2015年問題から2025年問題へ
今年、2015年は800万人に上る団塊の世代が65歳となり、年金給付の開始や要介護者が増加していく見込みから、介護福祉業界に大きなインパクトをもって迎えられました。その10年後、2025年には同様に団塊の世代が75歳以上となる2025年問題が取り沙汰されています。
それ以前に、日本は2007年に65歳以上の人口が21%を超え、超高齢社会と呼ばれるようになりました。介護福祉業界での諸所の問題は、皆さんもお聞き及びかもしれません。いわく介護人材不足、若年層の年金負担増など……。
しかし、介護福祉業界の成長、市場拡大についてはさまざまな方面から熱い視線が向けられています。2025年の介護給付金は21兆円に達し(介護給付と保険料の推移)、市場規模としては2020年には約2兆8000億円になると考えられているのです。2014年には約1兆6000億円の市場が6年で80%近く成長すると予想されています(介護福祉・介護予防関連製品・サービスの国内市場を調査)。
どのようなビジネスで巨大成長市場に踏み込むか
では、この成長市場に、企業はどのようなビジネスで関わろうとしているのでしょうか。アメリカでは国内人口の高齢化に向けて、IT系企業がさまざまな事業を開始しているそうです(介護はお金になる?米国のスタートアップ企業が軒並み介護事業を立ち上げ)。
国内についていえば、これほどの規模での大きな動きがまだないのが現状です。特にIT系のスタートアップもそれほど目立ちませんが、その中で印象的なのは日本郵政グループの取り組みでしょうか。
日本郵政グループでは、2016年から、全国の65歳以上の3300万人にIBMと開発したアプリを搭載したiPadを配布し、生活サポートサービスを提供していくとのことです。2015年下期に実証実験が予定されており、「コミュニケーションサービス」や「買い物支援サービス」が準備されています。(高齢者向け新サービス実施に向けた業務提携について ~IBM、Apple との実証実験の実施~)
法律から食事まで、高齢者サービス続々
そのほか、高齢者により身近なサービスを提供する企業も現れています。介護・福祉系法律事務所おかげさまは、法律に関わる相談のみならず、入所施設でのトラブル対処法、あるいは訴訟や裁判を回避するセミナーを行なっています。
介護系のタクシーでは、日本交通のケアタクシーが人気だそうです。単なる移動だけでなく、ショッピングや墓参り、通院に利用されており、乗務員はショッピングの際に荷物も持ってくれるそうです。
また、洋食店の食楽工房はバリアフリーでおいしい介護食を提供するレストラン。トイレが車椅子で利用でき、調理方法も客の健康状態によってミキサー食や刻み食など使い分けています。
介護をする人に向けた製品も登場しており、CYBERDYNEは介護用ロボットスーツの販売をしています。装着すると動きをアシストしてくれるので、腰痛の原因となる介護者の移乗の負担が大きく減ると好評のようです。ただ、こうしたロボットスーツや介護ロボットの普及には壁もあり、使用者の体にフィットさせるのが難しいなど、課題も横たわっています。
市場としてはまだ若い介護業界ですが、国内でもビジネスの芽がいくつも生まれています。ただ、現場で働く介護職員にとっては、もっと職場が改善されてほしいといった要望も多く、業界全体としてブレイクスルーを必要としているようです。もっとも、そこにこそチャンスがあるのは間違いありません。
出版社としてどんなビジネスチャンスがあるのか
人口が増大する高齢者や要介護者を対象としたビジネスがあるのはもちろんですが、そのビジネスを支える人材がいなくてはなりません。どうやらいまも近い将来も、介護業界での人材不足は避けがたいようです。2014年末の時点で有効求人倍率は約2.7倍と、超高水準といえるでしょう(介護人材の確保について)。
引く手数多の介護業界ですが、仕事がきつい、低賃金といったイメージがあるのも事実。そうした中で、介護を仕事にする方がいかに気持ちよく働き、充実感をもって課題に取り組めるようになってもらうかも重要です。NPO法人もんじゅは現場職員の悩みを解決するオフサイトミーティングを実施し、Uビジョン研究所では介護施設の評価認証事業を行なっています。
また、働く方にとって、介護業界でのキャリアアップは仕事のモチベーションには欠かせません。自分の将来像を描くとき、各種の国家資格はとても有力な選択肢として存在します。そこで翔泳社が見出したのは、キャリアアップを志す方を支援する「福祉教科書」の刊行です。
2010年から刊行している本シリーズは、「介護福祉士」「社会福祉士」「精神保健福祉士」「ケアマネジャー」「保育士」という介護・福祉に関連する資格を取得するための参考書です。介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士は福祉系三大国家資格(三福祉士)と言われ、これらの資格を有する方が5年間の実務を経るとケアマネジャーの受験資格を得ることができるため、キャリアアップには欠かせない資格となっています。
福祉教科書シリーズ「介護福祉士」
三福祉士の中でも、介護福祉士は需要の伸びに伴って2014年に登録者数が約130万人となり、現場で働く介護職の方に注目を浴びています。受験に3年間の実務経験が必要な資格ですが、毎年の受験者数は13万~15万人に上ります。合格率も60%を超える年が続きますが、これでも介護業界の人材不足は補えていないのが実情のようです。
翔泳社では2016年度版の「介護福祉士」テキストと問題集が5月に刊行されたばかりです。また、テキストと問題集を補完する一問一答集もこの7月に刊行されました。実際に働いている方が限られた時間で勉強し、資格を取得するために必要な要素を、この3種セットでまかなえるようになっています。
出版社としていかに価値あるものを介護業界に提供できるか。その形が「福祉教科書」シリーズでした。翔泳社ではまた、最新の介護保険について知りたい方に向けて『これならわかる<スッキリ図解>介護保険 第2版』も刊行しています。
2025年問題をどう捉えるか
かつては団塊の世代の購買力を当て込んだビジネスが取り沙汰されましたが、2025年問題を前にしたいま、「大人口」「購買力」といった要素にだけフォーカスを当てていればよいというわけにはいかなくなりました。つまり2025年問題は、団塊の世代を新しい視点で見なければならないきっかけになるのだといえます。
特に介護業界はその典型で、高齢者や要介護者に直接商品やサービスを届けるだけでなく、どういう人や職業、企業が関わるのかを想像しなければなりません。特に、日本の将来を考えるとき、介護の現場を支える方々へ目線を合わせたビジネスも生み出す必要があります。これから日本ではどんなビジネスが立ち上がり、ブレイクスルーが起こるのでしょうか。