なぜ今「Cocos2d-x」なのか
八反田 私は日本Cocos2d-xユーザ会の代表をしています。「Cocos2d-x(ココス・ツーディーエックス)」は、C++で構築されたゲームフレームワークで、クロスプラットフォームで動作するゲームアプリの開発環境・ゲームエンジンです。中国のChukong Technologiesが中心となって開発し、MITライセンスでソースを公開しています。「Cocos2d-JS」というJavaScriptバージョンもありますが、日本では主に「Cocos2d-x」が使われているので、今日はそこについて話をしていきたいと思います。
鶴田 私も八反田さんと同じく、日本Cocos2d-xユーザ会のメンバーとして活動しています。Cocos2d-xは主に個人や中小のゲームデベロッパーに使われていて、現在ゲームエンジンのシェアはUnityとCocos2d-xの二つが人気の上位を占めると言える状態です(※)。一番の特徴はオープンソースなのでフリーで使えること、1回作ればiOSやAndroidなどいろいろなデバイスに応用できること。広告配信やプッシュ通知などの機能を独自に追加できるのもオープンソースの強みです。
※ Cocos2d-xのシェアは、2015年1月現在、中国では79%、日本では21%。Unityの日本でのシェアは36%(Cocos2d-xの開発元Chukong Technologies社調べ)。
Cocos2d-xは2Dに強いだけではない!?
大宅 Cocos2d-xは、名前のとおり2Dのアプリに強いというのも特徴だと思うのですが。
鶴田 少し前のバージョンまでは2Dしか扱うことができなかったのですが、最近は3Dゲームがいろいろ出てきて、2Dゲームであっても3Dのキャラクターなどを表示して、ちょっとリッチに見せたいという要望があります。そこに対応するために、バージョン3.1からは3Dゲームも作ることができます。
3DゲームになるとUnityのほうが圧倒的に使われている印象ですが、今後、Unityのような使いやすいインターフェースが整ってくれば、オープンソースの有利さを活かしてどこまでいけるのか楽しみなところです。さらに処理速度の高速化などが進んでいくことも今後の流れとして予測できるので、アプリのリッチ化が進む中で、Cocos2d-xの利用しやすさも高まっていくと思います。
大宅 日本では、ユーザーからのアイテム課金などで収益を得ているアプリ開発会社だけでなく、個人デベロッパーでもCocos2d-xを使ってる人が非常に増えていると感じています。
八反田 ユーザーの実数はつかめていませんが、スマホゲームのゲームエンジンやゲーム開発環境の人気ランキングなどでは2番目、Unityの次という位置づけですね。Cocos2d-xで作られたアプリのダウンロード数を見ると、2013年9月時点で15億ダウンロードぐらいだったので、感覚的には現在30億か40億くらいになっていてもおかしくないと思います。売上高で見ると、日本、台湾、中国、韓国ではUnityの何倍にもなっていて圧倒的1位。タイミングによっては、トップセールス10タイトルのうち8つがCocos2d-xというような状態だったりするのが、日本を含む東アジア4か国のトレンドでこの状態は結構長く続いています。
日本では2011年か2012年のころから、個人デベロッパーが2Dのカジュアルゲームを作り出し、気がついたら企業側も採用してローコストなプロジェクトを始めていました。その背景には、Unityを使った開発では3Dモデルやリソースのコストがかかること、Unityでの開発ノウハウがない中でなかなかスケジュールが読めないといった状況があります。ローエンドなAndroidデバイスで、2G、3Gといった通信環境で、ポリゴンガチガチというのは明らかに無理。そういう国や地域でも提供しやすいタイトルを作るツールとして広がっていったのだと思います。
ゾンビとの会話が大ヒット!
