2025年の社会に求められる価値とは?
有園:電通テックは歴史としては設立20年強になりますが、プロモーション領域における成長戦略を加速させるため、昨年1月に新生電通テックが発足しました。今回の取材では、同社がこれから向かうところや具体的な構想を聞きたいと思います。まず、デジタル・マーケティングセンター長の森田さんからうかがえますか?
森田:ご存知の通り、これまで当社はプロモーション領域の施策を実行する専門社として数多くの案件をお手伝いしてきました。それをベースにより戦略的にソリューションを提案できる会社になるべく、イベント領域を推進する電通ライブと、デジタルを起点にプロモーション領域全般の課題解決能力を持つ次世代型のプロモーション企業として新たに電通テックを設立しました。東京五輪が開催される2020年まではもとより、その先の2025年の社会にどういう会社であるべきかをひとつの目安に考えています。
有園:より戦略的というのは、噛み砕くとどういうことでしょう?
森田:具体的には、デジタル・マーケティングの専門セクションを立ち上げ、デジタル化する生活者に対応し、元々強みのあるオフラインにオンラインを統合して、新たな価値を提供できるようになりました。
プロモーションをきっかけにユーザーを継続的に把握
有園:なるほど。事業再編に合わせて、オウンドメディアもローンチしていますよね?
森田:「BAE」ですね。Before Anyone Elseの略で、我々が目指す方向性を様々なステークホルダーの方と共有する意図で展開しています。
有園:デジタル・プロモーションを中心に、発想の刺激になるような記事がアップされています。戦略広報の一貫とは思いますが、読み物としてどれも興味深いですね。そこで、電通テックのデジタル部署では今どんなことを志向しているか、うかがいたいと思います。
電通テックといえば、数多の大型キャンペーンから店頭施策まで、購買にまつわるあらゆる企画を手がけてこられましたよね。ただ、どうしてもプロモーション施策は一回一回で途切れている印象があって、デジタルマーケティングが得意とする「継続的に顧客とつながる」とか「蓄積したデータに基づいてパーソナライズする」といった部分とはかなりかけ離れた感じがするんですが。
土肥:おっしゃる通りですね。まさに、そこをブリッジしていこうとしているんです。施策を実行して終わりではなく、最初の接触をきっかけにユーザーに変化を起こして、その後の態度変容や興味関心の形成まで把握していく。関与の幅を広げるイメージです。
それに基づいて、会社としてのステートメントも新たに「Activate More. Engage More」と打ち出しています。生活者をもっと動かし、生活者ともっとつながる会社になっていこうということですね。
IoTによってユーザーデータが膨大に
有園:確かに、一回ごとに途切れていたものを継続的に捉え、データの蓄積と利活用に乗り出すと、生活者の情報を膨大な規模で扱う御社は、デジタル・マーケティング後発といえど一気に躍り出る可能性がある。福田さんは、データ・マーケティング部を統括されていますが、そのあたりはどうお考えですか?
福田:デジタル・マーケティングの推進は、データ・マーケティングとは切り離せません。まさにワンショット型だった旧来型業務を、よりロングターム型のビジネスに転向していくべく、データと向き合っています。
マーケティング環境の変化の中でも、情報量の変化はすさまじいものがあります。その要因には様々ありますが、我々が議論する中では「IoTの発展で情報の流れがモノを介するようになったこと」が大きいと思っているんですね。
従来は人と人とでなされていたコミュニケーションが、人からモノへ情報が伝わり、モノからモノへ機会処理されて、また人に戻ってくる。そこで膨大なデータが発生し、その利活用によってユーザーの行動から心理までを精緻に追えるようになっています。
有園:IoTによるユーザーデータの増大が、先ほどの“生活者をもっと動かし、生活者ともっとつながる”ためのドライバーになると?
福田:そうですね。我々としては事業の元となる材料が増えた感覚はあります。有園さんのご経験が豊富な検索領域に始まり、今まさに加熱している音声認識、さらに自動運転車のような世界になってくると、それら人間のインプットをすべて蓄積し、適切に分析・活用できれば、かつてない価値を提供できるはずです。
パーソナルデータの利活用を検討
有園:そうですね。プロモーションを手がける御社がIoTを駆使すれば、おそらく国内最大級のパーソナルデータ・プラットフォームを築くことができると思います。マイナンバーとまではいいませんが、少なくとも現在いろいろなサービスの認証に使われているGoogleやFacebookアカウントのように利用されるのではないでしょうか?
