ブランドの本質に沿い、国内外で影響の出せる施策を
デジタル・マーケティングやプロモーション施策の好例が表彰される「コードアワード」が今年も開催されました。今回、審査員を務め、自身もクリエイティブディレクターとして活躍される佐藤カズー氏に、アワードに見られるデジタル施策のトレンドや課題を伺いました。
佐藤カズー(さとう・かずー)TBWA HAKUHODO 97年Sony Music Entertainment入社。Leo Burnettを経て2010年TBWA HAKUHODO入社。メディアの枠を超えたBig Ideaで、カンヌ金賞をはじめとした150以上の国内外の賞を受賞。代表作に「SUNTORY: 3D on the Rocks」「United Arrows:恋するレーベル、Marrionettebot」「IKEA: SUKIMA GALLERY」「adidas: SKY COMIC」など。11年クリエイター・オブ・ザ・イヤー・メダリスト。12年カンヌ国際広告祭 フィルム部門審査員。
MZ:カズーさんは「コードアワード2014」でベスト・キャンペーンに輝いた、「サントリー 3D on the Rocks」のディレクションを担当されるなど活躍されています。ご自身が施策に関わる際に大切にしているものはなんでしょうか?
佐藤:「提案するものは本質に寄ったものであるべき」だと考えています。ですから、企画を考える際には最初に必ずクライアントの社訓や社是などに目を通しています。すると、ブランドや企業の本質が見えてくるんです。
もう一つ重要なことは“絶対に日本でワークして、その上で全世界の人に理解されるものを作る”こと。非常に難しいことだとは思いますが、国内と国外の二つを両立させたクリエイティブがビジネスを動かす、マーケットを動かす。これが理想で、いかに実践していくかをチャレンジとしています。
MZ:今回のコードアワードの審査でも、その視点は加味されたのですか?
佐藤:すべての審査に言えることですが、作品を見るときはクリエイティブの良し悪しやアイデアはもちろん、世の中にどのような価値を提供しているのか、どのような社会の変容(=ビヘイビアチェンジ)を生んでいるのか、ビジネスの結果として何を出したのかを意識しています。
そして、「ブランドの本質にきちんと寄っているか」も重要視しています。どれだけ優れたアイデアであっても、ブランドにとって無意味なものは無駄だと思うんです。世界的な広告の傾向を見ても、ブランドパーパスをダイレクトに描いたもの、ないしはブランドの本質をえぐっていくような広告が目立っていたと思います。
ですからコードアワードでも、Whyの視点を常に持っていました。「このブランドはこの施策をやる必要があっただろうか」「なぜこのブランドはこの施策をするのか」「これを行うことは実はダメージなのではないか」などを考えていましたね。
「トレンドコースターは、久しぶりに嫉妬した仕事」
MZ:今回のコードアワードの審査員の面々を見ると、ご自身もデジタル施策に関わる「作り手」のかたが多いと感じます。審査中はどのような会話がされたのでしょうか。
佐藤:各界のプロ同士が深くディスカッションする審査なので、とても勉強になるものでした。審査の中で僕は「ヤフートレンドコースター」という作品をグランプリに推していました。この作品の面白い部分は、ソフトのデザインだけでなくハードのデザインがしっかりとされている点。ここが、エポックだった。ソフトウェアのプログラミングによってアプリやサービス、映像を作るという取り組みは過去にも多く見られました。ですが、このレベルのハードウェアを自分たちでつくるという例は希少です。クラフトネスとしての素晴らしさを感じました。
そしてアイデアも、データをいかにクリエイティブにするかというホットトピックを扱っています。ビッグデータ×アートまたは、ビッグデータ×エンターテイメントをテーマにした作品は今年のカンヌライオンズでも見られました。ですが、まだまだこれからの分野です。この先進性も評価できました。
MZ:データの可視化から一歩進んで、データを体験するという試みが面白い作品ですよね。
佐藤:個人的にとても嫉妬した仕事ですね。ネットで疑似体験した瞬間「やられた」と感じました。彼等はコースターの傾斜角度をつけるために、わざわざチェコにパーツを買いに行っているんですが、そのストーリーからしても悔しいですよね。チェコにパーツを買いに行く仕事って何だ?と(笑)。このように、細部までこだわり面白いものをつくるというクラフトの情熱も素晴らしいと思いました。