最先端の技術を組み合わせたソリューションを提供
――『EC市場とテクノロジー活用最新動向調査2015-2016』をお買い上げいただきありがとうございます。今回、御社の事業をうかがいながら、どういった場面で本資料が役立っているのかをうかがいたいと思っています。
最初に、五反田電子商事がどのような事業を展開されているのか教えてください。
洞田:弊社では新しい技術を用いて新しいECを実現することを理念に掲げています。業種としてはECデベロッパーですが、一つのパッケージやソリューションを持ってそれを売り込んでいくのではなく、常に最先端の技術を採用し、クライアントが最も高い効果を得られるビジネスモデルを提供することを大事にしています。
具体的には、クライアントごとにペルソナを設定して、どの技術やツールが最適かを検討し、完全にカスタマイズしたソリューションを提供しています。そうすることで、汎用的なプラットフォームを提供するよりも高い効果を得ていただくことができます。
顧客ターゲットはアジアですが、欧米での展開と比べてアジアでは受け入れられやすいからです。欧米には競合他社がひしめいていますし、そもそも日本のブランドがシェアを確保するのが難しいというのが実情です。
また、自社ブランドの開発も行っています。売上の向上やリーチ拡大はもちろんですが、ブランド開発手法や新しい技術の実験をしている面が大きいですね。新しい技術やツールを導入して効果を確かめたり、クライアントに合いそうなシステムを模索したりと、さまざまなメリットがあります。
これまでの取引もあって弊社からリーチできるブランドが増え、事業としてもコンサルティングの色合いが強くなっています。そのため、弊社はファッションEC支援事業では企画部分、ディレクションに強みがあります。事業計画やカスタマージャーニーの作成要望を受けて一から取り組んでいくこともありますね。
――ECzine編集長として仕事をしていると、メディアに登場するのは名の知れた一流ブランドで、店舗の縦割り経営に横串を刺して頑張っている企業や人物が多い印象を持ちます。そういう企業は実店舗のみでやってきたところにECを組み込もうとしているので大仕事になりますよね。
洞田:でしょうね。しかし、実店舗があるならECは集客に注力すると売上が増えるでしょう。やりがいはあるのではと思います。
ただ、大手ブランドでもEC化が進んでいますが、新たな売上が出にくいこともあります。というのは、EC化率が上がってECの売上は出ている、しかしその分、実店舗の売上を食っているというような状況になってしまうんです。それはアパレル市場が大きくなっていないからですね。たしかにファストファッションの企業は伸びているところが多いですが、たいてい外資企業ですから、国内企業は総じて厳しい。大手ブランドは売上よりも利益を取るためにEC化率の向上を目指していると考えています。
競合や市場のシェア状況を知らなければKPIを設定できない
――ファッションECデベロッパーとしてかなり幅広くブランドと取引がある御社ですが、本資料はどのように利用されているのでしょうか。
洞田:第一に競合他社を知ることができた、つまり、市場のシェアを把握できたのがありがたかったですね。直近の具体的な数字が掲載されていて市場全体を俯瞰できる資料はなかなか見つからないんですよ。
――本資料の販売直前、2016年6月に公開された経産省のデータを多く使用していますが、これは誰でも閲覧できます。本資料では有用な部分を抜粋してあることに価値があったということですか?
洞田:なにより、自分で探すのは大変ですからね(笑)。そして経産省のデータ以外も載っているのがすばらしいと思います。こうしたデータは、たしかに探せば見つかるんですが、本当にあらゆるところに散らばっていて、さらにデータごとに分析軸が異なるため、集めるだけでなく分析するのも骨が折れます。本資料はそれをすべて行っていて、ECzineとしてきちんと担保してくれているのがとても助かります。実際、経産省のデータ自体も大雑把で分かりやすいとは言えません。分析というか翻訳してくれているので、誰でも理解できるのがいいですね。
――市場のシェアを知ることができるとのことですが、そうすると御社にはどういったメリットが生まれるのでしょうか。
洞田:例えばKPIを設定するとき、現状の数字を改善するとして、どれくらい施策を行って、どれくらい効果が見込めるかをかなり細かく想定します。そのうえでどんな施策をやればいいのかを決めていくわけです。そのため、市場がどの程度成長しているのか、EC化率が高まっているのかどうか、そうした情報を踏まえてKPI達成が可能か否かを知りたいんです。
要するに、KPIを設定するための基準がないと設定しようがないということです。市場が伸び悩んでいるのに、それを上回るようなKPIを設定してもそもそも達成が難しいですよね。本資料ではデータを細かく分厚く積み上げていただいているので、戦略のベースとしてたいへん役立っています。半年ごとに更新していただきたいくらいです(笑)。
――本資料で特に印象に残ったところはありますか?
