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日本郵便「デジタル×アナログ」実証実験プロジェクト(AD)

DMはバナーではなくLP?データドリブンなアナログ施策で失敗しないための4つのポイント

 不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」を運営するLIFULLは日本郵便が進める「デジタル×アナログ」実証実験に参加。昨年10月から今年1月初旬までの過去4か月間に、同社のWebサイト上で分譲マンションや一戸建てに関する資料請求をしたユーザーに、おすすめの物件などを紹介するダイレクトメール(以下、DM)を発送した。発送したのは1月31日。初速の反応、そして明らかになった課題について同社の野口真史氏と日本郵便の鈴木睦夫氏に検証してもらった。

鍵握る「ターゲティング、タイミング、クリエイティブ、オファー」

鈴木:今回の実証実験では、昨年10月から今年1月初旬までの過去4か月間に「LIFULL HOME’S」を訪問して、分譲マンションや一戸建てに関する資料請求をしたユーザーを対象として抽出し、メールのみを送るコントロール群と別に、約3,000件ずつに対して「DMとメール」「DMのみ」のアプローチを行いました。初速の反応はどうだったでしょうか?

左から、株式会社LIFULL Chief Data Officer LIFULL HOME’S事業本部 グループデータ戦略部 部長 野口真史氏、日本郵便株式会社 郵便・物流営業部 担当部長 鈴木睦夫氏
左から、株式会社LIFULL Chief Data Officer LIFULL HOME’S事業本部 グループデータ戦略部 部長 野口真史氏、
日本郵便株式会社 郵便・物流営業部 担当部長 鈴木睦夫氏

野口:今回、「ほかの物件への問い合わせ」と「『LIFULL HOME’S 住まいの窓口』への来店」の2つをKPIとしたわけですが、メールのみの群に対して、DMを送付した群が飛び抜けた成果を挙げるには至りませんでした。

※「LIFULL HOME’S 住まいの窓口」は家探し・家づくりの悩みを専属のアドバイザーが無料で解決するリアル店舗のサービス。以下、「住まいの窓口」

鈴木:なるほど。前回うかがったお話では、「住まいの窓口」の店舗や不動産会社を訪れていただく、または分譲マンションや一戸建ての契約・購入が最終コンバージョンということでした。現時点ではちょっと成果が見えにくいということですね。

野口:そうなります。実は、以前試みた、不動産会社をクライアントとしたDM施策のほうが明確な効果がありました。そのDM施策と今回の実験の差分を分析して、課題と今後の方向性を見いだしたいと考えています。

 不動産会社へ試みた施策というのは、特定の分譲マンションや一戸建てのモデルルームへの集客のためにDMを送付するというアプローチだったんですが、コンバージョン率が約10%に達しました。

鈴木:それは興味深いですね。こうしたDMによる施策の場合、1.ターゲティング、2.タイミング、3.クリエイティブ、4.オファーの4つを踏まえたシナリオづくりが重要です。4つの要件、1つずつについて検証してみましょう。

 まずターゲティングに関してですが、ポジティブな反応のあった施策の場合はどんなユーザーが対象だったのでしょう?

野口:実は、前回施策では大手ショッピングサイトが提供するDMサービスを使いました。

鈴木:なるほど。「LIFULL HOME’S」を訪問し、かつ大手ショッピングサイトの会員でもあるユーザーを対象にDMを送付する施策ですね。そうすると、送付対象の住所は「3rdパーティデータ」になりますね。

 一般的に、今回の実証実験で用いたような、「LIFULL HOME'S」を閲覧したユーザーが、資料請求のために登録した住所は「1stパーティデータ」だから好反応が期待できるだけに、意外な結果ですね。

野口:ただ前回施策の場合は、モデルルームを訪問した方にしっかりとしたプレゼントを準備していたことと、直近1ヶ月間に「LIFULL HOME’S」を閲覧したユーザーが対象だったという差分はあります。時期的にいって、ユーザーが熱心に物件の契約や購入を考えているタイミングだったということは言えます。

鈴木:今回は前回より安価なQuoカード500円分が「住まいの窓口」来店インセンティブなので、その違いは大きいでしょう。また、今回の実証実験の対象も物件の契約や購入を検討しているユーザーだったわけですが、「過去4ヶ月間」での抽出なので、アクセスからDMの発送までタイムラグがあってもうすでに物件選びに興味や関心を失っていたことは考えられますね。

バナーよりLP的なクリエイティブのほうがハマる?

