Instagramの国内アクティブアカウント数は2,000万を突破
MarkeZine編集部(以下、MZ):今回のメディアプランの全体像を教えてもらえますか。
中條:施策の目的は2つありました。新ルージュ「ドラマティックルージュP」の広告展開により、今までマキアージュを使ったことがない層のエントリー獲得。そして、20・30代競合ユーザーの獲得です。今回は新モデルの起用タイミングでもあったので、特に前者を重視しました。メインターゲットは別のブランドを使っている10代後半~20代の女性です。価格帯変更にともなうブランドスイッチの際に、マキアージュを第一候補にしてもらいたいと考えました。
ターゲットにリーチ可能な媒体であることを重視し、施策の比重を雑誌とInstagramに置きました。メディア全体の予算配分も今回は特にデジタルへの投資を多くしています。
MZ:最新のInstagramの利用動向には、どんな特徴がありますか。
佐藤:ユーザーは右肩上がりに増えています。現在、国内の月間アクティブアカウント数は2,000万以上。インスピレーションを得る場として、日常の中でポジティブな刺激を得る時に使われています。利用シーンは様々ですが「くつろいでいるとき」に最も多く利用されています。
また、「自分ゴト」化されるメディアだということも大きな特徴です。機械学習による独自アルゴリズムを利用し、通常の投稿が表示される順番だけでなく、どのような広告を表示するかもユーザーの興味・関心をもとに最適化しています。その結果「ユーザーが見たいもの、見たいであろうもの」を表示しています。
土井:一般ユーザーから見ると、FacebookとInstagramは別々のプラットフォームですが、どちらもFacebook社のサービスですから、同じIDをキーにターゲティングができます。我々としては、広告主の課題に合わせ、単独で提案する場合もありますし、両方で提案する場合もあります。つまり広告主側からすると選択肢が増えているということです。
コンテンツをパーソナルに感じるInstagram
MZ:化粧品業界にとってのInstagramとはどんな存在でしょうか。
中條:化粧品とInstagramは相性がいいですね。一般の生活者が検索で化粧品の情報を得る時、今までは検索エンジン経由が中心でした。しかし、ソーシャルメディアの登場で、自分が興味を持っている人からも新しい情報を知ることができるようになり、ソーシャルメディア内での検索行動も増加していると捉えています。今流行しているものの情報も入手しやすいので、私たちとしてはそのような生活者の、購買にいたるまでのメディア行動の変化を捉えることが重要です。
土井:化粧品関係のクライアントはInstagramをよく使っていますね。特にラグジュアリー系ブランドや若い女性をターゲットにしているクライアントに重宝されています。
佐藤:モバイルの普及にともない、SNSを通じた「コンテンツのパーソナライズ化」が定着しました。その結果として「個人の興味や関心の細分化」も進んでいます。そういった背景を踏まえてか、海外ではスモールブランドが増えたり、同じブランドでもバリエーションの数が増えることで細分化されたニーズに対応する動きが盛んです。
もう少し背景をひも解くと、化粧品が生まれた遥か昔は、近くの化粧品専門店に行くと、自分の肌や髪に合った石鹸や化粧水をオーダーメイドで調合されたそうです。消費者は自分のニーズに合ったものを購入でき、いわば、化粧品そのものが「パーソナルなもの」だったんですね。その後、産業革命が起こり大量生産の時代になるとマスマーケティングが主流になり、単一のコミュニケーションで画一の商品を広く、効率的に売る手法が一般的になりました。しかし今、モバイルを軸として揺り戻しが起こり、化粧品自体がパーソナルなものに立ち返りを見せたことで、パーソナルなマーケティングの重要性が高まっています。
Instagramは元々自分の興味関心があるものに没頭できるパーソナルな空間です。従って自然と化粧品やファッションの領域は自然と親和性が高くなります。さらには旅行や家電など、Instagramの活用で成功しているクライアントのタイプはどんどんと広がりを見せています。
雑誌の質的価値は変わらない
MZ:今回のコミュニケーション設計のポイントは?
