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売上だけで音楽ヒットチャートは作れない、データのハイブリッド化を進めるビルボードジャパンの取り組み


 米ビルボード社の音楽ヒットチャート「Billboard Hot 100」が1958年にスタートしてから60年近くたった。音楽を楽しむ形式が変わり、シングルの売上枚数だけで優劣を競う時代ではなくなるなか、日本で新たなチャートを展開するビルボードジャパンに、音楽とデータの現在について聞いた。

音楽のヒットチャートはどのように決まるのか

―― ビルボードの「Hot 100(ホット ワンハンドレッド)」はファンにとっても業界人にとっても、おなじみの音楽チャートですが、そもそもの始まりからご紹介いただけますか。

礒崎 米ビルボードチャートは、まずジュークボックスチャートとしてスタートしました。その後、シングル盤の売上、ラジオのエアプレイ数を合算し、1958年に「Billboard Hot 100」がスタート。当初、シングル盤は1000枚からせいぜい1万枚しか売れていない時代だったので、どちらかというとラジオのエアプレイのほうに比重がかかっていました。その後、CD、ダウンロード、ストリーミング、YouTubeなど、マーケットの変化に応じて合算指標を増やしています。日本も米国の方式に準じ、日本で唯一エアプレイをモニタリング集計しているプランテックという会社のデータと、SoundScan Japanのシングルセールスを合算するところからスタートしました。

株式会社 阪神コンテンツリンク ミュージックエンタテインメント部礒崎誠二氏
株式会社 阪神コンテンツリンク
ミュージックエンタテインメント部 礒崎誠二氏

―― 米国のビルボードでは、ソーシャルのデータを組み合わせるなど、意欲的にチャートの改革に取り組んでいますが、日本でも同様の取り組みを進めているのでしょうか。

礒崎 はい。Billboard Japanでも5つのデータを組み合わせています。まず、2008年にエアプレイとシングルセールスの2指標でスタートしました。シングルCDセールスはSoundScan Japanからデータ提供を受けていますが、その事業を承継し、来年1月から弊社が運営します。このデータはオリコンの集計アプローチとは異なり、POSレジをつなぎ込んでリアルタイムで売れた枚数をデータセンターに集約し、週ごとに集計して県ごとに売上枚数を推定し、そこからさらに全国推定売上枚数を出しています。

 2011年にはダウンロード数も合算するようになりました。今、提供を受けているのがiTunesのみなので、iTunesのダウンロード数に全体のダウンロード数を類推する係数を掛けています。

 去年の12月には新たに2つの指標を加えました。Gracenoteという会社が世界的に運営しているCDのデータベース(Gracenote Media Database)というのがあるんですが、PCでCDをリッピングするときに、主要なメディアプレーヤーはそのデータベースにアクセスして曲名を表示していますね。そのデータベースへのアクセスをカウントしたものからシングル盤だけを抽出して、Look Up(ルックアップ)というデータとして活用しています。日本の特色であるレンタル市場の動向をフォローアップしたかったのと、複数枚購入をされたCDはその後どうなるのだろうかという興味があったというのがその理由です。

曲名とアーティスト名が入ったツイートは「リクエストはがき」

礒崎 もう1つがツイート数です。ツイートのカウントにはひとつルールがありまして、「楽曲名とアーティスト名の両方を含むツイート」をカウントするようにしています。例えば「嵐」とつぶやく人がいたとき、それはアーティストのことなのか、天気のことなのかを特定するためです。映画『アナと雪の女王』がヒットしたときも、「松たか子の『Let It Go』」とつぶやいてもらえないと、僕らは拾えない。

―― じゃあ、カタカナで「レリゴー」だとだめなんですね(笑)。

礒崎 「レリゴー」は拾うようにしています。「松さん」も拾うようにしてます。ただ、「アナ雪のあの曲」っていう表現はカウントしない。どの曲か特定できないからです。1週間に日本のTwitterユーザーは約5億ツイートくらいしていて、その総量から我々は300曲から350曲のツイートを計測してるのですが、公開当初は合算すると大体20万ツイート。最近だと60万ツイートくらいが平均で、約1年で3倍になりました。ちなみに、最近130万超えをマークしましたが、それは「東方神起」の70万ツイートというすごい数字があったからです。

―― そんなにたくさんのツイートが……。

礒崎 ええ。Twitterで楽曲名とアーティスト名を両方つぶやくと、このジャパンチャートに影響することが浸透してきていて、リクエストはがきを送るような感覚ですね。このことが同時にソーシャルでの楽曲接触率を上げる宣伝媒体としてのチャートとしても機能してきていると思います。

 ちなみに、我々は1週間のうちにこうしたツイートを見て購入する確率を計数化してポイント化しています。各指標も同じように実数にそれぞれ係数を乗じてポイントを算出、その合計をランキング化しています。よく言われるのですが、1位に100ポイントみたいに、順位それ自体にポイントを付けているわけではありません。

複数データから見えてくる、「本当にいま聴きたい曲」

―― こうしたデータから、どんな分析が可能なのでしょうか。

高嶋 アーティストによって全然動きが違うので、ソーシャルに強いアーティストなども見えてきますし、ソーシャルの強みがセールス指標に影響を与えるアーティストや逆に与えないアーティストも見えてきます。

株式会社 阪神コンテンツリンク ミュージックエンタテインメント部高嶋直子氏
株式会社 阪神コンテンツリンク
ミュージックエンタテインメント部 高嶋直子氏

礒崎 複合的なランキングだからこそわかる興味深いデータもあります。例えば、ルックアップとシングルセールスのランキングのズレ。シングルセールスで100位以下まで落ちてしまった曲が、ルックアップだと11位だったりする。レンタルしてその曲を持ち歩きたい、カラオケで練習したいというニーズによる楽曲のロングヒットがここで見えてくる。

高嶋 お友達に借りていたり。

礒崎 また、発売日に注目すると10年以上前の曲が入っていたりする。その週に買われたシングルのランキングではなく、その週にユーザーにアピール、またはユーザー自身が発信した楽曲を知ることができるのです。

―― なるほど。そのとき「聴きたい曲」ということですね。

礒崎 エアプレイは当然季節を反映します。クリスマスが近づけば、山下達郎やジョン・レノンの曲がチャートインしてくる。それがほかの指標にどう影響するのかも見ることができます。

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MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2014/12/18 18:42 https://markezine.jp/article/detail/21568

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