デジタルの真骨頂は「柔軟性」にあるはず
広告クリエイティブの領域では、しばしば「マスの人」「Webの人」という言い方がされる。広告単位、あるいは組織単位でも、近年は「マスとWebを統合して考えるべきだ」との議論もなされている。その裏側には、マスとは特徴も異なり前例も少ないWebが一般的になったゆえ、一体どう使えば、誰に相談すれば、ケースバイケースで最適な答えを導きだせるのかと悩む企業の姿がある。
ノープロブレム/小霜オフィスの小霜和也氏は、「僕自身も『この人どっちなの』という見方をされることがある」と話す。氏はマス広告出身でありながら、近年はWebの手法も積極的に取り入れて実績を残しており、2015年のVAIOのプロモーションでは、WebCMのみでブランディングから売上の獲得までを鮮やかに実現してみせた(関連記事『Webのみでもガンガン売れた「VAIO」 トップクリエイターも思う、急いで解決すべき課題とは』)。
Web上の動画広告が「Web動画」と表されることが多い中、「テレビCMに対してWebの動画広告はもはや『WebCM』として立派に機能する」との考えから、小霜氏は「WebCM」と呼称している。
マスとWebが統合されるべきか、あるいは広告コミュニケーションはもっとデジタルシフトすべきかというテーマについて、必ずしもそれは正しくない、と小霜氏。「デジタル系のトピックスは“○○しなければいけない”という語り口がとても多いですが、それに囚われないほうがいいと思います。デジタルの真骨頂は、柔軟性にあるはずですから」。
では、どのような軸で考えていけばいいのか。その答えを、小霜氏はクリエイティブディレクターとしての自身のスタンスである「クライアント・ファースト」の考え方をもって示す。
マスもWebもメディアのひとつだという感覚が大事
それぞれのクライアントの課題や期待、事情や背景に応えるために、マスが適切ならマスを提案し、Webだけで良いならWebを提案する。必ず両方を使う必要もなく、正確に言うなら「&/or」。様々な“引き出し”を備え、ケースバイケースで最適解をはじき出すことが、マスとWebの統合であるというのが小霜氏の考えだ。
マスとWebをフラットに捉えられない要因として、元々デジタルやWebがテクノロジーと密にひもづいた手段として登場したことが挙げられる。「しかし時代は進み、今やWebは、4マスメディアに交通・OOHを加えた5マスと並列な『6つ目のマス』になったと僕は認識しています」と小霜氏。
Web広告において一時語られた“枠から人へ”という発想が、アドベリフィケーションの問題で後退し、アドネットワークを使わない企業も出てきている中で、Webの枠の価値が改めて高くなっている。その流れを受けて、YouTubeやFacebook、Twitterといった各プラットフォームがマスメディア化してきているのだ。
同時に生活者視点でも、「もうテレビとスマホが区別されていないように見える」と小霜氏。WebCMしか流していない新商品なのに、調査をしたら「テレビCMで見た」という回答が1位になることもあるそうだ。Android OSを搭載したネット対応テレビは「大きなスマホ」とも言え、その線引きは消えつつある。
Abobe the LineとBelow the Line、あるいは空中戦と地上戦といった上下で捉えることに、もはや意味はない。「マスもWebも同じメディアのひとつとして、一直線につながっている感覚を持つほうがいいんじゃないかと思っています」(小霜氏)。