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「日本サッカー界はデータ分析で強くなる」 変革に取り組む2社が明らかにした、得点につながる要素

 データ解析の第一人者として活躍する西内啓氏といえばベストセラー『統計学が最強の学問である』の著者。出版されたのは2013年1月だが、その約半年前に西内氏は『遠藤保仁がいればチームの勝ち点は117%になる』という著書も上梓している。スゴ腕データサイエンティストにしてサッカーファンの彼が今データスタジアム、日本マイクロソフトとともに取り組んでいるのが日本サッカー界でのデータ活用の推進だ。西内氏とデータスタジアムの久永啓氏にその最新事例を語ってもらった。

データスタジアムのデータ×「Data Diver」で分析

 2001年4月設立のデータスタジアムは、スポーツの分野で多彩なデータ収集を手がけており、メディアへの配信やコンテンツの企画・制作・配信を主力事業としている。また、プロ・アマを問わずスポーツチームのデータ分析やソリューション提供も行っている。

 同社のフットボール事業部に所属する久永氏自身も、Jリーグのサンフレッチェ広島に在籍してデータ分析を担当していた経験をもつ。

データスタジアム株式会社 JDC事業部 兼 フットボール事業部 兼 人材開発チーム 兼 ナレッジ開発チーム 久永啓氏
データスタジアム株式会社 フットボール事業部 久永啓氏

 一方、西内氏は東大医学部を経て医療分野でデータ解析・データ活用を推進。2014年11月にデータビークルを共同で設立している。さらに同氏は、日本を代表するコンサルタントや実業家とともにJリーグのアドバイザーを務めている。

 「アドバイザーとして期待されている領域は2つあって、1つはオン・ザ・ピッチ、もう1つがオフ・ザ・ピッチです。つまり、きめ細かくデータ収集・解析をしてプレーや試合の質向上に活用するとともに、認知度・知名度アップや集客に役立てるためのプロモーション、マーケティングへデータを活用していきたいということです」(西内氏)

株式会社データビークル 代表取締役 最高技術責任者 西内啓氏
株式会社データビークル 代表取締役 最高技術責任者 西内啓氏

 そして今回両社は、データスタジアムが収集したJ1リーグ全306試合のデータと、データビークルのデータサイエンス支援ツール「Data Diver」を活用し、「得点につながるプレー内容」を分析したという。

スポーツでの活用に求められる、導入ハードルの低下

 そもそも、サッカーだけでなく、あらゆるスポーツで選手の能力・戦力アップからチーム運営、試合の集客まで幅広くデータの活用が進み始めた背景はどこにあるのだろうか。

 西内氏は背景に関して、「2011年に公開された映画『マネーボール』の影響が大きい」と語るも、現状はまだまだと指摘する。

 「日本でもデータの収集や解析がアスリートやチームの意識改革に役立つという認識が少しずつ広まってきています。ただ、選手に高額の年俸を支出する一方で、チームの運営・経営のための予算はどこも厳しく、データ解析および活用が二の次になっているチームがほとんどです」(西内氏)

 実際にJリーグのチームに在籍していた久永氏もその実情を明かす。

 「チームのコーチングスタッフとフロントも長く勘や経験を重視してきましたから、『データ』をいきなり見るというのは困難です。そのため、私たちも、収集・解析したデータを実際に導入・活用できるレベルでサポートしていくことが課題になっており、今回の取り組みもその一環です」(久永氏)

 実際にデータ活用を提案しても「そのお金があるなら海外遠征に連れていく」といった意見が挙がることもあるというから、活用までの道のりは険しいともいえる。両社は先述の現状から、データ活用に詳しくないスタッフでもデータの閲覧しやすいものを目指した。

「思いもよらない結果が得られる」Data Diverの秘密

 今回記事に登場するデータビークルのデータサイエンス支援ツール「Data Diver」ですが、記事内では機能の詳細は語られません。しかしながら、J1リーグのコーチングスタッフやフロントも気づき得なかった、得点の要素を明らかにするツールには何か秘密があるに違いありません。

 現在データビークルの公式サイト上では、Data Diverがどのような特徴を持ち、なぜ通常の分析では発見できなかった知見が得られるのかを解説しています。ぜひ記事と併せてご覧ください!