野口:気になったデータとして、今回DMを送付したうち約2.5%が「宛先不明」で返送されてきているんです。サイト上で資料請求をされた、資料の発送を希望していたユーザーにもかかわらずこの数字というのは、かなり高いと思います。すでに物件を見つけて転居済みだったのかもしれません。「LIFULL HOME’S」としては、住まい探しを支援するという役割を達成できているということになりますので、逆に嬉しいことなのですが(笑)

鈴木:やはり、DM送付時には物件の契約や購入を検討する状況ではなかったユーザーがかなりの割合にのぼったことが考えられますね。通常はオプトアウトのユーザーをオプトインへと導くためにDMやメールなどでのアプローチを考えるわけですが、今回は住所を入力したオプトインのユーザーが対象だったわけですから、「宛先不明」になるのは転居が疑われます。

野口:これはオファー面での反省点になるんですが、今回の実証実験ではKPIを「ほかの物件への問い合わせ」と「『住まいの窓口』への来店」の2つにしてしまいました。

 さらに、クリエイティブ面では、今回のDMは、住んでいるエリアにおけるおすすめの分譲マンションもしくは一戸建てを3つ掲載するという内容でした。前回施策のDMでは一つの物件を美しいビジュアルで提案しています。

 たとえて言えば、前回施策はLP(ランディングページ)的クリエイティブで、今回のDMはデータフィード型のバナー広告的クリエイティブでした。LP的なクリエイティブのほうがDMにはハマるのかもしれません。

封入した原稿の一例
封入した原稿の一例

鈴木:同感ですね。KPIは1つにしぼったほうが明快ですし、DMの内容についても物件の紹介は1つにしてリッチな表現にすべきだったかもしれません。実験の都合上、KPIの計測ポイントを増やしたくて、そのような構成にしてしまったのは申し訳ないです(笑)

 また、前回も話題になりましたが、すでに新しい住まいへ移ってしまったユーザーに対しては物件の案内ではなくて家財道具やよりよい住まい方に関する情報の提供といった内容も検討したほうがよさそうですね。

 分譲マンションや一戸建ての契約や購入を検討して資料請求までのアクションをしたユーザーですから、次のライフステージを迎えて新しいライフスタイルに関する「提案」を求めていることも考えられます。

野口:当社としてはLIFULL HOME’Sの豊富なデータを活かして不動産分野にとどまらないソリューション作りを模索しています。物件への問い合わせや店舗への来店アップだけでなく、引越し後の生活に必要なモノやサービスを販売する企業様を広告主として想定したDM広告商品を開発していきたいですね。

デジタル・アナログ問わずユーザーの行動データを蓄積せよ

鈴木:現在の主力事業の売り上げ・収益アップも重要ですが、こうした「デジタル×アナログ」のユニークな施策をビジネスの将来展望へと結びつけていくことにも大きな可能性があると思います。

 現状、LIFULLというと「LIFULL HOME’S」を中心とした住宅・不動産情報提供会社という企業イメージがありますが、このイメージを人生のあらゆるステージでお役に立つ「ライフスタイル提案企業」へと変えていくヒントがDMにはあるかもしれません。 

野口:当社が住宅・不動産情報の提供から、ライフステージのあらゆる場面で役立つ提案をしていける企業をめざすにあたってはユーザーデータ基盤のブラッシュアップも必要ですね。当社の個人情報が格納されているデータベースは、郵送DMを発送することを想定していないので、住所、氏名のデータの抽出や行動ログなどとの紐づけ分析にコストがかなりかかりました。セキュリティ上は厳重に管理することがもちろん大事ですが、マーケティング上有効に使えるように整備しておくことも大事ですね。

