創業35年のコンタクトセンター企業がパートナーに
LINEの発表によると、国内におけるLINEの月間アクティブユーザー数は約6,800万人(LINE 2017年7月~2017年9月媒体資料より)。かつては若者向けの印象が強かったが、現在LINEは世代を問わず国内のインフラサービスとして定着している。
そのLINEが2017年4月より、企業のカスタマーサポート業務を支援するサービス「LINE カスタマーコネクト」を正式公開した。16社の販売・運用代理のパートナー企業を通じてLINEアカウントとメッセージ送受信を行うためのAPIを提供する。
そのパートナー企業の1社に名を連ねるのが、コンタクトセンター事業を展開するベルシステム24である。
同社は創業35年で全国に31の拠点を置き、32,000人以上のオペレーターを抱えている。同社はLINE カスタマーコネクトをどのようなサービスと捉えているのか。テクノロジーマーケティング部の山野秀一氏は以下のように語る。
「LINEの企業向けAPIとして既に『LINE ビジネスコネクト』が提供されていますが、『LINE カスタマーコネクト』はカスタマーサポートに特化しており、価格面でも導入しやすいサービスです」(山野氏)
LINE カスタマーコネクト自体は、オープンプライスとなっており、ベルシステム24では、有人対応のManual Replyを利用するためのCRMシステムを、利用料月額1万5,000円で用意している。また、LINE ビジネスコネクトの場合はメッセージの送信数に応じた課金であるのに対し、LINE カスタマーコネクトではアカウントの月額料金のみで、ユーザーとのメッセージのやり取りに別途料金は発生しないのも特徴だ。
ユーザーの意図や自然言語を解析できるAIで自動対応も実現
ではここで、もう少し具体的にLINE カスタマーコネクトにより実現できることを整理したい。主な機能は4つ。
【LINE カスタマーコネクトの主な機能】
1.Auto Reply(AIで自動回答)
2.Manual Reply(有人によるチャットサポート)
3.LINE to Call(無料電話)
4.Call to LINE(電話番号からLINEにメッセージ)
AIを使えるものにするためにはAIへの教育が鍵であるが、この点、ベルシステム24では、創業以来培ったカスタマーサポート業務の知見を総動員して、AIを教育・チューニングできるといった強みがある。くわえて同社は、AIとヒトをシームレスに連携させたLINE カスタマーコネクト向けのソリューション「BellCloud AI for SNS」を4月にリリースしている。
このBellCloud AI for SNSはIBM Watson日本語版を活用しており、LINE カスタマーコネクト上での問い合わせに対して、AIによる対応のAuto Reply機能と、有人チャット対応を自動的に切り替えられるHybrid Reply機能を搭載している。
このソリューションが、他社のものと一線を画するのは、IBM WatsonのAPI「Natural Language Classifier自然言語識別」と「Conversation」を用いて、エンドユーザーの意図を理解した自動応答ができる点だ。
「従来の一問一答型のAIだと、あらかじめ用意された表現のみでしか回答できませんが、BellCloud AI for SNSでは、エンドユーザーの意図を汲み取れるようになっています。例えば、”今月の料金は?”と質問があった場合、金額を回答するとともに、”料金の内訳も確認されますか?“とAIが聞き返しをすることで、質問者の意図を確認しながら対応を進めることができるわけです」(山野氏)
このように、AIがユーザーの意図を汲み取った上で自動回答することを基本に、AIでは対応が難しい場合は、自動で有人対応に切り替えるシナリオを準備しておくことも可能だ。そのため、従来の一問一答型でユーザーが感じる問い合わせ時のストレスを最小限に抑えることができるといったメリットがある。
AIのマネージメントで解決率を大幅に改善
山野氏は、LINE カスタマーコネクトの利便性を最大化する機能が「Auto Reply」だと語る。自動対応が可能になれば人員コストの削減にもつながる。中でもベルシステムならではといえるのが、AIの運用において、AIのチューニングを専門とする「AIトレーナー」が存在し、AIの学習を効果的にサポートすることができる点である。
「一般的に、一問一答タイプのFAQは2割くらいの自己解決率だといわれていますが、弊社のAIトレーナーが、AIのマネージメントをすることで、その率を大幅に引き上げることが可能です。細かいチューニングをすることで、精度をさらに向上します」(山野氏)
LINE カスタマーコネクトを導入する企業のメリットとは、AIによる利便性と有人を適切に使い分けることで、人員コストの削減とユーザーの自己解決率の向上による満足度向上を同時に実現できる点にある。さらに山野氏は2017年6月に発表された、2025年までにアナログの固定電話網(PSTN)をすべてIP通信網に置き換えるとの総務省の方針を踏まえ、「中長期的に見ても効果が高い」との見解を示す。
