日本企業の動画広告活用はブレイクスルー目前
MarkeZine編集部(以下、MZ):MarkeZineでは、昨年近藤さんがTubeMogulの日本法人代表に就任された際にお話をうかがいました(関連記事はこちら)。当時から1年足らずで、着実に日本の動画広告市場は拡大し、特にブランド広告主の活用が目立っていると思います。まずはこの1年の変化について、解説いただけますか?
近藤:ご指摘のように、たしかに日本の動画広告市場はこの1年でますます活況を呈しています。ただ一方で、米国をはじめ海外のように本当にブレイクスルーしているかというと、まだしきれていないと実感しています。
MZ:ブレイクスルーしきれていない、とは、具体的にどういったことでしょうか?
近藤:日本企業の動画広告への期待は、確かに高まっていますし、実際に出稿企業の数も増えています。ですが、動画広告について話題に上るとき、それが本当に動画というフォーマットを使った広告マーケティングの話なのか、それともコンテンツの話なのかが、曖昧になっていることが多いのです。市場の拡大に伴い、当社も出稿企業をサポートするために各種機能を拡充していますが、動画広告を最大限に活用いただけている企業はまだごく一部のようです。
動画広告を活用するためのキーワードを挙げるとすれば“透明性”です。データ活用における透明性がいかに大事かを強く認識し、メディアや広告会社などのパートナー企業にもっと求めていくべきだと感じています。海外では、そのあたりの意識がずっとシビアです。
データの可能性活かすキーワードは“透明性”
MZ:「透明性を求める」とは、実際の広告配信メディアや効果の可視化について、広告主側がしっかり把握すべきということでしょうか? 広告会社が入っていても、もっと当事者意識を持って説明を求めるというか。
近藤:そうですね。ブランド毀損の点から配信されるメディアは必ず確認すべきですし、効果ももちろんです。結局、それは言い換えればデータを有効活用することにつながります。
出稿を決めたら運用はメディアや広告会社任せだと、後々行き詰まります。というのは、DSPの良さは広くテールも含めてリーチが取れることと、その上でターゲティングができることです。そしてDSPを有効活用するためには、第三者データだけでなく、CRMなど自社保有のデータも含めて戦略的にデータを使いこなすことが必要になります。すると、広告主がみずから判断することが重要になります。
MZ:いわゆる“丸投げ”状態だと、データ活用の可能性を存分に活かしきれないと?
近藤:ええ。突き詰めれば任せきりにはできないところもあって、広告主自身が深くデータ活用戦略に関与しなければいけないフェーズが来るはずです。外部頼りになってしまうと、その戦略は競合と似てきてしまうようなことになりかねません。
指標ひとつとっても、当社では完全視聴率やCTRといった指標を66個用意していますが、もちろん全部を逐一追えませんよね。ではどれをKPIにするのか、そういった部分の判断から、広告主が透明性を重視してあたることが大事になります。
Test&Learnを重ねて自社に知見を貯めていく
MZ:海外では広告主企業の透明性への意識が高く、主体的な運用もすでに主流になっているのですか?
近藤:ええ。実際に当社がお手伝いしている海外のケースでは、指標選びや運用を相談しながら成果を上げており、それらを日本企業にもケーススタディーとしてフィードバックしています。米国は特に、“Test&Learn”の考えが根付いていますね。
これは多くの方がいわれていますが、データドリブンがいくら大事でも、データから分かるのはあくまで過去と現在であって、将来を100%示唆してはくれません。デバイスの違いによる効果の差や、FacebookのようなSNSのインフィード広告とYouTubeに代表されるプレロール広告の効果の差を把握しながら、最適化することが重要です。
また、コスト効率を高めるにも、高速でPDCAを回していくことが有効です。TubeMogul含めて入札型のDSPでは、Test&Learnは効果、効率の両面を向上させる上で必要になります。
MZ:マーケターが仮説を持って主体的に進めることが大事なんですね。効果指標の話が挙がりましたが、動画広告ならではの効果をどう捉えていらっしゃいますか?
