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ベンダー・広告主・メディアらが業界全体で取り組むアドフラウド最前線/日本で今最も問題の不正は?

 2017年1月末、P&Gの最高ブランド責任者であるMarc Pritchard氏が、デジタル広告取引の透明性に関して問題提起を行ったスピーチは業界内に波紋を広げた(Interactive Advertising BureauのAnnual Leadership Meetingにて)。アドフラウドに対して世界的に対策の機運が高まる中、2017年9月、モバイルアプリ計測フォームを提供する独Adjustは、パートナー企業と共に不正防止連合を設立した。本稿では、Adjustと、国内で第一期としていち早く不正防止連合(Coalition Against Ad Fraud:CAAF)に加盟したアイモバイルの取り組みから、デジタル広告業界の問題解決姿勢を明らかにする。

ネット広告の不正問題を何とかしたかった

(左)Adjustの佐々さん(右)アイモバイル 甲斐さん
(左)Adjust Country Manager Japan 佐々直紀氏
(右)アイモバイル 執行役員 アドプラットフォーム事業本部 アドネットワーク事業部 部長 甲斐康浩氏

――初めに、それぞれの自己紹介と会社の事業概要をお聞かせください。

甲斐:甲斐と申します。2010年に入社し、アイモバイルが運営するスマートフォンとPCのアドネットワーク「i-mobile Ad Network」の広告主様とメディア様向けの営業に従事し、現在は責任者をしております。

 弊社アドネットワークは、大手優良メディア様の広告在庫を多く保有しており、WebサイトやAPP向けにバナー・ネイティブ広告で国内最大規模の配信が可能となっております。

 フィーチャーフォン時代からアドネットワークを運営していましたが、サービス開始当初から配信先メディアごとに広告効果を全て開示しているため透明性の高いアドネットワークとして、大手代理店・広告主様にも安心してお取引いただけるのが強みです。

佐々:Adjust(アジャスト)の佐々と申します。2000年からデジタルマーケティング業界におりまして、2016年からアプリ計測の専門へとシフトし、2016年11月にAdjustへ入社しました。現在は、総勢15名でさらに拡大中の日本チームのカントリーマネージャーとして活動しています。

 Adjustは、2012年にドイツのベルリンで設立した、モバイルアプリ計測プラットフォームを提供する企業です。アトリビューションと呼ばれる、ユーザーがアプリをインストールする流入経路分析と、アプリ内の行動ログデータをリアルタイムで送信できる、プラットフォームとSDK、「Adjust」を提供しています。

 「Adjust」で計測できるデータは、広告ID、流入元、型番、OS、言語、位置情報など110種類以上に及びます。現在全世界で23,000以上のアプリに導入されており、ゲームアプリをはじめ、ECや旅行、金融など、あらゆるジャンルで活用が拡がっています。

――「Adjust」には、不正防止機能が搭載されています。機能については後程詳しくお伺いしていきますが、まずは不正防止に取り組み始めたきっかけをお聞かせください。

佐々:「Adjust」に不正防止機能を搭載し、日本でリリースしたのは2016年のことです。不正についてお客様からの問い合わせが多くなり、無視できない事象だと認識したことも関係していますが、もともとマーケターのために正確なデータを提供するミッションがあり、また専門チームのメンバーが早くから不正に対して問題意識をもっていたことが大きかったですね。特に、不正防止の専門チームのメンバーの一人は、アドネットワーク領域の出身で、不正の問題が放置されたままになっている状況を何とかしたいと考えていたようです。

実は世界の全トラフィックのうち10~20%が不正の可能性アリ

――では「Adjust」の不正防止機能について、詳しく教えてください。

佐々:はい。不正と一口に言っても、フェイクインストールやクリックスパム(※)、クリックインジェクション、SDKスプーフィングなど様々なものがありますが、「Adjust」はその全てに対応しています。そして「Adjust」の不正防止の特徴は、機能をオンにすればリアルタイムに不正を除外できる点にあります。

 一般的に市場にある不正対策は、不正が起きてから報告する「フラウドレポーティング」がほとんどです。この場合、不正を検知した後に、ネットワークへ不正を報告し、それからネットワークが媒体の調査を行い不正を断定するという手続きを取らなければなりません。その点、「Adjust」は検知した瞬間に不正を除外する「フラウドリジェクション」の方式を取っているので、このような手続きが一切必要ないのです。

 具体的には、インストールのタイミングでIPアドレスが不審なもの、広告のクリックが多すぎるものなど、不正特有のパターンを検知して不正を判断しています。不正の種類によって差異はありますが、世界の全トラフィックのうち、平均して10~20%に不正と判断できるものが含まれていると言われています。

――誤って不正を検知してしまうことはないのでしょうか?