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「1試合約2,000のデータ」×「J1全306試合」を分析

 続いて、実際の取り組みについて両社に解説してもらった。データとして活用したのは、データスタジアムがJ1の全306試合において取得したもの。驚くべきは、そのデータの粒度の細かさだ。

 「パスやシュートなど、ボールに触れた時点のデータはすべて取得しています。各試合を見ながら、専用のシステムを利用して記録していて、1試合で2,000近くのデータが集まります」(久永氏)

 集められたデータは「Data Diver」にて分析。「得点」につながるプレーの傾向を探った。 

 「チームにとってもサポーターにとっても一番気になるのは『得点力』です。ですから、得点につながるスタッツを考えうる限りのプレーからデータ解析したのが今回の結果です」(西内氏)

 たとえば、「オフサイドが1回増えると得点は0.06低い傾向」「スルーパス成功が1回増えると0.06高い傾向」など得点に影響を及ぼす行為を具体的な数値で明らかにする。項目の中には「○○(チーム名)が入っていると得点は高い/低い」のように得点力の高いもしくは低いチームまでもわかってしまうものもある。

 また、各項目が実際のプレーとの相関性が高いかどうか「クリアさ」という指標で表しており、同指標を見ることで注力すべき項目か否かを判断できる。そして何より、「これまでファンや監督などが考えていた定説を覆すような示唆も多く得られた」と西内氏は語る。

 「これまで、コーナーキックやフリーキックは一般的にはチャンスと捉えられてきましたが、分析結果ではどちらも1回増えるごとに得点にマイナスだということがわかっています。セットプレーになるということは、決定的チャンスを防がれたともいえるので、増えれば増えるほど点にはつながらないのです。言い換えるならば、昨シーズンのJ1では、あまり点の取れないチームほど流れの中からではなくセットプレーに頼りがち、ということです」(西内氏)

監督、コーチが気づかない「得点の要素」を浮き彫りに

 これだけでも過去に得られなかった示唆を発見できる今回の取り組みだが、「その他にも様々な点に気づける工夫をした」と久永氏は語る。

 「ピッチ全体をタテに6つのグリッドで分けてデータを収集することで、試合中、どんな場面、プレー展開、結果になったかが詳細に把握できます。これにより、チームの監督やコーチがまだ気づいていない『得点につながる要素』を明らかにしました」(久永氏)

 これに対し、西内氏はアタッキングサードと呼ばれる攻撃的エリアでのプレーを例に挙げて話した。

 「アタッキングサードからのパス成功数が増えると、得点にマイナスの影響を及ぼします。しかし、そこでのパス成功率が上がると得点にプラスの影響を及ぼすのです。

 つまり、同エリアに行ったらパスは成功させなければならないのですが、成功率を上げようとすると当然、安全なパスを通しがちですよね。そうやって何本もやっていると得点から遠ざかっていくんです」(西内氏)

 これらの示唆を具体的な数値をもとに導き出せるのは、サッカー関係者にはとても有益なのではないだろうか。さらに、「Data Diver」では得られた分析結果をPowerPointやExcelの形式で簡単に書き出しできる。

「思いもよらない結果が得られる」Data Diverの秘密

 今回記事に登場するデータビークルのデータサイエンス支援ツール「Data Diver」ですが、記事内では機能の詳細は語られません。しかしながら、J1リーグのコーチングスタッフやフロントも気づき得なかった、得点の要素を明らかにするツールには何か秘密があるに違いありません。

 現在データビークルの公式サイト上では、Data Diverがどのような特徴を持ち、なぜ通常の分析では発見できなかった知見が得られるのかを解説しています。ぜひ記事と併せてご覧ください!

