データは自分で読み解くから面白い
―― 音楽ビジネスに関わる人にとっては、これからますますデータの重要性が増しそうですね。
礒崎 小売店の販売セクションの本部の方々とお話すると、各エリアや全国で売れているシングルやアルバムの数字はもちろんご存じです。でも、ダウンロードやルックアップ、Twitterなどのデータにはそうでもない。そうすると、品揃えがどうしてもシングルセールスに寄りすぎたものになってしまう。他指標でロングヒットしている商品を置いておけば売れたかもしれないのに、そこが後手に回ってしまう。
―― データから少し品揃えを変えるだけで、その店舗の売上が何%か上がる可能性もあると。
礒崎 イニシャル(初回)のオーダーの数を考えるときに、Twitterとエアプレイのデータを組み合わせて見るだけでもある程度読めると思います。さらにバックオーダーをかけるべき商品をルックアップから拾うことも可能になる。最近、CDなどのパッケージ商品が売れなくなっていると言われていますが、コンテンツ自体の魅力も大切ですけど、販売する側がどうデータを読むかという部分がまだ不足していて、そこにまだまだビジネスチャンスがあるんじゃないかなと考えています。
―― 音楽ビジネスに関わる人も、データや数字の読み方の基本を知る必要がありそうですね。
礒崎 そうですね。「それなら、もっとわかりやすくフラグを立ててほしい」といったご要望もいただくのですが、自分で読み解くところからデータは面白くなる。フラグを立てたり、赤丸急上昇!とか、そういう表示も可能なんですけれども、そうしてしまうと小売店やレコード会社のラインナップが均一化してしまうような気がする。そうじゃないほうが、ビジネスが広がると思っています。データを画一的に理解する必要はないのではないかというのが正直なところです。
データへのアプローチやそのノウハウが各社でもっと蓄積されていくべきと思いつつ、そのネタとなるデータを我々は粛々と提供していきたいと思っています。来春には、YouTubeのデータの合算が実現できると思います。
―― YouTube自体も、米国では音楽を楽しむためのプラットフォームとしての機能強化を進めているので、その日本展開の時期とタイミングが合ったらすばらしいですね。
一般の人にもデータを公開、分析を楽しめる年末企画を実施
―― ビルボードジャパンでは、先日、一般の方向けにデータを使った新たな取り組みを始めました。
礒崎 「Billboard Japan Music Awards」を12月12日に発表したのですが、今年の年間チャートの100曲を対象にして、準備中のアナリティクスサービスのデモを体験することができます。同時に一般の方からの投票も受け付けます。100曲を対象に「#BJMA2014」をつけた「アーティスト名」と「曲名」を含む期間中すべてのツイートと、第一興商が提供するカラオケサービスでの歌唱回数を集計して50:50で合算。来年の1月16日にランキングを発表し、1位となった楽曲を毎年恒例の"Artist of the Year"として表彰します。

これまでのアワードの投票はサイト内での投票+年間ポイントで構成していました。今回は年間ポイントを合算せず、年末期におけるネットとリアルのユーザー動向を反映させます。
高嶋 アナリティクスサービスについてですが、この画面を見ていただけるとわかりますが、セールス順、エアプレイ、ルックアップ、ツイートごとにソートすることができるようになっています。

礒崎 来年、正式公開するときには、カレンダーで期間設定も可能になります。今回は上半期と下半期、それから各四半期ごとのランキングもソートできるようになっています。さらに、YouTubeの動画のサムネイルもつけて、興味を持ったらクリックして動画を見ることができるようにしていきます。
―― データを見るだけではなく、音楽を楽しむところに直結しているんですね。
礒崎 「体験型チャート」という言い方をしているのですが、単なるデータの羅列ではなく、実際に自分で分析したらどうなるんだろうというのを見てもらいたかった。そこでアーティストと曲名をクリックするとこういう解析サービスのページになります。

各曲がチャートインして、隔週ごとに各指標がどう推移したかを折れ線グラフで表示します。我々が運営しているニュースサイトから、アーティストにひもづくニュースも下に表示しています。5曲まで曲を追加してデータを比較することも可能ですし、グラフをソーシャルで共有することもできます。eコマース機能とレコチョクのアフィリエイトも付けているので、ダウンロードやパッケージでの購入も可能です。
―― こういうサービスを立ち上げようと思ったきっかけというのは何だったのでしょうか。
高嶋 私たちがチャートを提供していることはこれまでもお伝えしてきたのですが、ユーザー自身が実際にデータに触れて、考えていただくことが、一番認知度向上につながるんじゃないかなと。
礒崎 マーケティングデータを作っていると、BtoBの感覚になってしまうんですが、ランキングというのはBtoCというか、ユーザーのためだよなというのもありました。1位以外にもチャートインしてる楽曲はいっぱいある。データを通じ楽曲のいろんな面を見ていただくことで、好きな音楽と出会っていただけたらうれしいですね。突然上位に浮上してきたこのアーティストは何だろう、と多くの人が興味を持つ。そうしたチャートやランキングがもともと持っていたレコメンド機能を、こういう形で取り戻すことができるんじゃないかなと思っています。
高嶋 勝ち負けじゃないですもんね。音楽に勝ち負けはないと思うので。