佐々:誤検知には、十分に注意して対処しています。不正検知の基準を緩めることは、アドネットワークにも広告主にも、そして業界としても好ましくないことなので、基準を緩めることは考えていません。そのため、かなり確実に不正と判断されるものを除外するようにしています。

 また弊社は、不正を検知するだけでなく、不正として検知した理由を明示することを大切にしています。なぜ不正として除外されたのかの理由と共に、ログとしてアドネットワークや広告主に共有することが可能です。さらに詳細な調査が必要な場合は、Adjustの専門チームがアドネットワークと一緒に詳細を追及します。ここまで徹底しているのは、“透明性”を重要視しているからです。

(※)クリックスパム:主にオーガニックインストールを奪取する不正。オーガニックインストールとは、広告経由ではなく、アプリをインストールしたユーザーを指す。

アドフラウドへの注目度が急上昇したのはなぜ?

――アドフラウドに対する意識が、直近で一気に高まっているのはなぜでしょうか?

甲斐:デジタル広告はテクノロジーの進化に合わせて成長してきましたが、市場の成熟によって、改めて広告の在り方について考えることが増えているからだと思います。たとえば、広告主様のKPIが、CPCからCPAそして広告費用対効果であるROASへ変化していたり、広告フォーマットもディスプレイ広告からリッチ広告・動画広告へと変わっている状況の中で、正しい効果が測れない、不当請求につながるアドフラウドへの対策が本格的に求められてきているのではないでしょうか。

佐々:確かに、2017年の春から一気に広告主側からの熱度が高まった印象がありますね。広告主がアドフラウド対策に取り組むことのメリットとして、すぐに実感できるのが“無駄な広告費の削減”と“正確なデータの取得”です。

 「Adjust」の不正防止機能をオンにすると、まず今までのデータに不正インストールというノイズが混ざっていたことが即座にわかります。広告費に関しては、大手企業では毎月の広告支出が億単位になるところもありますが、仮に10%の不正を除外できたとすると、数千万のコスト削減につながるのです。

 これは、日本の複数の広告主で「Adjust」の不正防止機能により実現できていることです。こうした実例が業界内に伝わり、意識が高まってきているといえます。

 各アドネットワークに亘るインストール成果データが正確になることで、配信効率が高まるという効果もあります。不正を除外するにもコストがかかりますが、そのコスト以上の効果を維持できる環境を作ることが大事ですし、それが弊社の役割であると考えています。

――アイモバイルは、不正防止に関してどのような対策を行ってきましたか?

甲斐:フィーチャーフォン版アドネットワーク時代から、自社独自基準でアドフラウド対策を行っておりましたが、現在はアドフラウド対策強化に向けて、社内における技術、営業、審査担当を含め20名規模まで担当人員を増やしております。

 社内だけでなく、外部ソリューションの「Spider AF」というAIを活用した、アドフラウド検出ツールなどの導入もしており、対策の強化にも努めております。

 また、広告主のお客様に向けて「マルチコンバージョン機能参考記事)」を提供しています。こちらは、広告主の効果最大化に向けて、CV後のユーザーアクション(課金やチュートリアル突破、会員登録など)のデータを管理画面に返すことが可能な機能です。こちらを上手く不正対策にも活用するケースも増えております。

 たとえば、特定のメディアで1,000件のCVに対して、チュートリアル突破率が0%のメディアがあったとします。すぐに不正と断言できない場合もありますが、その他の案件におけるマルチコンバージョンのデータを含めてメディア側の不正判断の材料の一つとして活用しております。

不正防止を実現するために行うべき3つのこと

――アイモバイルは、Adjustが設立した不正防止連合(以下、CAAF)に参加されています。日本からはアイモバイルが最も早く加盟しました。初めに、CAAF設立の背景からお聞かせください。

