トップダウンの啓蒙で強い日本経済へ

深田:現在、Oracle DMPに入っているユニークブラウザ数はどのくらいですか?
大山:現在、株式会社オムニバスが提供するオーディエンスデータと連携をしています。また、米国のグローバライゼーション責任者と一緒に日本のメディアを訪問して意見や状況を聞いています。そのオーディエンスデータ業界の経験の長い担当者から見ると、日本は米国の黎明期と同じ状況だそうです。彼は前述したデータをモニタリングする第三者機関にも精通しているので、米国で先行しているガイドラインやノウハウを提供し、日本市場を発展させるサポートができそうだと話しています。他のベンダー、メディア、代理店などとうまく連携して仕組みづくりをしたいですね。
深田:日本の業界団体的な輪だと、外資企業が参画しにくいことも懸念されます。正直なところ、オラクルさんは日本のマーケティング業界で顔になっている人がいない事が課題なのでは?
大山:その点こそ、私が頑張るところだと思っています。私は以前、競合のベンダー企業を辞め、独立して広告テクノロジーに特化した英国のメディアである『ExchangeWire』日本版を立上げ編集長を務めていました。そこからオラクルのようなベンダー企業に戻ってきたのは、新しいテクノロジーが日本で正しく浸透しなかったら、損をするのは日本の企業でありマーケターだと気づいたからです。だからこそ、きちんと情報を伝えないといけない。ただツールを入れるだけでなく、コンサルティング、サポートを通して、マーケターの業務に定着して結果が出るように、海外からの情報のハブになりたいと考えています。
Oracle Eloquaをはじめて見た時、「ITの手を煩わせることなく、マーケターが自由にデータドリブンな施策を実行できる究極の世界、ついに最先端まで来たな!」と思いました。IT知識の乏しいマーケターでもUI上で簡単に使えますから。米国では、IT部門の基幹システムより、マーケティング部門のテクノロジー予算のほうが大きくなっています。日本ではまだまだマーケティングはコストだと思われがちですが、データでリターンを可視化できれば、マーケティングテクノロジー投資へのシフトは進んでいくのではないでしょうか。
ただ、組織体制、権限などは現場だけでは変えられないため、トップダウンで変えていくべく、日本の経営者へ啓蒙していく。それがオラクルの役目だと考えています。最終的には、マーケターがテクノロジーの恩恵を受け、本来やるべき戦略や顧客理解のといった仕事に注力できるようになり、ひいてはマーケティングが日本の経済を強くしていければ素晴らしいと思いますね。
ストーカーではなくコンシェルジュに
深田:僕がデジタルマーケティングでのおもてなしに関心を持っている理由として、デジタルでのおもてなしが嫌がられている状況があります。実店舗では店員が自分の好みを覚えていてくれたり、気持ちを汲みとって先回りしてくれたりすると心地良いですよね。これがデジタルの場合は、自分のことを理解してくれてコミュニケーションしていると思えないし、自動的に売ろうとしていると感じてしまう。この状況を変えたいと思っているんです。
大山:適切なおもてなしをする上で基盤になるものがデータです。しかし、日本のデジタルマーケティングではいまだに刈り取りの施策に注力しすぎて、リターゲティングなどは一度見た商品の広告がいつまでもつきまとってストーカーのようなキモチ悪い印象を消費者に与えてしまっていることは否定できません。
では、1年前に店舗で商品を買ったことのあるブランドから、サイトを訪問した際に好みにあう商品をさり気なく提案されたらどうでしょうか? テクノロジー的な視点で見ると、1年前にその人が店舗で購入した購買データと、オンラインでの閲覧行動などを分析し、好みを把握したうえでレコメンドをしたというデータ活用の技術を駆使したことには変わりありません。ですが、受け手から見るとストーカーではなく、コンシェルジュにおもてなしをされたように感じられるでしょう。
一方で、データに基づく“おもてなし”コミュニケーションを実行するには、企業が時間とリソースを投資できるか、特にシナリオを作れるかという点が課題です。ツールは魔法の杖ではないので、導入すれば瞬く間に課題が解決するわけではありません。顧客接点を洗い出し、カスタマージャーニーを作って、分断しないコミュニケーションシナリオを最適な方法で届ける設定をするといったマーケターの宿題をこなさなければ、おもてなしは実現しません。
おもてなしを実現して、顧客との良好な関係を維持する――これはBtoCもBtoBもマーケティングでの重要性は同じですよね。おもてなしの精度を上げるためにデータを収集すること、また、そのデータを扱うツールを最大限に活用するためには、その設計思想を理解することが重要だと思います。
深田:なるほど。ところで次回は、マーケターの立場から広告主サイドの方とお話をする予定です。施策の成果としてのコンバージョンを獲得できないことが多くの担当者の課題です。コミュニケーションの施策を考える上で、データ一元化の必要性を考えられていると思いますが、大山さんが注目していることはありますか?
大山:情報があふれ、消費者の興味関心が目まぐるしく変化する中で、タイムリー、シームレスなコミュニケーションがマーケターには求められます。データを集めてもそれが分断されていたり、施策を実行するのに手間と時間が掛かっていたりしたら意味がありません。これらの課題をどのようにとらえ、進化し続けるテクノロジーをどのように味方につけているのか、といった具体的な取り組みなどが気になりますよね。
深田:そうですね。次回はユーザーの変化とリアルタイム性にも迫れればと思います。本日はありがとうございました。