マーケティングオートメーション導入による成果
池田氏は、ユーザー視点を間近にすることでコミュニケーションバグをなくし、価値が正しく伝わる社会を実現しようと考え、ポップインサイトを2013年に立ち上げた。企業では、ITシステムのバグをなくすことにはお金をかけるが、コミュニケーションバグをなくすことにはあまり手間もコストもかけていない。その状況に対し池田氏は、ユーザーテストを行うことでコミュニケーションバグをなくせると考えたのだ。その結果生まれたのがポップインサイトで提供しているユーザーテストのソリューションだ。
ポップインサイトでは、自社サービスをより広く利用してもらうためにマーケティング活動に注力している。2016年9月にメールツールを導入、さらに2017年6月にはマーケティングオートメーション(以下、MA)ツールの「SATORI」を導入した。その結果、ユーザーテストの実施件数は右肩上がりで増えている。この成果を受け、SATORIを提供しているSATORI株式会社とアライアンスを組み、ユーザーテストのサービスとSATORIを組み合わせたサービスも提供している。
MAツールが有効なケース
MAが注目をされるようになった背景には情報の爆発的な増加がある。情報の増加にともない、ユーザーが一つひとつの情報に接する時間がかなり短くなっている。そのため、メッセージを的確に届けるためには、一人ひとりに合わせたコミュニケーションを実現する必要がある。その煩雑で膨大な作業を自動化する、その手段がMAツールなのだ。MAツールを使用するかどうかは「どのくらいのシナリオがあるかで変わります。週に1回一斉にメール配信する程度であれば、メール配信ツールでも十分でしょう」と池田氏は語る。
マーケティング活動で得られた顧客リストから、商品やサービスに少し興味を持っている人を集める「リード・ゼネレーション」を行う。そこからより購買意欲を高めてもらうための「リード・ナーチャリング」を行う。その結果に対しスコアリングをする「リード・クオリフィケーション」を実施する。この一連の中で、最初に得られる顧客リストの数がかなり多い場合は、MAツールが有効だ。
MAツール活用の3ステップ
MAツールの活用は、3つのステップで取り組むことになる。ステップ1では、プランを立てる。ゴールを設定してそのためのシナリオを整理し、どのようなシナリオがあるかを明らかにする。さらにそれぞれのシナリオを実施した結果を、KPIを決め管理する。ステップ2ではそれをMAツールにインプリし、ステップ3ではそれを使ってマーケティングのPDCAを回すことになる。
ポップインサイトの場合のステップ1では、ユーザーテストを使ってもらうためのプランを立て、シナリオを作る。最初からいきなりユーザーテストをしたいと考えている人は少ない。そこで、まずは現状の課題感から必要性を訴求していく。そのためのシナリオの1つに「アクセス解析シナリオ」がある。アクセス解析に限界や課題を感じている人に向けたシナリオだ。他にも「プロトタイピングシナリオ」や「提案力アップシナリオ」なども考えられる。
アクセス解析シナリオは、アクセス解析を行いその結果を見ても、そこからどうして良いかがわからない顧客が対象だ。アクセス解析を結果から、Webサイトのどこにどのようなアクセスがどれくらいあったかがわかっても、なぜそうなったかの原因がわからない。それでは、Webサイトの改善は行えないのだ。そこで原因から課題を見つけ出すためにユーザーテストを実施する。ユーザーテストならばポップインサイトだ、というシナリオを構成するのだ。
シナリオ作りと管理のポイント
「このようなシナリオをいかにたくさん作り、管理するか。それを、MAツールで行います。MAツールでは、カスタマージャーニーを作って管理します」と池田氏。しかし抽象的で細かすぎるジャーニーマップを作ると、1つのシナリオを整備するだけで力尽きてしまう。そのため、比較的簡単なシナリオを数多く作り管理するほうが、MAツールの威力は発揮しやすいと指摘する。
シナリオ作りには、まずは製品やサービスの売り方を見出す必要がある。その際には手元にあるユーザーデータの整理、営業や店舗、顧客サービスの担当者へのヒアリング、さらには顧客へのヒアリングを行うと良い。それらの結果から、複数のシナリオを生み出すようにするのだ。
多角的にコミュニケーションをとる