CAAF参加企業一覧
CAAF参加企業一覧

佐々:弊社が不正防止に向けて取り組んでいることは主に3つです。まず、継続的な研究開発への投資を続けること。次に、アドネットワーク各社と協力して取り組むこと。最後に、広告配信と取引の透明性を担保すること。この3つの実現に向けて、CAAFを立ち上げました。

 現在CAAFに加盟しているのは、全部で15社です。日本ではアイモバイルさんをはじめ、他2社が参加しています。CAAF参加にあたっては、IAB(Interactive Advertising Bureau)のガイドラインへの準拠と、不正として除外されたもののログデータを受信するための環境を用意してもらうことなどが必要になります。

 「Adjust」で新しい機能が導入されたら都度対応してもらうなど、加盟各社と協力して不正問題に取り組んでいくという趣旨に賛同していただけることが重要です。参加企業が多ければ多いほど、不正対策の規模が拡大しますし、課題解決へのハードルも下がりますが、今はどちらかというと、趣旨にどれほど賛同してくださるかを優先している状況です。

――アイモバイルから見て、CAAFへの参加条件はいかがでしたか?

甲斐:そうですね、IABだけでなく「Adjustガイドラインに沿った複数の連携や技術的な環境構築」「CAAFワークショップ参加」「プレスリリース時のサポート」などなどの条件があったので、正直なところ、当初は時間がかかるのでは……という懸念もありました。ただCAAF加盟企業との情報交換ができるので、自社アドフラウド対策強化につながると思い率先して参加させていただきました。

佐々:アイモバイルさんは、国内の企業に広く使われているネットワークですし、以前から不正防止に取り組まれていることを認識していました。我々は、関連企業にただまんべんなく声をかけるのではなく、ターゲットを絞って声をかけています。

日本で今最も問題視している不正は?

――アドフラウドに関する今後の展望を、それぞれお聞かせください。

甲斐:Adjust様とは、Adjustの不正ユーザーのフィードバックを基に、外部のアドフラウド対策ソリューションと不正対策を行えるように検討しております。今後もアドネットワークとして正しい広告効果を評価いただくためには、アドフラウドの対策、不正利用の防止が不可欠です。

 不正対策の精度を上げる、早期発見をすることはもちろんですが、直近にリリースしたマルチコンバージョンのように、機能面でも広告主様・媒体運営者様にとって公平に安心してご利用いただくための環境構築に取り組んでまいります

 市場的には、アドネットワークの品質向上(誤クリックを誘発するような広告掲載の規則も含め)広告の健全化に向けて他社さんとも連携していきたいと考えております。

佐々:不正を働く側もどんどん賢くなっています。これからも新しいパターンの不正が出てくるでしょう。それに対して、情報交換を密に行いながら、ガイドラインの内容拡充と「Adjust」の不正防止の開発に注力していきたいと思います。

 2017年12月にリリースした「Adjust」の新しいバージョンでは、クリックインジェクションやなりすまし対策をカバーしています。また現在、日本で起きている現象の中で、もう一つ問題視しているのが、インプレッションとクリックの扱いです。

 たとえば、バナー広告や動画広告において、広告が表示されただけでクリックされたことになっていて、コンバージョンの価値を上げたり、アトリビューション有効期間を意図的に長くしているケースがあります。このケースでは、広告主や代理店が、クリックの定義について把握し、同意している必要があります。

 なぜなら、動画広告の視聴完了や、視聴経過率、静止画バナーが見られた場合など、ネットワークによりクリックの定義が異なることがあるからです。そもそもビューアブルではない静止画がクリックされたことになっていたり、動画広告の瞬間的な表示がクリックとみなされていている場合、それを広告主が把握し、同意していないのであれば、それは大きな問題です。そして、残念ながらこういったケースは、実際に起きています。

 この問題は、実際の配信の状況を確認して初めて気づくことが多いのですが、少なくとも広告主は事前に認識し、納得している必要があります。まずは、レポートをご覧いただき、低すぎるコンバージョンレートなど、他と比べて不自然な数値がないかをご確認いただきたい。

 そして状況を把握した後に、不正防止機能のトライアルを活用して、実際にどのような不正からどれほどの被害を受けているのかを確認していただきたいのです。「Adjust」は、今後も新たな不正に対してCAAFメンバーと共に先陣を切って対応していき、不正を行っている者が不正できなくなる環境を追求したいと思います。

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この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2018/03/12 21:47 https://markezine.jp/article/detail/27859