育成ゲーム「ゾンビ彼女」が生まれるまで
甲斐 アイモバイルのアドネットワークに登録している個人デベロッパーでも、Cocos2d-xの利用率は増えています。アイモバイルでは3つのデバイス「PC、スマートフォン、フィーチャーフォン」でアドネットワークを運営し、現在931億インプレッション、スマートフォンでは553億インプレッションを保持しています。このスマートフォンの553億のうち、約半分がアプリです。2013年と2014年で比較するとアプリのインプレッションは1.6倍に伸びています。
私たちは常にアプリのトレンドに注目していますが、今回は数あるアプリの中でも『ゾンビ彼女』という、Cocos2d-xで開発された非常に収益性の高いアプリを世に送り出した、株式会社からぽんゲームズの中島さんにお話をおうかがいできればと思います。
中島 ゲームの開発環境としてUnityとCocos2d-xがあるわけですが、Cocos2d-xに関しては、マルチプラットフォーム対応で無料。フレームワークを直接書き替えられるというところがプログラマー的には非常に使いやすかったので、まずCocos2d-xを使ってひとつ作ってみようと。それで『ゾンビ彼女』を作り始めました。
大宅 「ゾンビ」と「彼女」という組み合わせはどこから来たのでしょう。
中島 最初は「なにかとコミュニケーションを取る」という“人工無能的なもの”を作ろうと考えていたんですが、そのころ育成ゲームが流行っていたので、それに会話パートを追加したのがゾンビ彼女です。見た目も「かわいい」をちょっと変えて「キモかわいい」ものにするというパターンが多かったので、じゃあもともと「キモいもの」をかわいくしようと(笑)。
なおかつ、知能がないものが知性を取り戻していくとうストーリーになると、ゾンビが一番いい。「ゾンビ」で検索すると大体グロいのがダーッと並ぶので、そこにかわいいのがあると逆にインパクトがある。実は「ゾンビ」と「女の子」というのは割と鉄板の組み合わせなんです。
大宅 すごい組み合わせですが、結果的にはばっちりでしたね。
大ヒットアプリも最初はDLされなかった!?
中島 今は順調な『ゾンビ彼女』ですが、実はリリース当初なかなか数字が伸びなかったんです。最初はiOSだけを出していたんですが、Androidを出したときに一気に跳ね上がって順調に伸びていきました。それを機に「ゾンビシリーズ」第二弾ということで女の子向けに『ゾンビ彼氏』を作り、現在では累計100万ダウンロードを超えています。
女性ユーザーの興味を引くゲームタイトルを作るのはなかなか難しいのですが、ゾンビ彼氏は目論見通り、大半が女性ユーザーという結果になりました。また先日、シリーズの新作『ゾンビ姉妹』をリリースしました。
甲斐 最初にAndroidが伸びたというお話でしたが、それは何が要因なのでしょうか。
中島 わからないですね。通常はiOSのほうが多くてAndroidが低いというのが多いのですが、『ゾンビ彼女』は今でもAndroidのほうが多く遊ばれてます。
甲斐 海外ユーザーが影響しているのでしょうか。
中島 いえ、日本のユーザーだけです。ただ、その中でクチコミが非常に多かったのは特徴的でした。Twitterでは中学生・高校生が学校で友達とやってるというのが多かったですね。
甲斐 ほかのアプリでも中高生に火がついて、一気にダウンロード数が伸びたというケースがありますが、その場合キーになったのは「海外」。Androidが普及してる海外でヒットして、逆輸入で日本でもダウンロード数が伸びたというパターンです。
中島 ちょうど海外展開も近々開始する予定で、中国語と韓国語と英語に対応します。台湾と韓国のユーザーがダウンロードしているのでその地域に向けて出していきます。台湾のユーザーは日本のブランドに関して非常に好意的で積極的にプレイしてくれる。中国語でゲームのタイトルをつけるより日本語のままのほうがいいくらいです。
アイモバイルを使おうと思ったきっかけは?
中島 収益を得るためにアドネットワークを利用しようと思ったとき、Cocos2d-xのSDKを用意している会社が少なかったので、『ゾンビ彼女』ではアイモバイルのSDKを独自に実装しました。アイモバイルの評判は聞いていたので、どうしても入れたいと思っていました。
大宅 その後Cocos2d-x用のモジュールを用意したのですが、そもそもアイモバイルがCocos2d-x用のモジュールを作ることになったきっかけは『ゾンビ彼女』なんですよね(笑)。
中島 プログラマーに話を聞くと、アイコンの表示位置や個数を引数だけで指定するのは他社ではできないので、アイモバイルのCocos2d-xのSDKは非常に使いやすいと言っていました。何か不具合があってもすぐに対応してもらえる。アイモバイルは、これから初めて広告モデルのアプリを作ろうという方でも、容易に導入できると思っています。
Cocos2d-xで作られているアプリは収益性が高い!?
