があります。例えばKPIをクリアしても事業収益が上がっていないといったケースです。KPIが正しい値であるのか、事業の成功へ結びつくものであるのか、といった視点から見直す必要があるのではないでしょうか。
実際の現場では、CPA (Cost Per Action)などのKPIだけが話題になることが多いのですが、私たちはCPAの先を見据えて動きます。広告は良い反応を得るためのものではなく、事業を成功させるための手段であるため、事業目標達成の視野を持って収益向上を目指すことが重要だと考えています。私たちは、支援しているリスティング広告・アフィリエイトといった施策が、クライアントの事業収益にどのようにインパクトをもっているかを加味しながら、KPIを設定しています。
小松:また、昨今のマーケティング・オートメーションの視点から見ても、正しいKPIを設定することはとても重要です。企業や代理店側にデジタルマーケティング上のKPIをクリアするノウハウがたまり、またツールの進化によって、KPIを組み込んだ自動化(マーケティング・オートメーション)が実施されるようになってきています。マーケティング・オートメーションでは、設定したKPIをクリアした時点で次の施策を自動実行させることができます。つまり、正しいKPIを選択して設定することが、これまで以上に重要になってきます。
データの正確性を追求しつつ、多角的に消費者を見る
手島:施策実施にあたって、私たちは「計測すべきデータを取得しているか? その値は正確か?」という点を考え、時には、クライアントが提示するKPIの見直しをご提案したりもします。
「そのKPIを実現しても、クライアントの収益向上が難しそうだ」と判断した場合は、KGI (Key Goal Indicator)まで見て、クライアントの収益につながる施策を考えます。例えば、ROIが20~30という高い数値を出し、更にコンバージョンレートも3%と、リスティングの一般的な視点から見ても高い数値を出しているのに、利益が上がっていないとします。そんな時は、クライアントの商品ポートフォリオの組みかたやWEBサイトのデザインなどに改善できるところがないか考えていきます。
小松:ツールを駆使したデータ分析から消費者を知る上で忘れてはならない視点は、テクノロジーがどんなに発展しても、その先にいるのは人間だということです。広告というものは元来、消費者が積極的に見たいと思うようなものではありません。提供する側としては、嫌がられずに見てもらい、購買へ向けた何らかのきっかけになってほしいと願います。そのため、消費者の望むタイミングで望む訴求をするという基本的な考え方は、昔も今も変わらないと思います。
手島:消費者の望むものということでは、検索クエリは消費者ニーズそのものです。私たちはそのニーズを分析し、国の統計調査や企業から入手したさまざまな情報をマージし、消費者像をあぶりだしていきます。地域ごとに見るのか、全国一律に見るのか、といったセグメンテーションの細かさもクライアントとのコミュニケーションの中で詰めていきます。そして、Googleアナリティクスからデータを読み解き、仮説をもとにペルソナを作り上げます。このあたりは仮説の設定力も求められます。さらにペルソナは一つとは限りません。複数の仮説を立てて多角的に見ていくことで、多くの消費者ニーズが見えてきます。
小松:また、時の経過とともにペルソナは変化するものでもあります。分析の結果出てきたペルソナが、当初想定していたペルソナとは異なっている場合もあります。思い込みのペルソナをいったん捨てて、データ(証拠)をもとに作り上げることも必要です。
分析と予測、そして短期間の実施サイクルを回し続ける
手島:施策実施にあたっては、結果が出なかった施策は改善し、良かったものについてはさらに掘り下げていくという改善のプロセスは欠かせません。目先の数値にとらわれるのではなく、「利益に結びついているか」、「リテンション(顧客維持)やLTV(顧客生涯価値)につながっているか」という目線を持ち続けることも重要です。
正確なデータを取得し、正しく分析する。分析指標や結果が利益や収益目標を達成しているか、経営指標とリンクしているかということを考え、最終的には効果を予測できるようにまで持っていきたいと考えています。
小松:先の見えない市場環境、予測できない変化に対応していくには、PDCAを回し続けることが重要です。次も同じ答えだとは限らないのです。精度の高い消費者の実像把握のためには、そのサイクルを回すスピードも求められます。
また、私たちは、営業であると同時にアナリストでもあります。営業と広告運用実務の両方を経験しているため、クライアントとのコミュニケーションの中で、その場に運用の人間がいなくても話を進めることができます。このことで、社内に持ち帰る必要がなくなりスピード感をもって仕事を進めることができます。
収益構造を見てマーケティングプロモーションのバランスを
手島:マーケティングの効果が測りやすくなった今では、マーケターは企業経営に近いところでもっと考えていくべきでしょう。「KPIからKGIへ」という視点です。何をゴールとするのかあらためて見直し、企業の収益構造を考慮しながらマーケティングプロモーションとのバランスを常に見ていくことが、私たちに求められていると考えています。
また、施策については常に最適なやり方を私たちは探っていきます。プランニングのための発想の軸や導線の組みかた、採用するテクノロジー、分析に使うデータは、そのつど最も良いものを選択していきます。ソーシャルメディアが浸透した現在においては、導線設計の中にこれを組み込み、オンライン・オフライン問わず、消費者の購買行動に寄り添うことが多くなります。施策の一つとしてOtoOはホットな分野の一つで、日々、期待が高まっていくのを感じます。
小松:私たちはクライアントと事業目標を共有して、半年ごとに全チャネルの予算と効果をシミュレートすることもあります。このやり方によって、他のチャネルで不足している売上を広告でカバーしていくといった手法をとることができます。広告出稿業務の枠を超え、「企業経営のエンジンとしての広告」という捉え方も必要だと考えています。今後、クライアントと共に取り組んだ事例を、この場を使ってお話ししていきたいと思います(続きの記事を読む)。