中條:今回のターゲットである10代後半~20代の女性は、広告が届きづらい層です。Instagramと雑誌を組み合わせることで、相互のリーチを補完し、効果の最大化を狙いました。Instagram広告では、通常のフィードだけでなく、ストーリーズでも広告を出すようにして、ターゲットの中で話題になりやすいような仕掛けにしました。
MZ:雑誌の総発行部数は年々減少していっています。広告媒体としての雑誌の位置付けをどう捉えているのでしょうか。
土井:実際、デジタルシフトが進んでいます。ただし、雑誌が化粧品業界にとってターゲットに届きやすいメディアであることに変わりはありません。部数が減っているとは言え、雑誌を手に取る人は確実にいるわけですから、使わない手はないでしょう。今回の取り組みは、今まで別々に考えていたInstagramと雑誌を当初から掛け合わせて使うことを考え、その成果も可視化できるようプランニングしました。
中條:広告効果の量と質においては、部数が減る分、量的効果は少なくなりますが、質的効果は変わっていないと思います。量が足りないならば、デジタルで補完すればいいのです。それから、私たちは出版社のことをコンテンツメーカーと考えていて、アウトプットが紙かデジタルかはフラットに捉えています。
重複接触により単独接触の1.6倍の効果
MZ: Instagram広告と雑誌広告を組み合わせたことで、実際にはどういったシナジーが生まれたのでしょうか。
佐藤:リーチを計測したところ、雑誌だけのリーチは22%でした。Instagramによるリーチは28%で、雑誌によるリーチと重なっている分の11%を差し引いても17%増えたことなります。結果、トータルリーチは39%となり、Instagramは雑誌のリーチを補完する役割を担いました。
また、カンター・ジャパンによる調査では、「認知」「意向」「行動」のどのフェーズでもシナジー効果が現れていることが確認できました。Instagramと雑誌、それぞれのみの接触による効果の単純総和に比べて、Instagramと雑誌に重複接触した場合の効果は、「認知」と「意向」では1.3倍、「行動」においては1.6倍以上のポイントアップを達成しました。雑誌は、良質で深いコンテンツが提供されることから、その信頼度も高く、認知形成において十分効果のあるメディアです。一方、先ほどの話の通り、Instagramはより自分ゴト化しやすいメディアであることから、最後に行動に移す際の後押しの力がより強まるという効果が示唆されています。
ストーリーズ広告では距離感の近いものが好反応
MZ:成果の可視化をどう評価していますか。
中條:雑誌で取れないところをInstagramでリーチできたことや重複接触の効果を数字で確認できたこと自体が大きな収穫です。今回の予算配分の面でもコスト効率も良かったと言えます。
ストーリーズ広告の成果についても確認しました。クリエイティブは、発表会の様子を引きで撮ったものとモデルの自撮りの2種類を用意しました。反応が良かったのは後者です。自撮りのような通常のストーリーズの使われ方や特性を踏まえたクリエイティブが効果的だということがわかったのが定性的な収穫になります。
土井:美容業界において、資生堂様はストーリーズに馴染む自然な広告にいち早く着手されていました。いわゆる「没入感がある」、見ているユーザーに自然になじむクリエイティブが良かったのだと思います。
ユーザーフレンドリーな広告プラットフォームに
MZ:今後、広告プラットフォームとしてのInstagramに期待することはどんなことでしょうか。
中條:自分向けの情報が広告として出る分、ユーザーフレンドリーな広告プラットフォームであってほしいと思います。それから雑誌とInstagramの両方に長期接触しているほうが効果も高まる事が今回わかったので、出版社などと一緒により相乗効果が高い広告開発を考えていただければうれしいです。
土井:今回の成果を見ると、雑誌単独でも態度変容効果が向上していましたが、雑誌だけでなくInstagramを同時に出稿することによりその効果が大きく増幅していました。この結果から、Instagramは、雑誌に限らずテレビや新聞を含めたいわゆる信頼性の高いメディアと言われている各マス広告を後押しできる効果があるのではないかと考えました。今後は是非Instagramのこのサポート効果を対雑誌広告以外でも示せるような事例を作って発信していきたいと思います。
佐藤:Facebook社としてもオフラインも含めた他のメディアとの相乗効果を高める取り組みを進めていきたいと思っています。たとえばテレビやオフラインイベントとInstagramを掛け合わせることでリーチを最大化させ、反響を増やし、ブランドの認知や好意度を上げる事にさらに取り組んでいきます。我々の強みを活かしながら、他のメディアとも組んで、クライアントのマーケティング活動を支援していきます。