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膨大なデータ処理を支えた「Microsoft Azure」

 しかし、全306試合のデータをありとあらゆる角度から徹底的に分析するには、強固な基盤が求められる。そのために今回両社が採用したのは、マイクロソフトのクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」だった。その理由について、西内氏は以下のように解説する。

 「当社はデータ分析支援ツールの開発・販売に特化したベンチャーということもあり、まだスタッフも少ないことから、とてもユーザーごとの様々な環境でシステム運用をお手伝いすることができません。しかし、『Microsoft Azure』であれば、膨大なデータの蓄積・活用が簡単に実現可能で、私たちはサービスやインターフェースの開発部分に集中できるのがありがたいですね」(西内氏)

 具体的には、「スケーラビリティを柔軟に調整できる点が大変ありがたい」と西内氏は続けた。分析の場合、Webサービスなどのように平常的に負荷がかかるものでもなく、分析時だけ突発的に膨大な負荷がかかる。

 そのため、都度都度その負荷に合わせてインフラを整えるのは難しい。しかし、Microsoft Azureであれば、即座にその負荷の変化にも対応できるのだ。これに関し西内氏は「他のクラウドプラットフォームという選択肢もあるが、Microsoft Azureでなければできなかった」と高く評価している。

2018年シーズンはJリーグにとっての「データ活用元年」に?

 2017年シーズンのJリーグ全試合のデータの解析結果の提供は、既に複数のチームで進み始めているという。

 「2018年シーズンは、データ解析の導入・活用が一気に普及・定着していきそうなトレンドを感じますね。というのも、こうしたデータ解析を導入した成功事例は企業などの場合は一般的に公表しません。

 でもJリーグ側も導入に積極的ですし、強豪チームの中には既に積極的にデータ活用を進めようというクラブもいます。こうした事例が少しずつ知られてくるにつれ、他のクラブでも、データ解析を活用しようという動きは加速していきそうですね」(西内氏)

 加えて西内氏は、チーム同士が競合するのではなくWin-Winの関係で切磋琢磨していく環境作りにも貢献できると期待を示す。

 「どこかのチームのサポーターが増えると、近隣のチームが主催する試合でもアウェイの観客ということで売上に貢献してくれる人も出てきます。つまり、試合の勝敗という点ではチーム同士は「敵」ですが、ビジネス面では互恵的なパートナーということになります。Jリーグだけでなくプロ・アマ問わず、あらゆるスポーツチームの活性化にも貢献していきたいですね」(西内氏)

 2018年6月にはロシアで「2018 FIFAワールドカップ」が開催される。久永氏はその挑戦の舞台でもデータ解析の結果が導入・活用されるシーンに期待を寄せる。

 「試合中も、これまでは禁止されていたピッチでの電子機器の使用が一部認められるようです。このシステムやノウハウを活用することで、試合のハーフタイム時に限らず前半の試合内容をリアルタイムで分析して次の戦術に活かしていくことも可能です。

 ワールドカップをきっかけに、世界中のチームが常に『勝ちパターン』を考えながら試合に臨むスタイルが定着していくことを期待しています」(久永氏)

 2018年は、「データ解析」という新しい視点から日本と世界のサッカーシーンがさらに進化していくシーズンになりそうだ。

「思いもよらない結果が得られる」Data Diverの秘密

 今回記事に登場するデータビークルのデータサイエンス支援ツール「Data Diver」ですが、記事内では機能の詳細は語られません。しかしながら、J1リーグのコーチングスタッフやフロントも気づき得なかった、得点の要素を明らかにするツールには何か秘密があるに違いありません。

 現在データビークルの公式サイト上では、Data Diverがどのような特徴を持ち、なぜ通常の分析では発見できなかった知見が得られるのかを解説しています。ぜひ記事と併せてご覧ください!

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この記事の著者

浦野 孝嗣(ウラノ コウジ)

 2002年からフリーランス。得意分野は経済全般のほかIT、金融、企業の経営戦略、CSRなど。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2018/05/11 11:00 https://markezine.jp/article/detail/28169