シナリオをもとに顧客とのコミュニケーションを実践するには、様々なコンテンツを用意する必要がある。その際に1つのメッセージに対し1つのコンテンツを作って終わりだと、なかなか顧客にメッセージが伝わらない。「手を変え品を変えして、伝えていくことが大事です」と池田氏。同じことを異なる角度から表現する。それにより、顧客に納得感が生まれる。
結果の評価は、シナリオごとにKPIで見ていく。実際にはシナリオパターンごとに、どのくらいの成果が上がったかを数値で確認することになる。その際にはデジタルのオンライン・コミュニケーションと、セミナーや電話などのリアル・コミュニケーションを分けることも重要だ。
KPIの設定まで準備できれば、ステップ2のMAツールへのインプリに移行する。SATORIではリード獲得、育成、抽出、そこから商談化・追客、全体最適化までを管理できる。リード獲得では「そのうち顧客」「今すぐ顧客」を分けて考える。
MAは広告の無駄もなくせる
異なるルートでメッセージを伝える手段の一例としてポップインサイトが実際に行っているのが、ブラウザポップアップとプッシュ通知だ。Webサイトを閲覧していてユーザーがスクロールを行うと、ポップアップを表示する。また、サイトを訪れたユーザーから許可を得ることでブラウザ上にプッシュで通知を送れる機能も利用している。ポップインサイトの実績では、ポップアップは数%程度がクリック。プッシュ通知も1%程度が許可し、うち20%程度がクリックしてくれる。「たとえば、プッシュ通知をクリックしてくれたら次にどうするかをシナリオにし、MAツールで管理します」と池田氏は説明する。
MAツールの活用は顧客体験を向上するだけでなく、マーケティングコストの削減も実現できる。たとえばGoogle検索の1回目の広告に反応したユーザーがWebサイトを訪れ、ポップアップやプッシュ通知を表示してコンバージョンがあれば、以降はそのユーザーに繰り返して広告を表示する必要はなくなる。これで広告の無駄をなくせるというわけだ。
キラーコンテンツから優良顧客をあぶり出す
より優良な顧客をあぶり出すには、キラーコンテンツを用意すると良いとも話す。「たとえばキラーコンテンツを見てくれたら、すぐにポップアップやプッシュ通知を行います。さらにはそこからすぐに、電話をかけアプローチするのです」と池田氏。
これはスコアリングの1つの方法で、キラーコンテンツ閲覧のスコアを高くすることになる。コンテンツを見た結果をMAツールに記録すると同時に、MAツールの機能でトリガー通知を行い営業担当が電話をかけるのだ。その上で、電話でコンタクトした結果もMAツールに再び入力できるようにしておく。このような地道な活動の繰り返しでデータを蓄積すれば、どのシナリオが効果的だったかが明らかになる。
シナリオの実践の結果を理解するためにリサーチを行う
ステップ3では、インプリされたMAツールを活用してマーケティングのPDCAを実際に回す。MAツールがあればシナリオを実行し、結果を定量的な数値で比較することが容易となる。とはいえ、実施したシナリオごとに結果が異なるのがなぜかまではわからない。それを明らかにするには、定性的な分析が必要になる。それには、顧客データベースに登録されている人たちに直接リサーチをかけると良いと池田氏は言う。リサーチは、SATORIの機能で簡単なアンケートをとることもできる。あるいは電話をかけ、直接顧客の声を聞くなども有効だ。謝礼などを用意し、信頼性の高いリサーチをすることが鍵となる。実際ポップインサイトでは、自分たちでは当たり前だと思いこんでいたところでユーザーに躓いていたことが、電話インタビューによって明らかになった。
最後に池田氏は、3つのポイントを整理した。1つめはシナリオをできるだけ多く見出し、たくさんのパターンのマーケティング活動を自動化するのがMAツールの役割と言うこと。2つめはシナリオの中で利用するコンテンツも、1つのメッセージに1つではなくなるべく数多く用意し、手を変え品を変えてコミュニケーションするのが有効だと言うこと。そして3つめが、複数シナリオを効果的に運用するには、MAツールに実装し効率的な管理をすることだ。これらを実践する人材が社内で確保できるならば、SATORIのようなMAツールを導入しすぐに有効活用できる。もし社内に人材がいなければ、ポップインサイトではコンサルティングサービスでサポートできる体制も用意しているとのことだ。