土肥:鋭いですね。そこがまさに、我々にとって大きなチャンスだと思っている部分です。
福田:今GoogleやFacebookのアカウントが個人認証として便利に活用されていますが、この両社がデータを突き合わせて同一人物を特定し、IDを共通化することは今後もないでしょう。また、匿名や複数アカウントも持ててしまうので、企業の立場に立つと精緻なターゲティングにも限界があります。
有園:そこで、広告主企業でもなく、自社サービスをベースにしたプラットフォーマーでもない中間プレーヤーが個人IDを集め始めると強いはず。各社がマーケティングに活かせる、有力なデータベースが築けるだろうと感じます。ずばり、既存のプロモーション事業とIoTを駆使して、個人IDの認証ビジネスを進めようとしているんですよね?
土肥:現状ではまだ妄想段階です(笑)。現在、当社で委託を受けているキャンペーンを通じて年間2,000万口以上の応募データを預かっているのですが、実現するには多くのIDが必要だと思っています。一朝一夕にはいきませんが、プロジェクトとしては今年のうちに発表できればと思っています。
個人に即した情報やサービスが提供される社会
有園:なるほど。冒頭で森田さんから、2025年をひとつの目処にという言葉がありましたが、野村総研の資料で「2023年にはIoT市場が4兆円を突破する」という予測が出ています。さらに現在の広告市場が6兆円強であることを考えると周辺事業も含めると相当なものになると思います。この、覇者になりたいと?
福田:なりたい、ですね(笑)。
有園:もっと突っ込んで聞きたいところですが(笑)。でも電通テックのような会社が、企業がマーケティングに活用しうる個人情報を管理してIDの認証を担うなら、それは私としては非常に理にかなった動きのように感じます。
福田:個人情報の活用というと、日本ではネガティブに捉えられがちな傾向が強いですが、私はそんなことはないと思っているんですね。もちろん安全で適切な管理は大前提として、個人情報が一元管理されていると、生活者にも様々なメリットが生まれます。
よく、医療や健康管理が例に挙げられます。地域や病院を超えて個人の医療情報が管理されていれば、どこでも適切な診療が受けられますし、健康に関するパーソナライズした案内も受けられる。
土肥:個人情報の話は誤解されやすいですが、生活者の側も、得られるメリットが明確なら喜んで情報を提供するようになってきています。最近の例だとZOZOTOWNが始めた「ZOZOSUIT」がそうですよね。
段々と抵抗が少なくなったその先に、統合IDみたいなものがあるのかなと。いろんなサービスで個別IDのログインを求められるのは面倒だし、実際にいくつも鍵をもっているようなものだから、安全性も損なわれます。
生活者に向き合って生活者を知り、行動を促す
有園:今のお話を聞いていて思い出しましたが、年末に山梨県で、火事の現場から人命救助した高校生に感謝状が出されたというニュースがありました。これ、この男子高校生が「あの部屋のおじいさんは足が悪い」と知っていたから救助に向かえたという報道があって、こうした個人の情報を把握していることは確実に適切なケアにつながるんだな、と思ったんです。
もちろん情報の取り扱いには万全を期するべきですが、そこを担保してビジネスができれば、よりよい未来につなげることができると思います。実際、政府も「ソサエティー5.0」として、個人情報をデジタル上で管理して、パーソナライズした高度なサービスを提供することを掲げています。
土肥:そうですね。マーケティングでも“よりよい未来”の観点に立って、生活者と企業がいい関係を築けるようなお手伝いができればと考えています。
これは我々の反省点かもしれませんが、以前のプロモーション実行に留まっていたときは、企業の側を向いてビジネスをしてきたと思います。今後は、個人情報は各個人のものであることをよく踏まえ、生活者に向き合って、目安としている2025年の社会に貢献するビジネスを志向していきたいと思います。
有園:その視点の転換は大事ですね。そうなれば生活者をもっと活発にし、生活者とつながるというステートメントがより具体化する感じがします。
福田:そうしていきたいですね。何らかの情報を受けて人が行動したら、それはもうプロモーションだと思うので、蓄積してきた知見を活かして我々だからこそのビジネスを確立していきます。
電通テックが運営するオウンドメディア『BAE』。デジタルプロモーションの最新情報をお届け。