AIによるモデル構築で「離職率低下」を実現した事例も
シバタ氏はまず、マーケティング領域における従来のデータ分析の課題を振り返った。同氏によると、従来の統計分析では「結局何をすべきかがわからない結論」が導き出されることが多かったという。
「たとえば、『今回のキャンペーン施策を実施することで、KPIを改善できる可能性は5%より小さい』という結論を得ても、マーケターは『だから何?』となりますよね。これでは、統計分析をマーケティングに活かす以前の問題になってしまいます」(シバタ氏)
従来のマーケティング分析フレームワークは粒度が粗く、分析結果から知見を得るにはデータ分析に精通した人間のセンスが必要だった。シバタ氏は、「購買行動データによるRFM(Recency:最新購買日、Frequency:購買頻度、Monetary:購買金額)分析や属性データによるクラスタリングを作成しても、そのデータをもとに具体的な施策を講じることは難しかった」と指摘。ところが、技術の発展でこうした課題は解消され、現在は分析から施策までが一連の流れとしてつながっているという。具体的には、以下のようなことを実現できる。
- 集計分析や統計分析をBIツールでレポート化し、現状を可視化することで、人間の意思決定をサポート
- データの学習をモデル化し、AIによる分析で特定の未来を予測
- 要因分析から最適化を行うことで解決策を導き出し、次のアクションにつなげる
シバタ氏によれば、こうしたAIを活用した施策は、あらゆる分野で実際に進められているという。そのひとつの例がコールセンターだ。3ヵ月で50%が離職すると言われるコールセンターでは、離職予防スキームの作成が喫緊の課題となっている。
そこで、コールセンター大手のトランスコスモスはAIの自動化プラットフォーム「DataRobot」を活用し、退職予測モデルを作成。離職防止活動を実施した。全国のコールセンター拠点から収集した学習用データで予測モデルを構築し、機械学習で退職率と理由を予測してスコア化。その上で、退職予備軍リストのオペレーターに対しては面談を行うなどの離職予防活動を行ったという。その結果、離職率は大幅に低下した。
予測に基づいた精度の高い意思決定を自動化
続いてシバタ氏は、「AIは頻度と精度の高い意思決定を自動化してくれるもの」だと説明した。従来のデータ分析は都度目的に応じて分析を行うものが多く、分析頻度も少なかったという。また、分析手法も「集計」「相関分析」「多変量解析」「重回帰分析」などが中心で、分析結果から人間が判断し、意思決定を行っていた。
シバタ氏によれば、そうしたデータ分析は「属人的で職人芸」な領域で、「RFM分析による顧客行動の理解」など、専門知識や経験が必要とされていた。
一方、AIが実用化レベルに達している現在は、定常的な分析が可能だ。分析手法も「特徴量生成」「機械学習」「アンサンブル学習」「モデル解釈」など、データさえあれば定常的に分析し、リアルタイムで予測することができる。さらに、パターンをモデル化すれば、導き出された予測に基づいた自動的な意思決定も行える。