洞田:4章の業界関係者ヒアリング編が面白かったですね。弊社はEC特化型ファッションブランドもやっているとはいえ、他社が今の市場をどう見ているかは気になります。そこがわりと率直に語られていて、他社がどこに重きを置いているのか、あるいはそれをもとに弊社はどこにビジネスチャンスを見出だせるのかを考えるうえでとても役に立っています。
――そのまま読むだけでも面白いように編集しましたが、業界を知っている方が読まないと分からない行間はたしかにありますね。
洞田:インタビューは大げさに書いてあるものもありますが、ここまでのボリュームとなると、大げさなものと控えめなものが両方あるので、実際のところ、つまりちょうどいいところを察知できますね。こうした理解は、一つのインタビュー、一つのセミナーだけだと情報が偏ってしまい、判断できないこともありますから。
あと、全体的な話になりますが、本資料は弊社に蓄積されている実データが妥当かどうかの判断材料としても利用しています。たしかに多数のブランドとお付き合いすることでいろいろなデータが集まります。しかし、それでもデータの偏りには不安があります。そこを検証できるのでとてもありがたいですね。
これからオムニチャネルが一般的に実装されていく
――本資料はECzineとして初めてのもので、市場の動向と最新のテクノロジーを大きなテーマとしました。洞田さんにお訊きしたいのですが、次のテーマには何を期待されますか?
洞田:ずばりオムニチャネルです。今多くの企業で取り組みが始まっていますが、今後はマストになると考えています。より具体的には、モバイルコマースをメインとしたオムニチャネルですね。今年末から来年にかけて、もっと注目が集まっていくと思います。弊社も海外向けの資料ではオムニチャネルコマース・デベロッパーと書いていますからね。
――オムニチャネルはいったんブームが落ち着いて、できないと判断した企業や代理店が多かったと感じています。カメラのキタムラや無印良品では着々と実装されていて下地が整っていると思いますが、洞田さんが感じられている「注目」とはどういうこと指しているのでしょうか。
洞田:なぜブームが落ち着いたかというと、やはり実店舗とECのシステムやPOSが分断されていて、新たにオムニチャネルをやるとしても管理が難しかったからだと思います。今になってようやく、ECにオムニチャネルの機能を内蔵していたり、タブレットPOSとECのAPI連携ができるようになったりと、使いやすいシステムが揃い始めています。現状のトレンドはAIですが、1年後、2年後に実際に成果を上げられるのはオムニチャネルでしょう。
――これまで先進企業がフルスクラッチで開発してきたオムニチャネルを、どんな企業でも実装できそうになってきたわけですね。
洞田:例えば香港にオムニチャネルに対応した優れたソリューションを提供している企業があります。ECと実店舗のシステムが一体になっているのはもちろんですが、お客様がネットで商品をお気に入りに入れておくと、実店舗に来たときその商品がある場所を通るとアプリに通知が届く機能があります。あるいは、お客様がお店に近づいていることを店員は事前にすることができます。過去にどんな商品を買ったかも分かります。
また、試着室にスマートミラーを設置しておくと、お客様が試着しようとするとき、自動的にカートに入れてくれます。さらに、持っている商品と合う商品がミラーに提示されます。欲しいと思ったらその場でアプリを使ってカード決済もできるんです。それだけでなく、ヒートマップに対応しているのでお客様の店舗の回遊状況も分かりますし、どの店員が接客したのかも分かります。お客様による商品レーティングもできます。驚くほど多機能なんですが、これがまた安いんですね。
こうした便利なツールが上陸すれば、オムニチャネルは今まで以上に実際に効果があるものとして認識され、どんどん実装が進んでいくと思います。事実、LINEアカウントでクーポンを配布すると、紙のクーポンよりも使用率が高く、しかも使用したかどうかトレースもできるんです。お客様側も店舗側も便利になりますよ。
ただし、オムニチャネルが一般に導入されていくようになる障壁があるとしたら、実店舗とECの両方をディレクションできる人材がいないことが挙げられます。それも少しずつ人材を育てていくしかありませんね。
――ありがとうございます。そのご意見を参考に、次のEC調査資料の制作を進めていければと思います。今は6月に発売した『EC市場とテクノロジー活用最新動向調査2015-2016』が最新のものですので、こちらでEC市場の動向を掴んで活用していただけると嬉しいですね。