デジタルマーケのカギとなる「市場」「顧客」「自社」の理解
“失敗しないデジタル広告”という講演テーマに入る前に、現代のマーケティングについて、「企業の単なる一機能ではなく、企業全体の経営課題に取り組むものに進化しつつあると考えている」と語る龍氏。
経営視点を意識しながらデジタルマーケティングを実施する上で、「市場」「顧客」「自社」の3要素を理解することが重要だと続ける。
スマホシフトした「目的のものしか見ない」生活者と向き合おう
1つ目の「市場」について、現代は“人類史上初の情報化社会”に突入していると龍氏は指摘する。
「人が処理できる情報量は変わっていないのに、ネットが普及したことで世の中に流通している情報量は増え続けている。情報があふれた結果、ユーザーが情報を選ぶ時代になってきていると言えます。それは広告においても同じです。
昔は人の集まる場所へ広告を出すことに意義がありましたが、今はそれだけでは届かない。情報化社会の生活者は「目的のものしか見ない」状況になっている可能性があるので、相手にメリットを示し興味を喚起しないと広告主のメッセージを見てもらうことが難しくなっていると考えます」(龍氏)
顧客を知るには「モテないことを自覚する」ことから
「デジタルマーケティングで大切な要素の2つ目である、『顧客を知る』というのは、平たく言えば『私たちのお客様は誰か?』を考えるということです。絶対にNGなのが、“なんとなく「みんな」に売りたい”という姿勢です。
どんな人に買って欲しいか、ランディングページに来て欲しいのか、顧客をイメージすることが大事です。ターゲット層(顧客像)が決まれば、その人たちをいかにサイトに連れてくるかを考え、確実に購入してもらう流れをつくることができます」(龍氏)
セッションでは、「顧客」を知るプロセスを恋愛に例えて説明。好きになってもらうために、相手のことをよく知り、自分の良いところを見せようとする。広告というのは、好きな人へアプローチするための“ラブレター”のようなものだと表現する。
「自分の会社をモテない人間に見立てて考えてみてください。モテないことを自覚すれば、ラブレターを渡す相手のことを真剣に観察し、本当に相手が喜ぶことを見極めて内容を組み立てたり、渡し方を吟味してラブレターを書くと思います。
広告で言えば、ライバル社と自社がどう違うのか、『生産方法』『価格』『技術』などの面から強みを探り、顧客に伝えますよね。相手がわかれば届け方を変えることができ、コミュニケーションが効率的・効果的になります」
商品を買うと顧客に何が起こるのか?自社の強みを整理しよう
3つ目の要素、「自社」を知るということ。これは顧客に提供する価値を考えることと同義だという。
「自分を知って強みを整理し、相手を知って興味関心や好みを把握することが基本です。そこから、自分が相手にどんな価値、お客様にとってのメリットを提供できるかを考える。
商品を買うとお客様に「どんなよいことが起こるのか」を知ることが重要で、お客様が購入する意味、買った後にどのような行動をするかを知ることが、自社を知ることにつながります。
このように顧客視点からコミュニケーションを組み立てることで、デジタル広告で課題解決ができるようになってきます」(龍氏)
「市場」「顧客」「自社」この3つを知ることが、デジタル広告を失敗しないための要素となるが、これらを踏まえ、「どの面に」「誰に」「どのクリエイティブで」どう掛け合わせて伝えていくかが広告効果を高めるためのポイントになる。逆を言えば、ここが連動していないと効果は得られない。
地方都市の企業や店舗によるYahoo!プロモーション広告事例
セッション後半では、Yahoo!プロモーション広告の活用事例が紹介された。Yahoo!プロモーション広告とは、Yahoo! JAPANをはじめとした主要提携サイトに広告を掲載し、検索ユーザーやコンテンツを閲覧している見込み客に対して効果的にアプローチできる広告だ。
具体的には、検索キーワードに関連した広告を掲載する「検索連動型広告(スポンサードサーチ)」、コンテンツページに広告を掲載し、サイト閲覧中のネットユーザーに対して幅広くアプローチする「Yahoo!ディスプレイ アドネットワーク(YDN)」などがある。
事例1:天然昆布専門店・次郎長屋
まず紹介されたのは、1946年創業の天然昆布の専門店「次郎長屋」の事例。同社の強みは、店主自ら天然昆布の味を吟味して仕入れているので、生産者から聞き出したストーリーをありありと伝えられることだ。
「次郎長屋」は1997年に自社Webサイトを開設し、全国に向けて販売しているが、競合他社が増えたことで、自然検索のランキング上位をキープすることが難しくなり、スポンサードサーチ導入を決めた。
スポンサードサーチを入れると、コンバージョン率が2~3倍変わり、売上は導入前と比べ140%増に。効果に満足して、14年間にわたって継続利用している。広告文には強みである「こんぶ販売専門店、実績30年」という強みが伝わる内容を盛り込む。毎日検索クエリを調べ、生活者がどんな検索ワードを打ち込んでいるのかを確認し、広告文や入札キーワードに活かしている。
「『次郎長屋』様は顕在層を刈り取るだけでなく、新しいユーザーを囲いこむためにも検索連動型広告を活用されている。検索クエリの話がありましたが、広告主側の想定とユーザーが実際に流入したキーワードには違いが生じやすいので、検索クエリを日々確認して、どのキーワードがユーザー獲得に貢献しているのかモニタリングする必要があります」(龍氏)
事例2:沖縄ツーリスト
もう一つ紹介された沖縄ツーリストの例では、スポンサードサーチと、Yahoo!ディスプレイアドネットワーク(YDN)を併用して集客に役立て、売上約30倍を達成したという。
これにはいくつかの運用工夫があった。旅行商材は出発地によって金額やプランが変わるため地域ターゲティングを設定し、地域によって広告文を変えたり、旅行前から沖縄への興味を誘うべく沖縄弁を広告文に使ったり。
YDNのサイトリターゲティングを活用して、サイト訪問後2~3日で行き先を検討している人には、行き先として沖縄をすすめる広告、サイト訪問1週間後で色々なプランを検討している人には、期間限定プランの紹介など、広告を出し分けることで個々の興味を高め、他の旅行プランを比較している人を逃さないような仕掛けも行った。
また、YDNを導入することでブランド認知を上げ、スポンサードサーチの指名キーワードの効果を高めることで、広告費を効率よく使って配信している。
「ポイントは2つ。YDNのバナー掲載により、指名での検索を増やし、もう1つの商材であるスポンサードサーチにヒットさせること。もう1つは、サイトリターゲティングです。一度ランディングページに訪れたユーザーに再度広告配信できる機能を使い、広告文クリエイティブを変えることで、YDNの広告効果を格段に上げていらっしゃいます」(龍氏)
デジタル広告×チラシで来店効果を高める
最後に、「Yahoo!プレミアム広告」と言われる同社の純広告についても触れた。2016年の12月には新たなメニューとして、これまで都道府県単位での商品となっていた「ブランドパネル」を市区分単位で切った、市区郡ブランドパネルをリリース。不動産や商業施設・店舗、自動車ディーラーなど、商圏が限定的な広告主が折り込みチラシとの同時出稿で活用しているという。
「市区郡ブランドパネルは、クライアントさまへのヒアリングから出たニーズを受け生まれた商品です。Yahoo! JAPANと名前にジャパンが付いているように、私たちはこれからも日本の事業主の課題を、当社のソリューションを使って解決していきたい」と、龍氏は力強く今後の展望について語り、セッションを終えた。