鈴木 最近のアプリの傾向を見ていると、Cocos2d-xで作られたアプリは広告効果も高いと感じています。Cocos2d-xで作られることが多い育成系ゲームのユーザーは、手が空いた時間に広告を見てクリックしてダウンロードすることが多い。広告のレイアウト位置も重要で、今は下にバナーを出してその上にアイコン、さらにインタースティシャルというのが鉄板ですが、育成ゲームはそうした配置をやりやすいという特徴があります。
八反田 そうなんですね。ちなみに媒体のインプレッションのランキングでは、最近大手デベロッパーが上位を取っていますが、広告在庫として個人デベロッパーは増えているのでしょうか。
鈴木 個人でやっている方は非常に多くて、大手のSAPに勤めていた人が独立して自分の好きな理想のアプリを作り、それがヒットするということもあります。
甲斐 これは個人ではないのですが、最近では『Q』というゲームが3週間ぐらい総合ランキングのトップ10をキープしていました。社内でも何人かやっていて、週明け会社にきたときに「どこまでいった?」というのが話題になってましたね。
大宅 本当に良いアプリは流行るんですよね。
八反田 個人デベロッパーでもネタひとつでまだまだいける余地はあるということですね。それをCocos2d-xで楽してやろうぜという(笑)。そういった使い方もありですよね。
甲斐 あと、マネタイズの部分で見逃せないのが、広告市場の動向を活かしたアプリ開発です。例えば、大きな予算を持っている広告案件があるとき、その案件と親和性の高いアプリの収益が高まる傾向があります。アイモバイルでは、どんなアプリの親和性が高いかを把握しているので、随時デベロッパー向けに提案し、効果的な広告の掲載を促進することで収益の最大化に貢献できればと考えています。
中島 なるほど。そういった観点もあるんですね。
大宅 「ゾンビ彼女」もそのようなアプリのひとつになっていて、元々のポテンシャルが良かったことはもちろんですが、案件との相性が良かったというのも収益性が高まった要因のひとつだと思います。
もっとCocos2d-xを盛り上げていきたい
甲斐 今日はCocos2d-xに異なる立場で関わる方々にお集まりいただき、今後がますます楽しみになりました。
八反田 ユーザ会の代表としては、ユーザー層広げて勉強会をしたり、書籍を書く取り組みを増やしていきたいですね。組織としてもう少し運営を強化して、Cocos2d-xの日本での発展をさらに盛り上げていきたいです。先日、ユーザ会のメンバーで執筆した書籍『開発のプロが教える Cocos2d-x逆引きガイドブック』も発売になったので、こちらもよろしくお願いします。
鶴田 私は小さいときからゲームが作りたいと思っていたのですが、最初はどうやって作ればいいのかわからなかった。でも実際作ってみると簡単なんだというのがCocos2d-xは体感しやすいと思います。以前、高校生と一緒にゲームを作る企画に参加したとき、ゲームができあがったらみんなすごく楽しそうにしていた。今後もゲーム作りの楽しさをCocos2d-xを通して伝えられたらと思います。
中島 からぽんゲームズは『ゾンビ彼女』シリーズをメインで作ってきましたが、これからは自分たちがトレンドを作れるような、新しいタイプのゲームタイトルを作っていきたいと考えています。また、企業だけでなく、個人デベロッパーも「このタイトルはCocos2d-xで作った」という情報をオープンにしてくれると、デベロッパー間の輪が広がってCocos2d-xがさらに盛り上がるんじゃないかなと思っています。
甲斐 アイモバイルは、引き続き広告主・メディア双方の広告効果の最大化を図っていきます。デベロッパーがトレンドを作り、それを私たちが支えるだけでなく、私たち自身もトレンドを提案したいですね。
大宅 アプリデベロッパーがどんどんアプリを作っていくためには収益が一番大切。CPMを1円でも上げられるように広告主とうまく協力していきながら、メディアに収益を戻していく。これが今後のミッションだと思っています。
鈴木 マネタイズのプロとして、どうすれば広告効果が最大化できるのか、単価が最大化していくのかをお伝えしていきたいです。アプリを作る過程をお手伝いしながら一緒にわくわくしたい。ゲームアプリ業界を活性化できるようがんばっていきたいと思います。
- アイモバイル
- 『開発のプロが教える Cocos2d-x逆引きガイドブック』(Amazon.co.jp)
- からぽんゲームズ