「数値」を言葉で語れることが大切
―谷井さんが率いている「レベルデザインチーム」はどのような組織なのでしょうか。
谷井:私を含めて9人のメンバーが、ゲームに関わるパラメータ設計や仕様決定を行っています。作ったパラメータが本当に正しいかどうかを検証する「レベルデザインコンサルチーム」もあり、さまざまなケースを想定して(24時間プレイし続けるとどうなるか、初心者の場合はどうなるか)プレイし、出てきたデータをもらって改善します。

数々の試練に挑んでいく学園カードゲーム。総勢60名以上の豪華声優陣が出演。
2012年10月にサービスを開始し、現在会員数は200万人を突破している。
―大変な作業ですね。
谷井:結構アナログにプレイして検証します。ユーザーが数千円使っただけで最強状態になってゲームが終わってしまうとビジネスにならない。使用金額に見合った設計になっているかを検証します。
―ユーザーの反応は気になりますか?
谷井:反応は常に見ています。公式サークルや掲示板、ネットの情報やリアルの友人の反応も含めて。『ガールフレンド(仮)』では、ユーザーどうしが協力する「部活」という機能があるのですが、そこに入っている人たちと毎日会話しながら意見をもらっています(笑)。
―レベルの高いゲーマーの場合、結構厳しい反応もあったりしませんか?
谷井:もちろんあります。ゲームをプレイした時間や熟練の段階やリテラシーにより、それぞれどういう体験をしてほしいのかを必ず文章にしておきます。
―文章に?
谷井:状況を言葉にすることが大事だと思っているんです。たとえば敵に会う確率でいうと、10分プレイして敵に10回出会うのと、10分プレイして2回出会うのでは全然感じ方が違う。後者は5分間何もない状態なので、これはもう楽しくないだろう。30秒に1回くらい敵と出会うと楽しくなるんじゃないかとか、状況の説明から入っていって、それをゲームの中で実現するためには確率を何%にすれば良いか考える。状況をすべてを自分で言語化する、それができるかどうかですね。

とりあえず数値を入れればゲームは動きます。「クソゲー」もゲームとしてはプレイできる。でも、ただ適当に数値を入れてるんじゃないか…っていうのはやればすぐわかります。
―作ってる人が手抜きしていることがわかってしまうんですね。
谷井:はい。私がわかるということは、ユーザー全員がわかるということなので。
―それは怖いですね。
谷井:そうやってユーザーは離れていく。すべての数値に意味を持たせていくことが大切で、それがない数値はレベルデザインでも何でもない。数値を決めるのがレベルデザインと思われますが実際は逆なんです。数値は後で、言葉が先。言葉で説明できれば数値は自動的に決まるものなのです。
矢口:(うなづきながら)何をさせるか、何をさせたいかという設計思想をまずしっかり決めて、それに応じて設計して数値を入れていく。まず目的を決めることが大切です。
ソーシャルゲームは出して終わり、ではない
―「ソーシャルゲーム」ならではの難しさというのもあるのでしょうか。
谷井:ソーシャルゲームの場合、数年間は運用できるというのが前提になっているので、設計の際には10年くらいこういう遊び方をしてもゲームが成り立つということを考えて設計しています。ですが、『ガールフレンド(仮)』を設計したときに、ここまでいくのに5年くらいかかるだろうと思っていたレベルに、1年くらいで到達してしまうユーザーもいるんです。
―レベルデザインがしっかりしていないと、想定外の結果になってしまう。
谷井:ソーシャルゲームは出して終わりではなくて、出してからの運用が重要なので。
矢口:後のことも考えておかないといけない。パラメータをうまく作らないと次第に運用が難しくなるんですよ。
―良いカードというのは、ヴィジュアルの魅力だけではなく、パラメータ的な要素も両方必要ということですよね?
谷井:そうです。そこが一致してないと絶対ユーザーに喜んでもらえない。カードの絵だけ良くて、パラメータが弱いと非常にもったいない。逆にパラメータだけ良くても売れない。絵が良く、パラメータも良く、かつ、このタイミングでユーザーがほしがるというところまで設計します。
矢口:今、ユーザーが何を求めているのかを見極めつつカードを出していくことが重要です。