近藤:従来のバナー広告に比べて、明らかに影響の度合いが高いと思います。当社のクライアントが、ブランディング目的で出稿する広告主が多いからという理由もありますが、CTR(クリック率)ひとつとっても、平均して言われる数値の10倍以上ですね。単なるクリックというより、やはり認知され関心を引いたというコミュニケーション上の影響はCTRと相関するので、注目すべき点です。
ダイレクト系の広告主も動画広告へ、LTVに注目
MZ:ということは、ブランディング目的だと、やはり動画広告の意義としては認知や態度変容が大きいのですね。
近藤:そうですね。特にTVCMを出稿してきたようなナショナルクライアントだと、特に若い世代に対してTVの影響力が弱くなっていることを補完するために、動画広告を取り入れる傾向が目立ちます。いわゆる、リーチの補完ですね。
一方で、TVでもネットでも触れるという重複接触の効果も確認されています。
MZ:では、逆に従来からバナー広告でコンバージョンを獲得していたダイレクトレスポンス系の広告主は、動画広告をどうみているのでしょうか?
近藤:CPAを重視してきたダイレクトレスポンス系の広告主からも、動画広告の問い合わせを多くいただき、実践が進んでいます。クリエイティブや配信メディアなど、アプローチは違ってきますが、ブランディング目的と同様に、コミュニケーション上の高い効果が出ています。
いわゆる刈り取り目的だと、遅かれ早かれいずれ頭打ちになります。なので、ニーズが顕在化した層へ検索連動型広告でプッシュしつつ、潜在層の発掘や休眠層の掘り起こしに、動画広告でシーンを思い浮かべてもらうような訴求がなされていますね。
ダイレクト系の広告主は、早くからデータドリブンを主体的に進めているので、むしろ短期のコンバージョンだけでなくLTVを重視したり、ポストインプレッションに何が起きたかをしっかり分析しようとする取り組みも始まっています。それが可能な人材が広告主側にいることも大きいです。
出稿後のリサーチを通してエモーショナルな効果を把握
MZ:仮説を立てて分析し、主体的に運用できる人材がいるかどうかは、冒頭の「透明性を求める」話にも大きく影響しますね。コストだけみると、動画広告はバナーなどより高いですから、効果を踏まえて全体最適できる人が必要になる。
近藤:そうですね。特に動画広告のクリエイティブの影響、エモーショナルな効果は測定するのが難しいので、人材もそうですが、出稿後のリサーチも大事です。当社では出稿後の会員へのアンケート調査機能を無料で提供しているので、広告接触の有無で認知や関心がどう変わったかは簡単に取れるようになっています。本格的に深堀りするならリサーチ専門会社の協力を得るほうがいいと思いますが、ある程度の現状把握には、うまく使われています。
MZ:最近のトピックとしては、Facebookとの連携を強化するという発表がありました。
近藤:Facebookには、この4月からインフィード広告の配信を開始しました。動画広告を最大限活用したブランディングを実現するための、マルチスクリーン、マルチデバイス対応の一環です。日米では状況や進み具合が異なりますが、米国ではプログラマティックTVの仕組みが発展し、TVキャンペーンとの融合が探られています。Facebookの存在は大きいので、TubeMogulとの連携で、TVを含めたブランディング領域において、デジタルを活用した出稿の最適化に貢献できると思います。
日本の出稿環境整備と、米国や中国への進出サポートを強化
MZ:では、日本法人としての今後の展望をお教えください。
近藤:日本の動画広告市場の拡大に寄与するのはもちろん、動画広告を本当にマーケティングに有効活用いただけるようにしたいと考えています。TubeMogulの機能を最大点に活用できる環境は、現時点では米国なんです。米国の出稿環境は、パブリックに使えるデータの種類、配信面の在庫、クッキーベースではないターゲティングなど、さまざまな観点で整っています。各プレーヤーとともに、日本でも米国と同等になるよう、環境を整えていきます。
一方、そういう状況なので、日本企業が米国市場へ進出する際のサポート事例は増えているんです。
MZ:なるほど。商品広告だとローカルへの最適化が大事になるでしょうが、ブランディングなら本国からハンドリングできると。
近藤:ええ。また、日本市場の出稿環境の整備と並ぶもうひとつの注力点は、中国への進出です。TubeMogul本社も中国にはかなりコミットしており、開発拠点も置いています。当社も現地スタッフと連動し、日本の広告主に安心して活用いただけるよう、ユーザーに人気のメディアから文化的な感覚の差まで、包括的なサポートを提供しています。
中長期的には、先のFacebook連携を含めて形式をまたいだ効果の可視化、あるいはプログラマティックTVも加味した最適化など、広告主がまだ気付いていないような潜在的な課題にもしっかり応えられるようにしていきたいですね。