「IP通信網化を見据えると、最適なIP対応は喫緊の課題になっていくでしょう。IP電話と同じようにパケット通信を使用するLINEでの音声通話に対応した機能を備えた「LINE カスタマーコネクト」を導入し、先手を取っておくことが重要です。LINE カスタマーコネクト自体、LINEの無料通話機能(ベータ版)をオプション活用できますし、今後IVRによる自動応答システムも活用できる予定です」(山野氏)
「LINE カスタマーコネクト」を導入することで、通話コストを削減でき、さらにサービスの利便性向上にもつながるはずだ。
気軽な問い合わせに応えるための仕組み
では、エンドユーザーにはどのようなメリットが考えられるだろうか? 最も大きなメリットは、LINEを通じて“気軽な問い合わせができること”だろう。
「例えば、朝の通勤時間中に問い合わせをしておいて、昼の休み時間中にその回答を確認。その後さらに浮かんだ疑問について問い合わせをしておくことで、退勤時には再び回答を得られる。コミュニケーションへのハードルが格段に下がり、結果として企業とユーザーのコミュニケーションが活発になります。またプッシュ通知が届くため、ユーザーの確認漏れも防ぐことができると思います」(山野氏)
「LINEでの対応は、電話とメールの中間に位置付けられると思っています。わざわざ電話で話すほどでもなく、メールのような形式的なやり取りが求められるわけでもない。LINEこそ電話とメール双方のサービスを展開する弊社の強みが活かされると考えています」(山野氏)
コンタクトセンターで培った有人対応のスキルとメール対応でのテキストを介したコミュニケーションスキルなど幅広い知見が、LINEでのエンドユーザー対応に必要とされるのだ。一方、LINEでは問い合わせのハードルが低いがゆえに、ユーザーから雑談的な質問も舞い込んできそうだが、その点も心配ないと山野氏は太鼓判を押す。
「雑談の部分を含めてAuto Replyが十分に機能できるようにAIトレーナーがAIをチューニングしていますし、運用上のルールを定めて適宜有人対応に振り分けるため問題ありません。こういった、ややこしい、面倒そうだといった対応に弊社の強みが発揮されますので、ぜひ一度弊社へ気軽に相談してほしいですね」(山野氏)
高い満足度が示す導入企業のメリット
現状のLINE カスタマーコネクトは、導入企業側で成果が出てきた段階、と山野氏は補足する。
「お客様の満足度を高めることを目的とした導入事例で、既に実績が出ています。あるクライアント企業が、LINE によるお客様対応の満足度調査を実施したところ、85%のユーザーが満足しているという報告をいただいています」(山野氏)
メール対応だと、満足度調査の平均が70%から75%が一般的という点からも、LINEを活用したお客様対応は非常に効果的といえる。実際、クライアント企業も高い満足度を感じているという。
「今は弊社と関係の深いクライアント企業様から、LINE カスタマーコネクトへのお問い合わせが増えている状況で、6月にも既存のクライアント企業様に新たに提供しており、運用中です。これまでのお付き合いの中で得られたデータを、AIへの機械学習時に活用できるといったアドバンテージも魅力に感じてもらっています。これから取り組むという企業様においても、データの蓄積により精度が向上する点にご興味を持っていただいています」(山野氏)
ちなみに、LINE カスタマーコネクトは、従来の「LINE公式アカウント」や「LINE ビジネスコネクト」のオプションプランとしても導入が可能で、既に導入済みのLINEサービスと連携させることで、よりサービスを効率的に活用することもできる。
「導入には約3ヵ月の準備期間を目安にしていただいています。その期間内にAIを教育するためのナレッジの準備、チューニング、有人対応のノウハウ、AIと有人対応のハイブリッド化など様々な部分を詰めていきます」(山野氏)
「問い合わせはLINEで」という未来に備える
最後に、パートナー企業の立場からLINE カスタマーコネクトの今後の課題および展望について尋ねると、「問い合わせの手段としてLINEが一般化すること」を挙げる。
現状、企業やサービス提供者への問い合わせの手段について、エンドユーザーの多くが電話かメールを想起する。ベルシステム24のソリューションにおいても、電話やメールによる問い合わせが圧倒的に多いが今後、「LINEでも問い合わせができる」といった環境が広がることで、LINE カスタマーコネクトの存在感が増していくとみている。
「LINE カスタマーコネクトを導入するだけでなく、LINEで問い合わせ対応できることを伝えるバナーやLPの設置を徹底し、LINEとパートナー企業、導入企業様のそれぞれが連携して“LINE=問い合わせにも便利なツール”という意識づくりを醸成していくことが必要でしょう」(山野氏)
2017年6月には、LINEがマイナンバー制度の普及支援を行うといった発表を行い、インフラの重要な一つという位置付けが強まっている。LINE カスタマーコネクトの利便性をエンドユーザーが理解することで、LINE Payのように利用が大きく広がると期待される。
「IP電話は“途中で途切れるかも?”といった通話品質への不安がよぎりがちですが、LINEの通話でそうしたことも払拭できてくると、そう遠くない未来、本格的にLINEによる顧客対応が必須となる時代が到来するのではないでしょうか」(山野氏)