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「フリスク」2分の動画を77%が完全視聴した理由 ニューロリサーチでわかる新測定指標“共感度”とは

 ニューロリサーチを本格化させているマクロミルに聞く、ニューロマーケティングの現状と最新事例。後編では、「フリスク」新商品のWeb動画の制作過程にニューロリサーチを用いた事例と、そこでも活用したマクロミル×センタン社独自の測定指標「共感度」について掘り下げる。すでに実用フェーズに入っているニューロマーケティング、自社でどう取り入れられるか考えてみたい。

活用しやすい価格でニューロリサーチの一般化に注力

MarkeZine編集部(以下、MZ):前編では、ニューロリサーチに注力する背景や研究の現状、それから実際に企業でどう活用されているのかもご紹介いただきました。すでに実用フェーズにあるというのが、まずインパクトがありましたね。欧米では進んでいても、日本ではまだ研究段階という認識でした。

原:一昔前だと、脳波を測るとなるとすごく大掛かりな装置だったりしましたね。大掛かりな装置で測定するとなると、普段の生活とは全く異なる不自然な環境での調査となってしまいます。今は先ほど(前編)お見せしたように、脳波計もコンパクトになりましたし、刺激となる素材(たとえばCMなど)を見てもらうにしても、できるだけ自然な状態で調査に臨んでもらえるようにしています。

マクロミル エグゼクティブマネジャー R&D本部 原 申氏
マクロミル エグゼクティブマネジャー R&D本部 原 申氏

MZ:たしかに、調査空間自体が異様な雰囲気だと、それだけでストレス反応が出てしまいますよね。ちなみに、活用が広がるには調査の価格も非常に重要だと思うのですが、どのくらいなんでしょうか?

原:ご依頼いただくテーマにもよるのですが、当社ではだいたい15〜20サンプルを収集して、分析を含めて300万円程度です。これは、一般モニターを対象に一定規模の会場を準備した場合なので、まずはテスト的に社員の方を対象に実施するなどの仕様に変更すれば、ここからさらに価格を抑えることも可能です。

 欧米を中心にグローバルでニューロリサーチを実施している会社の場合は、1回の実査で1,000万円単位のコストがかかるそうなので、利用できる企業は名だたる大企業ばかりです。これだとおっしゃるとおり、なかなかニューロリサーチが一般的に利用されません。ニューロリサーチに対するニーズや期待自体はどんどん高まっているので、極力手軽にご利用いただけるように価格面は当社もできるだけ積極的に抑制努力をしています。

動画の印象やリテンションを感覚的にしか語れない

MZ:実際に昨年秋に発売された「フリスク」シリーズの新商品「フリスク クリーンブレス」のニューロリサーチ活用事例をお聞きしたいと思います。まず、商品発売の背景をうかがえますか?

原:オランダを本拠地とするペルフェッティ・ヴァン・メレ社は世界150カ国で製品を展開しており、中でも「フリスク」の日本での人気はとても高く、日本市場は注力領域となっているようです。

 注力領域である日本でのマーケティングを担うペルフェッティ・ヴァン・メレ・ジャパン・サービス様では、昨今人気の高い大きいタブレットシリーズに、口臭ケアがメインの「フリスク クリーンブレス」を開発し、プロモーション施策を企画していました。

 認知獲得を目的としたテレビCMと並行して、オフィスワーカーなどの特定ターゲットにより深い理解を促すために、Web動画の制作も企画していました。

MZ:そこに、なぜニューロリサーチを使うことになったのですか?

原:フリスクブランドのご担当者様によると、過去にもWeb動画を採用していたものの、どこが印象に残ったのか、どうしたら最後まで見てもらえるのかといったことの知見を科学的に得ることが難しく、毎回感覚で制作するしかないことに課題を感じられていたそうです。

複数人が同じ波形を示すとバズにつながる

MZ:たしかにクリエイティブの部分は、科学的な情報がないと判断しづらいですよね。メーカー、広告会社、制作会社と関わる人も多いですし、無条件にクリエイターの感覚や経験に頼ることになっていいのか、と。

原:そうですね。特に長尺の動画は、何かしら消費者の心に引っかかる(惹きつけられる)要素が必要だと、皆さん感覚的にはわかっていると思います。ただ、それが何なのか言葉にできない。

 この要素を同社では「ザラツキ」と表現しているそうですが、このザラツキをどうつくるかが、感覚で決まりがちでした。そこを科学的なデータに基づいて制作したいというのが、今回のペルフェッティ社の要望でした。

MZ:ちなみに、どういう経緯で導入に至ったのですか?

原:元々お付き合いがあって、最初は我々からニューロリサーチを始めたことを案内しました。すると、ちょうどタイミングよく上記のような課題があるから具体的に提案してほしいという依頼をいただき、すぐにご提案を差し上げたところ実施を決めていただきました。

MZ:そうなんですね。実際に、ニューロリサーチをどう使ったのですか?