鈴木:それはどの企業にとっても大きな課題です。貴重な「1stパーティデータ」も、ただ蓄積しているだけでは、どんどん活用価値が下がっていってしまいます。アップデートを欠かさないことで、活用価値の高いフレッシュなデータにしておくことが重要です。

 どの企業にとってもユーザーに関するデータは、最も大切な財産です。デジタルでもアナログでも、なんらかのユーザーアクションがあればユーザーデータに反映させて「活きたデータ」としておくことが重要です。ユーザーデータそのものを新しい「メディア」へと活用していくこともできますし、企業とビジネスの価値を高める資産・財産にもしていけるんですね。

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ユーザーの思考や行動を理解し、シナリオに活かす

野口:オファーに関して、ユーザーが「いま住んでいるエリア」と「これから住みたいエリア」は違うだろうなという点にも気をつけました。

鈴木:それはありますね。分譲マンションや一戸建ての契約・購入を考えているわけですから、ユーザーがいま住んでいるエリアではなくて住みたいエリアを探すだろうと。

 それから住まいを探すとき、「エリア」ではなくて「沿線」で探すとか、まず我々マーケタ―自身がユーザーの立場や状況を理解し、ユーザーの思考や行動について想像力を高めて見きわめていくことも重要です。

野口:デジタルとアナログを組み合わせるという手法やメリットばかりに気をとられがちですが、さらにきめ細かくユーザーの思考や行動を予測したクリエイティブ、オファーが大切になってきますね。 

 ユーザーに近い立場にいる私たち自身が、もっと想像力ゆたかに「ユーザー像」を描いていくことの大切さにも気づかされました。

鈴木:やはり、なんらかのアクションを期待するユーザー像をもっと具体的にきめ細かく描くことで、最初に紹介した1.ターゲティング、2.タイミング、3.クリエイティブ、4.オファーの4つを踏まえたシナリオづくりもできるんですね。

 Webマーケティングで使われるLPの概念と似ていますが、ユーザーの手元に直接送付されるDMはやはりクリエイティブとオファー次第で大きな効果が期待できます。そのために欠かせないのが、効果を生むシナリオづくりなんですね。

「仮説→実験→フィードバック→仮説…」のループを回す

野口:今回の実証実験では、デジタルマーケティングだけではリーチしきれないところをDMで補えるかの検証を目的としていましたが、むしろシナリオ作りやコミュニケーション設計における課題が浮き彫りになりました。

鈴木:この段階で明らかになった課題を整理してみます。DMの送付先であるユーザーが資料請求した期間が「過去4か月間」とやや長期にわたったこと。そしてDMが手元に送付されるタイミングが適切だったか――この2つがターゲティングとタイミングに関する課題と言えます。

 さらに、KPIが「ほかの物件への問い合わせ」と「カウンター来店」の2つに分散していたこと、DMの内容がユーザーの事情や状況にマッチしていたか――この2つはクリエイティブとオファーに関する課題になりました。

 これらの課題をふまえて、今回のシナリオをどう変えていけば期待するコンバージョンへと近づけていけるか、さらに、住宅・不動産情報の提供から新しいビジネスモデルの創出をめざすためにどんな施策ができるか、まだまだヒントが得られそうですね。

野口:仮説を立てて施策を実施して得られたフィードバックを次の仮説へと結びつけ、新しい施策につなげていくのが「実験」らしいプロセスかもしれません。

鈴木:それぞれ角度を変えた施策を続けて、フィードバックを活かしていくことで、その会社に適した「デジタル×アナログ」のマーケティング手法が確立されていきます。今回の中間報告は、そのための大切な機会になったと思います。

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この記事の著者

浦野 孝嗣(ウラノ コウジ)

 2002年からフリーランス。得意分野は経済全般のほかIT、金融、企業の経営戦略、CSRなど。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/10/18 16:21 https://markezine.jp/article/detail/28065