“データは等しく価値がある”という誤解
マーケティング領域では常に、バズワードが次々と生まれている。一瞬で消えてしまうものもあれば、検索やクラウド、オムニチャネルなど、“バズ”で終わらずそのまま浸透していくものもある。「ZETA CXシリーズ」としてサイト内検索エンジン「ZETA SEARCH」やレビューエンジン「ZETA VOICE」を提供し、10年以上にわたりEC事業を支援してきたZETAの代表を務める山崎徳之氏は、そうしたバズワードの中で改めて「ビッグデータ」に焦点を当てる。
背景のひとつには、この数カ月におけるグローバルでの潮流がある。7月のRIZE(香港)、9月のParis Retail Week(フランス)、そしてdmexco(ドイツ)といったマーケティング関連のカンファレンスに参加した山崎氏は「『データへの回帰』という潮流を強く感じた」と話す。しばらくAIがバズワードになっていたが、それが踊り場に差し掛かり、AIを使って分析する対象であるデータの重要性に改めて注目した意見が目立ったという。
「グローバルのトレンドとしてデータに戻りつつあることは、ZETAが創業当時からデータを重視してきた姿勢とも重なるので、今回の講演で深堀りしたいと考えました」
前述の「ビッグデータ」は数年前に注目されたが、現状ではそこまで定着した感はない。ビッグデータにはもちろん有用性があるが、「データの価値はすべて等しい/膨大なデータをすべて活用しよう」といったそのアプローチが少しミスリードだったのでは、というのが山崎氏の見方だ。
AIが包丁ならデータは食材、現状での料理は出尽くした
マーケティングに統計学は有効だが、イコールではない。人の心を知り、動かそうというマーケティングに使うなら、当然ながら重視すべきデータとそうでないデータがある。つまり、すべてのデータは等しく価値があるという見方は必ずしも適用できず、あまり大きな成果は見込めないのだ。
「膨大なデータを100%活用しなくても、70%でも65%でもそこは柔軟にいくのが、マーケティングにおけるデータ活用の正しいあり方でしょう」と山崎氏。
同時に、現在のデータ活用はAIと切っても切れない、合わせ鏡の関係にある。確かにAIは3年ほど前にディープラーニングが登場し、複雑な画像の解析が可能になったことをきっかけにブームが起き、人材や資金の流入や企業の新規参入も増えて市場が発展した。だが、逆にいえばディープラーニング以降、画期的な技術は生まれていない。
「AIは道具なので、次に画期的な道具が登場しない限り、この踊り場を抜け出せないとみています。AIを包丁だとすると、この包丁でつくれるおいしい料理はもう出尽くした。でも、もし食材がバージョンアップすれば、また新しい料理が生まれます。その期待の下、本当にマーケティングに使えるデータから有益な情報を汲み上げようとする流れが生まれてきているのです」
では、その“汲み上げ”とは、有象無象のビッグデータを100%使って分析するのとは具体的に何が違うのだろうか? ポイントは、データの構造化だ。