グランプリ作品は「ヤフー トレンドコースター」
「コードアワード」はモバイル広告大賞を継承する形で昨年よりリニューアルされた、デジタル・マーケティングやプロモーション施策の好例が表彰されるアワードです。多角的な成果が伴った施策に贈られる「イフェクティブ」、革新的な手法を用いた施策に贈られる「イノベーション」など、全5部門および、最も優れた作品であるグランプリ、そして一般投票で決まるパブリックベストが用意されています。今年は全123点の応募作品から、全13チームが選出されました。
今年のグランプリは「ヤフー トレンドコースター」が受賞。同社のリアルタイム検索によって収集されたデータの波形をもと生成されたコースを、ジェットコースターで楽しめるというもの。トレンドの動向が体感できるSNS連動型バーチャルジェットコースターです。同アワードの審査員長を務めるPARTYの伊藤直樹氏は、「施策のあらゆるプロセスにイノベーションがあった」と総評しています。
コードアワード2015では贈賞式に加え、「ヤフー トレンドコースター」制作チームによるパネルディスカッション「データの可視化からデータの体験化への挑戦」と、審査員や受賞企業によるパネルディスカッション「グローバルで考える日本発デジタル広告」が用意されました。
今回は、2つのパネルディスカッションをレポートします。
「少し先の未来」をつくる、ヤフーが挑んだデータの体験化
一つ目のセッションでは、グランプリ作品「ヤフー トレンドコースター」の制作チームから、ヤフーの那須氏、博報堂ケトルの橋田氏、dot by dotの富永氏が登壇。施策と狙いを振り返りました。
那須:ヤフーが目指す方向性は“ビッグデータカンパニー”です。そうである以上、データの未来を示す必要があるのではないかと考えています。そこで活用したのが、リアルタイム検索です。検索ワードについてSNS投稿にフォーカスしたもので、そのワードが今どれだけ話題になっているか、波線グラフで見ることができます。
橋田:このデータ、つまり話題性によって乱高下する波形は、まさにジェットコースターのコースそのものです。ネットから得たデータを“体感する”ことができるはずだと考えました。
富永:バーチャルアトラクションなら、波形と連動した動きが可能です。コースはリアルタイム検索から生成されるものなので、乗車前に利用者が検索したワードに話題性があるならスリリングに、なければ平坦になるんです。
この要素はテレビ番組に取り上げていただく際にも役立ちました。例えば、ブレーク前の若手芸人さんの名前だと平坦。ちょっとお寒いコースになるわけです。話題を広げる“つかみ”になりました。トレンドコースターはwebサービスなどと異なり、ハードが必要なアトラクションです。だから、直接体験できない人にいかにプロジェクトを伝えるかも重要でした。プロジェクトの伝播を考えると、非常に強みになったのではないかと思います。
橋田:単にアトラクションの動きでデータを体感できるだけでなく、乗る人が選ぶワードによって動きが変わる。トレンドセンスが問われるところも、データを活用したアトラクションの面白さなんですよね。
富永:データの波をより強く実感できるよう、ジェットコースターの役目をするシミュレーターは、国産よりも前後左右の動きが大きく、最大30度の角度がつくチェコ産のものを選んでいます。さらにヘッドマウンテンディスプレイに、動きと完全に連動したコースを映し出すことで視覚からの体感を提供できるようにしました。
もっとフィジカルで実感できる要素もプラスしたいと考え、工業用ダクトによる風、バラエティ番組でよく見られる炭酸ガスを、スプラッシュとして加えました。生成されたコースの中で最高速度が出る部分で風が、最も確度が付くときにスプラッシュが発生するようになっています。
那須:結果、データを活用した、新たな形が生み出せたのではないかと思います。ヤフーでは国内におけるネット検索を一般化させ、“普通化”させてきました。またニュース配信により、ユーザーがネットを通して出来事を知るという行為を“普通化”できたように、今回の施策も、そのきっかけになれればと。
橋田:昨年、このアワードで「ベスト・ユーズ・オブ・メディア」をいただいた「さわれる検索」も同じチームで臨みました。実はこのプロジェクトはまだ進行していて、3D教材として活用できないかと取り組みを行っています。つまり、このまま教育の未来を変える可能性を秘めている。ヤフーさんとの取り組みは、まさに「いずれ普通になっていくんじゃないか?」という、きっかけづくりなんです。
那須:これまでヤフーが行ってきたことは、ちょっと先の未来を“普通化”することだと考えます。SFチックではなく、日常の延長線上にあるような未来です。収集したデータを分析し、可視化するところまでは、すでに珍しいことではなくなりました。
今回はさらに一歩踏み出して、“データの可視化からデータの体験化”に挑みました。どこか、無機質で冷たいイメージのあるデータを触れたり、感情を乗せたりできるものにしたわけです。これからも“普通の未来探し”を続けていけたらと思います。
この連載は?
本連載はマーケティングにおけるデジタル活用情報を伝えるウェブメディア、「D2Cスマイル」の記事を、MarkeZine向けに再編集した出張版です。出典元はこちらです。