金融とマーケティングの人材の違い
―業界によって、データ分析のスキルやレベルというのは違うものでしょうか。
豊澤 ちょっとあまりいい表現じゃないかもしれないですけど、金融の世界、特にマーケットに関わる人たちは、数字を間違えたりすると致命的なんですよ。金融庁に呼び出されて課徴金みたいな、すごいペナルティがある。投資信託の基準価額を間違えるとかね。あと、パフォーマンス間違えちゃうとか、もうそれあり得ないですし。だから、数字に対する意識はすごく強いし、数字を扱うことも比較的慣れている。マーケットを専門に分析している部隊も各社に必ずいます。
金融の人とマーケッターの人、それぞれを比較する時に、縦軸にデータ分析のリテラシーを取って、横軸に人数を取って順番で並べたとしましょう。1番できる人、2番目にできる人、3番目にできる人を並べていくと、マーケティングの世界にもすごくできる人は確かにいるんです。ただ、金融業界だとグラフのカーブがなだらかなのですが、マーケティング分野だと、優秀な人たちとそうでない人たちの人数の落差が激しい。
これだけネット広告が普及して、効果がある程度可視化され、広告主が広告の効果に対してすごく疑問を持っていたりする。そして、ウェブでは細かく数字が取れるから、予算を割いているマス広告の効果をもっと測りたいと考えるようになってきた。そんな中で、マーケティングの世界で裾野の方にいる人たちのリテラシーを少し上げるだけで、業界全体のレベルや効率が上がるし、それを広告主にも還元できる。リターンもより多くなっていくと思うんです。つまり、無駄なところに広告費を使っていたのが、より適正な予算配置になるんじゃないかなと思っています。
広告運用は人間がやる仕事ではなくなる?
―米国では「2014年の気になるマーケティングのキーワード」に「プログラマティック」、プログラムを使って自動化した広告取引を表す言葉が選ばれました。この動向についてはどう考えていますか。
豊澤 「プログラマティック」というと、井端さんも一部でそういうツールを使ってましたよね。
井端 うちは自動化には賛成というか、なぜなら人数が少ないからなんですけど(笑)。でも、人手が足りなくても僕が中途採用で人を採らない理由としては、これ僕個人の主張なんですけど、広告運用って人がやる仕事ではなくなると個人的には思っているんです。そういう未来に遅かれ早かれ向かってく中で、広告運用だけの仕事をする人を採ることに僕はどうしても抵抗がある。多分その人は仕事がなくなると考えると、そういう採用の仕方はできないと僕は思っています。
今は、ロックオンの「THREe」というツールを使っていて、リスティング運用もほとんど手離しにしてますし、似たようなツールをFacebookの広告運用のために入れてそこも手離しにしてます。そういう方向に間違いなく行くだろうなと思ってますね。
―米国でも、マーケッター自ら広告予算を投資していく、インハウスの動きがありますね。
井端 日本ではツールを使って広告を運用してる人が「職人」として地位を確立してるのが、僕はすごい違和感あるんですよ。実はそういう運用というのは、その分野におけるリテラシー、それを使いこなす人の能力がすごく要求されていくんだろうなと思います。
広告運用ツールも、リテラシーがなければ導入もできない。導入してもおそらく放置されて終わる。わからないから。そうなってくると、解析でも広告運用でも、ツールを使いこなすことにおいて最低限要求されるスキルの水準ってすごく高くなってきてるなと思っています。僕は、そこに対する危機感を非常に強く持っています。このままだと本当にわかんなくなっちゃうなって。
―井端さんは、自分のスキルに対する欲求を満たすために、どんな勉強会に参加しているんですか?
井端 有志でやるやつはやっぱりすごい尖ってますね。昨日も勉強会に行ったんですけど、「どう自動化してるのか」っていうのは結構テーマとして大きい。これだけ高度な内容を、手を使わずにどう作ったかみたいなのが多い。それをTableauでやってるのか、R使ってやってるのか、Python使ってやっているのかっていうのはそれぞれ違うんですけど。数はまだ少ないですけど、面白い勉強会は参加者が全員20代。僕と同じくらいの年代の人、かつ開発者出身の人が結構多いですね。
これからRを使ってみたい人へ
―最後に、読者へのアドバイスや、これからチャレンジしたいことなど。
豊澤 本書で紹介したRの知識は、どんな会社へ行っても使えますし、数字に対するリテラシーというのは一生の武器になると思います。何か物事を進める時に、「勘と経験と度胸」のKKDだけじゃなく、きちんと説得力を持たせられるツールになり得る。そういう意味でも、Rはおすすめです。個人的には、Rを使った分散処理みたいなところもちょっと勉強したいなと思っています。
井端 Rのパッケージを使うと、いろんな基礎知識がなくても(これは良くも悪くもだと思いますが)使えるじゃないですか。その基礎知識の部分をスキップして、高みに立てることに僕は単純に興奮するんですよ。「オレ、勉強してないのに」「オレがコード組んだわけじゃないのに」このアウトプットが得られる。それを実感できるのは、僕はすごい楽しい。他のもっと頭がいい人が考えたことを、俺はたった2行ぐらいのコードでできるんだって(笑)。何か「知の飛躍」があるというか、それを感じられるんですよね。
Rを使ってみて、きれいなグラフとしてのアウトプットなのか、納得できる数値としてのアウトプットなのか、みんながどっちに快感を持つのかはわかりませんが、それをいったん味わうと「超楽じゃん」っていうのを感じられるんじゃないかなと思いますね。
―そういう快感を味わえる瞬間を求めてRを使ってほしいですね。おふたりともありがとうございました。
対談の前編はこちらから。著者が自ら本の内容を紹介しているインタビューもぜひご覧ください。
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第1章 とっつきにくいけど実はExcel 以上に賢いヤツ
フリー統計解析ソフトウェア「R」を触ってみよう ~Rイズム~
第2章 Rで分析を始める前に データに異常値がないかを確認しよう ~人はなぜ間違うのか?~
第3章 時系列データを分析すると何がわかる?
時系列分析を使ったデータ分解で「変動要因」の特定に挑戦! ~偶然を言い訳にしない~
第4章 R のパッケージを使って イケてるグラフをサクッと作成しよう ~おいでパッケージ~
第5章 正しい分析手法を選ばないと時間のムダ
顧客属性とコンバージョンデータを使って、打ち手を効率よく考える ~気づいたらコンバージョン~
第6章 「ダミー変数」でデータをまとめてクラスター分析
単位が違うデータは「標準化/基準化」でGo! ~走れ!scale()~
第7章 どれだけ○○したら◎◎できるのか? 数値による定量化で「因果関係」を分析する ~君の名は回帰~
第8章 総まとめ! コンバージョンに影響を与えたコンテンツは何かを分析してみよう ~何度目の決定木か~
付録 豊澤栄治(ロックオン)×井端康(アトラエ)
ツールを使いこなすだけでなく、さらに高いレベルを目指したい。~ここじゃないどこか~
※各章タイトルの末尾の一言は、豊澤さんがこの対談記事のために特別に添えたものです。ピンときた方は、豊澤さんが執筆したこちらの連載もご覧ください。