原:そこまでに制作していた動画素材を、20〜30代の社会人男女16人のモニターに見てもらい、センタン社の特許指標である「共感度」(※)を測定しました。動画を制作する上で、意図した部分での消費者の反応を見ていきました。反応の良い部分は上手く活かし、一方で反応が薄かったところは、改善ポイントとして解釈していきました。

共感力の評価測定はマクロミルの子会社センタン社の独自開発指標です(特許番号:5799351)。

2分間のWeb動画のリテンションレート77%

MZ:なるほど。共感度の測定結果を踏まえて、編集をどう変えたのでしょうか?

原:共感度が下がっている箇所は、テロップを入れて内容を理解しやすくしたり尺を短くコンパクトにしたりしたそうです。また、商品訴求上アピールしたい部分などはアニメーションで動きをつけたり音楽を挿入したりすることで盛り上げるような変更を加えたそうです。

 編集前のバージョンをリリースしていないので正確な比較は難しいですが、結果として同社の想定以上の視聴を獲得し、2分の動画を最後まで見てもらえたリテンションレートは77%とかなり高い数値が得られました。これまでの短尺の15秒CMと同じ水準の数値だったそうです。

MZ:2分の動画で77%というのは、手応えがある数値ですね。ほかに、同社からニューロリサーチに対する感想などはありましたか?

原:まず当初の狙い通り、科学的な共通言語をもってクリエイターも含めてディスカッションしながら動画を制作できたことが大きな収穫だった、とうかがいました。想定外だったこととしては、心をつかむことばかり考えて、「心がどこで離れるのか?」というポイントを見過ごしていたことがわかった、と。

 認知を狙う15秒CMは、細かく分析しても限りがありますし、一瞬で心をつかむアイデアだけで押せるのかもしれません。でも2分もの動画だと、普通は多くが途中で離脱してしまうので、そこをつなぎ止めるのに無意識の反応を参考にするのは有効だと思います。特に今回は、我々独自の「共感度」という指標を使ったことで、より効果的な改善ができたのではと考えています。

「共感度」が高いとバズが起こりやすい

MZ:「共感度」とは、具体的にどういう指標なのですか?

原:簡単にいうと、複数人が同じ脳波の波形を示す箇所を「共感度が高い」と捉えて、クリエイティブ評価などに利用します。複数人の脳波の波形がそろう箇所は、ネット上のバズが起こりやすいという先行研究があるのです。フリスクの事例でも、興味を引こうと意図したところで実際に共感度が高くなっているのか等を見ていきました。

MZ:バズが予測できるんですか? その先行研究とはどんなものなのでしょうか?

原:論文も複数出ているのですが、たとえばアメリカのあるテレビドラマを事前にモニターに視聴してもらい、脳波の同期度を測定します。その同期度合いからツイート数を事前に予測したところ、実際の放映後のTwitter投稿数と有意に相関がありました。この同期性を我々は「共感度」と定義しています。

MZ:それは興味深いですね。テレビ番組なら、今おっしゃった研究をそのままなぞって、バズるコンテンツをつくれるかもしれない。

原:そうですね、今後その可能性はあると思います。実証データを重ねれば、共感度が高まる工夫も具体的に見えてくると思うので、そのあたりのノウハウも我々独自というだけでなく、クライアントと共同で蓄積していきたいと思っています。

アンケートとの併用でわかる意識と心理のギャップ

MZ:ちなみに、既存のアンケートやインタビュー回答と併用する、といった使い方もあるんですか?

原:ありますね。併用すると、消費者が考えて回答したアンケート結果と生理指標から読み取れる深層心理のギャップがわかったりするので、その結果を元にマーケティングアクションをチューニングすることができます。おもしろかった事例は、保険商品のコンセプト調査で、男性はアンケートだと「皆が選んでいる商品」には特に興味がないんですね。でも脳波だと、実はそこに強く興味を引かれていることがわかる(笑)。

MZ:「俺は俺だ」と思っていても、実際は違うんですね(笑)。そうすると、“皆”推しであからさまなアピールは効かなくて、密かに心をくすぐる訴求が有効なわけですね。

原:そうですね、潜在的な訴求ポイントを明確にする用途で使っていけると思います。

MZ:マーケティングやクリエイティブは、勘と経験がものをいうような状況が長かったと思いますが、デジタルの発展とともにこうした生理反応や神経活動の活用によって科学的になり、再現性も高くなりますね。

原:そうあるべきですし、まさにそこに当社も貢献できればと思っています。商品開発段階や、今お話ししたようなクリエイティブの評価、またコンセプトの反応を確かめるといった事例もどんどん出てきているので、ご期待いただきたいですね。

MZ:最後に、今後の目標などあればお教えください!

原:数値的な面でお話しすると、導入社数、売上ともに、今年は昨年のだいたい倍の規模を見込んでいます。この先数年は1.5倍から2倍の伸長を目指していきたいと思っています。

 その他にもより深く、より手軽に消費者インサイトを洞察できるような技術の研究開発や、様々な生体情報を活用した新ソリューションの開発なども積極的に進めていきたいと思っておりますのでご期待ください。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/03/22 11:00 https://markezine.jp/article/detail/27813